トランプ氏と習近平氏、きょう北京で首脳会談…関係安定へ「貿易」「イラン」「台湾」「AI」など議論へ

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 米国のトランプ大統領と中国の習近平(シージンピン)国家主席は14日、中国・北京で首脳会談に臨む。

 米中間の貿易やイラン情勢、台湾、人工知能(AI)の問題などが議題になる見通しだ。世界情勢に大きな影響を与える米中関係は安定に向かうのか注目される。

米中 国内経済に配慮…貿易

 貿易は、主要議題の中では米中の思惑が重なる数少ない分野で、貿易戦争の「休戦」の延長など双方が会談の成果を演出する舞台となりそうだ。

 米中両国は2025年4月、トランプ関税の旗印だった「相互関税」をきっかけに対立が激化。関税率は一時100%を超えた。中国は対抗措置の一環で、世界生産の7割を占めるレアアース(希土類)の輸出規制にも踏み切った。

 ただ、双方の国内経済への悪影響は無視できず、10月の韓国での首脳会談で「休戦」に転じた。1年間の期限付きで双方が追加関税の一部を停止し、中国はレアアース輸出規制のさらなる強化を凍結する合意内容だった。

 背景には双方の国内事情がある。中国は不動産不況の長期化で内需が低迷し、26年の成長率目標を引き下げた。国別で最大の貿易相手である米国との対立再燃は避けたいのが本音だ。

 米国もトランプ関税に対する違法判決が続き、中国を新たに揺さぶるための手札は見当たらない。

 両政府は会談で緊張緩和をアピールする模様だ。米ホワイトハウスは10日、貿易促進策を協議する「米中貿易委員会」の設立を検討すると発表。投資に関する議論を行う「米中投資委員会」の設置も念頭に置く。当初参加者リストに入っていなかった米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアン氏を含む米経済界の大物十数人も同行させ、対中ビジネスの安定を狙うとみられる。

 もっとも、貿易面では中国に分があるとの見方もある。国内で支持率が低迷するトランプ氏は今年11月に中間選挙を控え、成果を急いでいる。

 習氏がトランプ氏の思惑を見透かし、米国産大豆の輸入拡大や米ボーイングの航空機購入を交渉材料に、台湾問題などで譲歩を迫る可能性もある。

海峡封鎖 双方とも影響 米、中国の働きかけ期待…イラン

 手詰まり状態にあるイラン情勢は、首脳会談の焦点の一つとなる。トランプ氏は12日、中国への出発に先立ち、「長時間話し合うつもりだ」と述べた。

 背景には、米国とイスラエルが2月下旬に対イラン軍事作戦を開始してから、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、米中とも影響を受けていることがある。

 米国ではホルムズ海峡封鎖の影響で、ガソリン価格は高騰し、トランプ氏の支持率も下落するなど、国内的に厳しい立場に追い込まれている。記者団には、イラン情勢に関して習氏の支援は「必要ない」と強がったものの、次の一手を欠いている状態だ。イラン産原油の最大の買い手である中国の影響力への期待は大きいとみられる。

 中国にとってもイラン情勢は対岸の火事ではない。中国は国内で使用する原油の7割は輸入に頼っており、このうち半分以上を中東産原油が占めるとされる。習氏が4月、サウジアラビアの皇太子との電話会談で、ホルムズ海峡の航行回復の重要性を指摘したように、経済的な打撃が大きい海峡の封鎖は、中国にとっても望ましい事態ではない。

 米国務省は12日、本紙の取材に対し、米中外相が事実上の封鎖が続くホルムズ海峡を含む国際海峡での通航料の徴収に反対することで合意したと明らかにした。14日の会談でも首脳間で確認し、中国側もホルムズ海峡の航行の自由については協議するものとみられるが、中国がイラン情勢にそれ以上の深入りをするとの見方は薄い。

 カート・キャンベル前米国務副長官は「中国は中東問題に巻き込まれることを警戒している。イランに圧力をかけるよう求めるトランプ氏の要請を受け入れないだろう」との見方を示した。

トランプ氏の「譲歩」懸念…台湾

 台湾問題を巡ってはトランプ氏が習氏の求めに応じ、自らの利益と引き替えに譲歩するのではないかとの疑念がくすぶる。

 米国の基本的な立場は、中国が「台湾は中国の一部」と主張している事実を「認識」するというものだ。中国が主張する内容について肯定も否定もしない表現で、あくまで平和的解決を促すスタンスだ。

 中台関係を不安定にする「台湾独立」は支持しないが、中国による強制的な統一にも反対する。台湾関係法に基づき、台湾への武器の売却を続けるとともに、中国をけん制するため台湾有事での米軍介入は明言しない「曖昧戦略」を維持する。

 第2次トランプ政権は昨年12月、過去最大規模の総額111億ドル(当時のレートで約1兆7000億円)の台湾への武器売却を決めた。米国の台湾政策の基盤の一つである「六つの保証」では台湾への武器売却について、中国と事前協議をしないことなどを台湾に約束している。

 それでもトランプ氏は、今回の首脳会談で習氏と武器売却を協議すると表明した。「ガラス細工」(米台外交筋)と呼ばれるほど繊細な米国の台湾政策の機微にトランプ氏が注意を払っている節はみえない。実質的に武器売却を滞らせるような発言や姿勢を示せば、習氏に恩を売ることもできる。

