株価5万円超えのキオクシアのウラで同年上場の東京メトロは…「2大IPO」明暗の深層

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2024年2大IPO銘柄といえば…

2024年秋から冬にかけて、東京市場は20年に一度クラスの大型IPOラッシュに沸いた。10月には都民の誰もが乗ったことがあるであろう東京メトロが、12月には純国産メモリ企業キオクシアホールディングスが、相次いで東証プライムに上場した。

当時、市場の見立てはほぼ正反対だった。「安全資産」「潰れない」などと称された東京メトロは個人投資家が殺到する超人気IPOとなった。

一方キオクシアは、前身が不正会計で経営危機に瀕したこともある東芝グループだったこともあり、「そんな会社の作る国産半導体にもう未来はない」というあきらめムードが半ば漂っていた。想定時価総額1.5兆円が引受時に7,500億円規模まで圧縮されただけでなく、初日は公開価格割れという苦い門出となった。

ところがその後、両社の株価は期待と反比例するような推移を辿ったのである。

4年がかりの「不人気」上場

キオクシアの上場は、これが初挑戦ではなかった。2020年に一度上場を延期し、その後も米中対立や半導体市況の悪化で計画は二転三転していた。

「東芝メモリ」から独立したキオクシアは、米ベインキャピタル主導のコンソーシアムで再建されたものの、巷では長らく「中国メモリにシェアを奪われる斜陽企業」と見られてきた。

日経平均がバブル後高値を更新するなかでの上場ながら、機関投資家は警戒しており、個人投資家もIPOは見送ろうとする意見が多かったというのが当時、筆者が感じていた雰囲気だ。

そもそもキオクシアの原点である東芝のメモリ事業は、2017年に親会社・東芝の経営危機に伴って分離売却された経緯がある。

公募価格1455円が約5万円に、約35倍上昇の衝撃

しかし、その後の1年半で景色は一変する。2026年3月の終値水準は約2万円。公募価格からは約13倍になった。そこからもキオクシアの快進撃は止まらない。

足元の時価総額は5月時点で約25兆円まで膨らみ、東京エレクトロンを抜いて上場電機セクターでトップに躍り出たのだ。

*なお、5月20日の終値は51,290円となった

これは、トヨタ自動車(時価総額約53兆円)に次ぐ国内大型株の一角で、三菱UFJ・ソフトバンクGに次ぐプライム4位の規模だ。「国産半導体は終わった」と冷笑されたキオクシアが、わずか1年半で日本市場を席巻している。

公募で当選した個人投資家のなかには、上場直後に1,500円前後で見切り売りした人も少なくない。

その株がいま約35倍、手放したことを後悔した銘柄ランキングがあれば、多くの投資家が一位に挙げることだろう。当時のIPOで人気がなく、引受け証券から「割当てが余っている」と勧められて渋々、ないしはネットの評判を知らないままに応じた個人が、結果的に最大の勝者になったという皮肉エピソードが渦巻いていることだろう。

反面、冴えない東京メトロ

対する東京メトロのIPOは滑り出しまでは好調だった。公募価格は1,200円、初値1,630円(公募比+5.8%)で着地した。証券口座を新規開設してまで申し込んだ個人投資家も多く、「優待・配当・成長」の三拍子そろった超優良IPOとして話題をさらった。

日本最大級の地下鉄ネットワークを運営し、国と東京都が筆頭株主に名を連ねる事実上の国営企業発というブランドは、株式投資の初心者層にも刺さりやすい設計だった。

しかし、初値以降の値動きは冴えない。2025年4月にいったん2,125円の年初来高値をつけたものの、その後は下落に転じ、2026年5月1日には1,492円まで沈み、上場初値1,630円を大きく割り込んでいる。

公募価格に対してはまだプラス圏を維持しているが、初値で買った投資家から見れば1年半含み損のままだ。東京メトロの時価総額は約9,400億円。キオクシア(約25兆円)の30分の1にも届かないところまで差が広がった。

キオクシアと東京メトロ、両者の差はもはや企業として並べて議論するレベルではない。

冷笑ムードを覆したAIデータセンター需要

キオクシア急騰の最大の原動力は、AIデータセンター向けNAND型フラッシュメモリ需要の爆発だ。

NANDメモリとは、スマートフォン、PC、サーバーのSSD、さらには車載まで、デジタル社会の記憶装置として広く使われる。これまでスマホ需要の鈍化と中国メモリ企業の台頭で不況な業種とみなされてきたが、生成AIの普及で局面が一変した。

AIの処理は膨大な読み書きを伴う。海外ではサムスンなどが先に脚光を浴びたが、AIサーバーの土台となる大容量メモリ、つまり"キオク"の需要爆発は必然だった。

実際のところ、5月15日に発表されたキオクシアの2026年3月期通期決算では、第4四半期(1-3月)の「SSD&ストレージ」領域の売上収益が6,003億円と、四半期ベースで過去最高を記録した。

同期の通期業績は、売上収益2兆3,376億円(前期比+37%)、Non-GAAP営業利益8,762億円(同+93%)で、同社初の売上2兆円超え、営業利益も過去最高を更新した。

サンディスクの株価高騰も追い風となり、キオクシア株は今やグローバル市場で戦えている半導体関連企業の一軍銘柄として認知されつつある。

さらに衝撃的なのは、来期見通しだ。キオクシアは2027年3月期の通期計画こそ開示を見送ったものの、第1四半期(4-6月)予想として売上収益1兆7,500億円、営業利益1兆2,980億円(営業利益率74.3%)を提示した。たった3カ月で、前期通期の営業利益(8,762億円)を上回る計算である。この流れを1年通期に引き伸ばせば純利益は2兆8,000億円規模に達するとの試算もあり、営業利益はついにトヨタ自動車を射程に捉える水準まで来ている。半導体メーカーが日本企業の利益ランキング最上位を脅かす展開は、歴史的にも稀有な光景だ。

「安全資産」が金利上昇に負ける?

一方の東京メトロは、なぜ沈んだのか。

業績自体は決して悪くない。2026年3月期は旅客運輸収入の回復で増収、退職給付制度改定益の計上で純利益は増益となった。

そもそも、東京メトロのIPOはアフターコロナ間もないゼロ金利時代の延長線で「配当3%台+安定インフラ+優待」という点で人気を集めた。

しかしその後、日銀の金融政策正常化もあって、日本国債10年利回りは大きく上昇し、定期預金の金利も復活した。東京メトロが提供する2.6%前後となった配当利回りの魅力が剥がれ落ちた。

業績が堅調でも期待先行のIPOからの調整がいまだに続いている構図だ。JR各社や民鉄大手と比較しても明らかに割高な水準でのスタートであり、長らくインフラ株を保有してきた層から見れば「高めに買わされた優等生」という見え方になっている。

「裏切られない」という安心が、株式市場では「サプライズも来ない」という意味と表裏一体となっている。

投資の基本原則に立ち返る

キオクシアと東京メトロが示したのは、IPOの世界における逆説である。「みんなが買いたい銘柄」は、すでに割高だ。逆に「誰も買いたくない銘柄」には、市場が見落とした構造的な追い風が隠れていることがある。

ただし、期待ゼロから出発したキオクシアは、いまや日本トップ4の超大型株となり、PBRは10倍を超える領域に踏み込んだ。これからは「過剰な期待を裏切らない」というハードモードが続く。半導体市況がいったん反転すれば、これまで上向きだった巨大な振り子は、そのまま逆向きに動くだろう。

誰も期待しなかった企業がみんなが期待する企業に変わった。キオクシアにも東京メトロと同じかそれ以上の試練が訪れるだろう。

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