伯爵が愛したトポリーノ フィアット500 ブルー/ブラックのレーシングカラー 後編
オリジナル状態を保っていたトポリーノ
英国のクラシックカー・オーナーを支える、ビスター・ヘリテージ社の創設者でCEOを務めるダン・ジオゲガン氏が、ブルーとブラックのフィアット500 C トポリーノを発見したのは2016年。RYF 858のナンバーをぶら下げていた。
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「状態の悪くないマイナー・トラベラーがあると聞いて、ウィートリーという町を訪ねた時でした。そのオーナーは、ほかにもう1台、保管してあると切り出したんです」。とダンが振り返る。

フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)
第5代ハウ伯爵のツートーンカラーが残っていた小さなフィアットは、乾燥されたガレージに眠っていた。数10年放置されていたが、ライトグリーンのシートやナンバープレートに至るまで、完全なオリジナル状態を保っていたという。
「飛び石傷や塗装の風合いも含めて、できるだけ本来の状態を保とうと思いました」。とダンが振り返る。
それでもソフトトップは傷み、バンパーも錆びていた。「サンルーフは交換し、バンパーはクロームメッキし直しています。エンジンのリビルドには多くの時間を割きました。機械的に手を加える必要がありました」
現在のエンジンルームは、見事な状態を取り戻している。当時と同じレッドにブラックの模様が入った点火コードや、カクテルシェーカーのようなブレーキのリザーバータンクが、落ち着いた色彩のなかで主張する。
ラジエターが高い位置にあり、約20L入る燃料タンクの両脇を通って、温かい空気が車内へ導かれる。ガソリン補給には、ボンネットを開く必要がある。
ナンバープレートが不自然に大きく見える
全長は短いものの、ボディのプロポーションは均整が取れている。車内にはバックミラーと室内灯、サンバイザー、遠隔で動かせる換気用のフラップなど、当時の小型車の水準を超えた装備が整っている。
ソフトトップには、充分な大きさのリアウインドウも備わる。共通規格のナンバープレートが、不自然に大きく見える。

2016年にフィアット500 C トポリーノが納屋から出される様子
このトポリーノは、1949年に登場した後期型の500 C。最高出力は16.5psへ上昇しており、恐らく最高速度は現実的に95km/h程度出るだろう。角ばったフロントノーズのデザインと、テールライト、バンパーのオーバーライダー、ウインカーなどがCの特徴だ。
シャシー側では、1948年から1949年という短期間に提供された、中期の500 Bと多くを共有している。オーバーヘッド・バルブのエンジンや、リーフスプリングのサスペンションなど。重力式ではなく、機械式の燃料ポンプはCだけの装備となる。
リアヒンジのドアは、大きく開き乗り降りしやすい。横方向の空間を広げるべく、内装パネルが凹型にくびれている。
オリジナル状態のバケットシートは、見た目以上に座り心地が良い。足元の空間は限定的で、クラッチやブレーキのペダルを踏もうとすると、慣れるまでは足がステアリングコラムとぶつかりがちだ。
キーを挿しイグニッションをオンにし、スターター・ノブを約10cm引くと、569ccエンジンが目を覚ます。一連の手順が好ましい。
ドライバーの努力が走りとして返ってくる
トポリーノの運転に、難しいと感じる部分はない。ドライバーの努力が、走りとして返ってくる。軽く回せ正確なステアリングホイールは、驚くほどクイック。小さなイタリア車らしく、見た目通り活発に扱える。ゴーカートのように小気味いい。
直列4気筒エンジンは滑らかに回転し、低い速度域でも粘り強い。短いホイールベースにも関わらず、乗り心地は落ち着いている。4速に入れても、ギアが鳴くノイズは聞こえてこない。

フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)
長く簡素なシフトレバーを前後に動かせば、3速と4速を躊躇なく行き来できる。だが、2速へ落とすには走行速度とエンジンの回転数を合わせる必要がある。1速のギア比は、アルプス山脈の道を前提に低い。
公道ラリーのミッレ・ミリアで、このトポリーノをドライブした勇敢なドライバーを讃えたくなる。リアエンジンになった1957年のフィアット・ヌオーバ500のような、実直な機械感とは一線を画すとはいえ。
初代オーナーのハウ伯爵は、このトポリーノでロングドライブも嗜んだ。第二次大戦時は、グレートブリテン島の北部、グラスゴーの駐屯地まで別のトポリーノで向かった。高速で運転し、レーシングドライバーだということを知らしめたとか。
現在の交通環境では、トポリーノを普段の足にすることは簡単ではない。エンジンはうるさいし、運転席からの視界も良くはない。クルマのサイズは大幅に異なり、横に並ばれるだけで恐怖を感じることもある。
伯爵の3台で唯一生き残ったトポリーノ
見事に復活を遂げた、ハウ伯爵のトポリーノ。彼が所有した3台では、唯一現存する車両だと考えられている。
ハウ伯爵が生きた時代の道は、おおらかだった。それでも、ロンドン中心部を運転するたびに、後方視界の悪さには悩んでいたと想像するが。

フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)
信頼性は、いまひとつだったようだ。伯爵の娘は、お抱え運転手が小さなクルマを押しがけする様子を、何度も目にしたとか。ロンドンに保管していた2台のうちの1台は、バックアップ用だったのかもしれない。
カーゾン・ストリートの自宅からバッキンガム宮殿の前を抜け、ザ・マルという通りへ出る。この直線で、彼は70km/h近くまで加速させたかもしれない。サイドバルブ・エンジンのフォードや、大排気量のデイムラーを追い越しながら。
レーシングカーのようにヒール&トウで2速へ落とし、パーラメント・スクエアの横を通過。貴族院がある、ウェストミンスター宮殿へ向かったに違いない。
フィアット500 C トポリーノ(1936〜1954年/英国仕様)のスペック
英国価格:575ポンド(新車時)/4万ポンド(約700万円)以下(現在)
販売台数:51万9646台(合計)
全長:3181mm
全幅:1276mm
全高:1346mm
最高速度:93km/h
0-80km/h加速:37.8秒
燃費:15.9-19.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:610kg
パワートレイン:直列4気筒569cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:16.5ps/4400rpm
最大トルク:3.0g-m/2900rpm
ギアボックス:4速マニュアル/後輪駆動