 中国側は、米国の台湾政策を巡る文言の変更を画策していると指摘されている。具体的には、台湾独立については「支持しない」から「反対する」に、中台問題については「平和的解決」から「平和的統一」への変更だ。

 ルビオ国務長官は台湾政策に「変更はない」と繰り返し表明するが、トランプ氏が会談でどう発言するかは予測不能だ。

加速する開発 対話を模索…AI

 急速に進化するAIは世界で安全保障上の脅威となりつつある。技術覇権争いを繰り広げる米中両国は今回の首脳会談を機に協調分野を見定め、政府間対話の開始を模索する。

 具体的には、AIに関して継続的な対話を行う協議体の設立で一致できるかが焦点となる。

 両国は23年11月にもAIに関する対話の開始で合意した経緯があるが、それから約2年半の間にAIは飛躍的な進化を遂げ、状況は様変わりした。中でも、米新興企業アンソロピックが今年4月に発表したAIモデル「クロード・ミュトス」が世界に波紋を広げている。システムの脆弱(ぜいじゃく)性を発見する能力が極めて高く、サイバー攻撃に使用されるリスクが一気に高まったためだ。

 AI領域は米国が先行するものの、中国が猛追し、14〜23年の特許出願数でみれば約7割を中国勢が占める。世界をリードする両国が無秩序にAI開発を加速し、非国家組織などに悪用されれば世界に混乱をもたらしかねない。このため、両政府はAIのリスクに目を向けた政府間対話を開始する可能性がある。

 AIの性能を左右する先端半導体の議論も避けられない。

 米国は、世界で圧倒的なシェア(占有率)を持つ米エヌビディアの先端半導体の輸出を規制し、中国製AIの性能向上を抑えこもうとしてきた。中国側は科学技術の「自立自強」を掲げるが、先端半導体の製造では後れを取っている。

 米国がAIの安全性確保の面では協調を求める一方、先端半導体の輸出規制を通じた封じ込めを継続すれば、中国側が反発を強める可能性が高い。AIを巡る実効性のある対話が実現するかどうかは、まだ見通せない。

協調と対立 繰り返し

 トランプ氏と習氏の対面での首脳会談は過去に6回ある。会談のたびに協調を演出し、その後対立する展開を繰り返してきた。

 初回は、第1次トランプ政権発足から間もない17年4月。米フロリダ州にあるトランプ氏の別荘「マール・ア・ラーゴ」に習氏が招かれた。北朝鮮の核・ミサイル問題などの協力を深めることなどで一致した。

 7か月後の17年11月にはトランプ氏が訪中した。習氏夫妻が北京の世界遺産「故宮」にトランプ氏夫妻を案内し、もてなした。米中両国の企業が総額2500億ドル(当時のレートで約28兆円)の商談もまとめた。

 だが、融和ムードは急速にしぼんだ。米政権は翌12月に公表した国家安全保障戦略で中国を「戦略的競争相手」と位置づけ、18年には中国の不公正な貿易慣行などを理由に追加関税を発動した。中国も報復し、貿易摩擦が激化した。北京で合意した商談も拘束力はなく、うやむやになった。

 19年に大阪で行われた主要20か国・地域(G20)首脳会議に合わせた米中首脳会談で、トランプ氏と習氏は中断していた貿易協議の再開で一致。翌20年には「第1段階合意」に至り、中国が米国の工業製品や農産品の輸入を大幅に増やすことなどが発表された。しかし、ほぼ同時期に感染が拡大した新型コロナウイルスを巡り、トランプ氏が「中国ウイルス」と呼んで非難し、米中関係はまた険悪になった。

 25年の第2次トランプ政権発足後も同じ展開をたどる。米側の「相互関税」に中国側がレアアース(希土類)の対米輸出規制で報復するなど、双方は激しく対立。その後、韓国での首脳会談で「休戦」状態に入った。14日の北京での首脳会談も関係を安定させることを優先するとみられるが、融和局面がいつまで続くかは予断を許さない。

トランプ氏 首脳外交最優先…元米国家安全保障会議中国・台湾担当上級部長 サラ・ベラン氏

 米国のトランプ大統領がイラン情勢が決着しない中で訪中に踏み切ったのは、中国の習近平(シージンピン)国家主席との外交を最優先しているからだ。

 米国は、中国からのレアアース(希土類)の安定供給を維持するために、本質的に対中関係を安定させる必要に迫られている。トランプ氏が自身の訪中後、11月の中間選挙までに、習氏訪米を実現させたいと考えていることもある。ホワイトハウスには、トランプ氏が北京を訪れた以上、対等な外交のために、習氏がワシントンを訪れるべきだという強い意見がある。

 一方、2027年の中国共産党大会を控えた習氏にとっても対米関係の安定は重要だ。国内に向け、自身が米国との関係を管理できることを示すとともに、経済成長などの自国の問題に集中する時間を稼ぐことができるからだ。

 つまり、米中双方が、首脳外交を通じて両国関係を安定させることに注力しているのだ。今回の首脳会談で、大きな成果が期待できるわけではない。中国による米国産農産物の輸入拡大や米ボーイング機の購入などが主な成果になるのではないか。

 ワシントン支局 向井ゆう子、坂本幸信、中国総局 吉永亜希子、照沼亮介が担当しました。