イギリスの若者のあいだでクイズ本と聖書が大流行…「クイズ」と「新しい信仰」の意外な共通点

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クイズと聖書に共通するものは?

……と聞かれてもなんのこっちゃと思うだろうが、そこに現代におけるノンフィクションの苦境脱出へのヒントがあるかもしれない。

英国の出版産業は輸出等も含めた総売上高では2023年に71億ポンド、2024年には約72億ポンドと堅調だが、私たちが書店で目にするような「国内の紙の書籍市場」全体では微減傾向にある(2025年で約18.1億ポンド)。

フィクションはBookTokの影響もあって好調なのだが、市場の4割強を占めるノンフィクション部門が近年売上の減少がつづく。

ただ、フィクション以外の分野がすべて苦境かというとそうではない。

そう、クイズ本と聖書の売上が急増しているのである。

クイズ人気がますます高まるイギリス

先に断っておけば、英国内のノンフィクション市場は2025年に約7億9,100万ポンドなのに対し、聖書は630万ポンド、クイズ本を含む「ユーモア・トリビア・パズル」カテゴリーは2024年秋時点で約1000万ポンドと、シェアは決して大きくない。

ただ前年比2割前後の成長を叩き出していることから「何が起こっているのか?」「低迷する市場が参考にできる部分があるのでは?」と注目されている。

英国はもともとクイズがさかんな国だ。

たとえばパブやバーでチーム戦で競う「パブクイズ」が1970年代から行われている。2020年代初頭のコロナ禍の時期には、リアルで人が集まれなくなったことでオンラインでのバーチャル・パブクイズが流行した。

また、日本でもそうだがアナログゲームの楽しさが再発見され、ボードゲームその他の売上も伸びていた。

そこに投下され、カテゴリー全体の売上を爆発させたのが2023年発売のG・T・カーバーによるミステリー論理パズル本『Murdle』だ。同書は大ヒットして2024年には英国の「Book of the Year」を受賞。

また、TV番組『The 1% Club』など人気のテレビ番組の関連本や、『The Rest Is Quiz』などのポッドキャストから派生した書籍も売上を牽引している。

(日本ではポッドキャストでクイズ番組が流行っている印象はないのだが、英国ではポピュラーなものになっている)

英国での最近のクイズのトレンドとしては、昔ながらの知識を問うものだけでなく、事前知識がなくても参加できる論理パズルや脳トレ的なものが、とくに若い世代を中心に人気になっているようだ。

また、「本」ではあるものの、英国諜報機関GCHQが出版した暗号・パズル本(そんなものがあるのだ)には期限付きで解答を募集する問題が収録されるなど、読者が謎解きイベントに参加する感覚で楽しめるつくりのものもある。

クイズ本はもともと「読む」というより「解く」ものだが、その参加・体験要素が時代にマッチして支持されている。

キリスト教徒は減っているのに…

一方の聖書はどうか。

英国における聖書の売上は2019年から持続的に増加している。

2025年の売上高は2019年比で134%増となり、こちらもやはり記録が始まった1998年以来で最高の売上となった。

売上を主に牽引しているのは18〜24歳を中心とするZ世代だと見られている。

では、信仰を持つ若者が増えているのだろうか?

世界のなかにはそういう国もあるのだが、英国は違う。

・英国選挙調査(BES・2024年データ)では、キリスト教徒の教会出席者の割合は、2015年の8.0%から2024年には6.6%へと減少

・英国社会意識調査(BSA・2023年データ)では月1回以上教会に通う成人の割合は、2018年の12.2%から2023年には9.3%へと約4分の1減少

・国勢調査(2021年)では英国の国勢調査史上初めて、40歳未満のすべての年齢層において「無宗教」が「キリスト教徒」の数を上回る

といった状況だ。

自己啓発的な「映え聖書」の人気

では何が起こっているのか?

わかりやすいところでは、聖書そのもののデザインやフォーマットの変化が一因だとされている。

若い人たちの美意識にフィットするような美しくデザインされた「ジャーナリング・バイブル(余白に書き込みができる聖書)」が多数出版されて人気を博している。

聖書にメモを書き込み、ソーシャルメディアにシェアするのだ。

つまり「映え聖書」がBookTok、Bookstagram文脈と接続されている。

たとえばよくある「開封動画」の聖書版で「見て、これすごく可愛い!」と紹介する動画が無数に投稿され、ものによっては数百万回も再生されている。

下の世代は伝統的な宗教、教会にはあまり関心が向かないが、メンタルヘルスへの取り組みの延長として個人でのスピリチュアリティへの取り組みは高まっているとする調査もある(ただ、こういう「信仰にはポジティブな効果がある」「若者は宗教心にめざめている」みたいな結果を打ち出している調査の多くはキリスト教系の団体や著者が調査会社に依頼したものなので、割り引いて見る必要はある)。

デザイン性の高い聖書が人気ということで、聖書市場の増加は「客単価」の増加が支えているのかと思いきや、内訳を見ると「部数」も伸びている。

逆に、伝道活動で配るための安価な聖書販売のマーケティングに取り組む出版社もあり、こちらの影響のようだ。

現代における聖書のラインナップや販売方法は、ターゲットに合わせて非常に多様化している。

世界最大のキリスト教出版社であるZondervanやThomas Nelsonは、欧米の超大手出版ビッグ5の一角を占めるHarperCollins傘下にあり、セグメントごとに対応したマーケティング施策や販路開拓はお手のものだ。

ジャーナリング・バイブルにしても大量購買・大量配布にしても、自らの活動をSNSに投稿し、他者に認めてもらいたいという欲求と少なからず結びついている。

おそらくは「静かにひとりで聖書と向き合う若者が増えている」ということではない。

つながりは求めているのだが、かといって伝統的・制度的な教会コミュニティが中核になっているかというと、必ずしもそちらの求心力が増しているわけでもない。

「クイズ本と聖書」人気の共通点

クイズ本と聖書の人気の共通点を考えると

・本に向かって手を動かす、考える、書き込む「体験」

・番組やソーシャルメディア上のコミュニティへの「参加」

・活動や達成によって他者から得られる「承認」

になる。

一方的に書き手や出版社が読者に「伝える」のではなく、読者側がコミットできる余地があり、そしてそうして行動してくれた読者を送り手側なり読者同士が評価し、認める場があるほうがいい。

伝統的なノンフィクションジャンルの書籍にも、こういったしかけ、しくみを増やしていけるかどうかが、今後V字回復できるかにかかっているのだろう。

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