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警察庁が公表した「令和7年中における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について」によると、2025年中における警察取扱死体20万4,562体のうち、自宅で死亡した一人暮らしの者は7万6,941体で37.6%だったそうです。そんな中「老後ひとりの『最期の居場所』をみつけるのは難しい」と語るのは、住生活問題を専門とする追手門学院大学地域創造学部教授・葛西リサさんです。今回は葛西さんの著書『単身高齢者のリアル ――老後ひとりの住宅問題』より一部を抜粋し、単身高齢者の実態をお届けします。

【書影】こんなに難しい「最期の居場所」単身高齢者の住まいを保障する社会の仕組みを考える。葛西リサ『単身高齢者のリアル ――老後ひとりの住宅問題』

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高齢者のシェアハウスニーズ

2000年代半ばから急速に広がったシェアハウスの多くが、学生を含む20〜30代の単身者をターゲットとしたものであった。では、単身高齢者をターゲットにするのはどうだろうか。

実は、2000年代の後半には、ハードとしてのシェアハウスを準備せずに集住をアレンジするユニークな仕組みが登場している。一軒家で暮らす単身高齢者の家に、学生や若者をマッチングさせるという異世代ホームシェア、次世代型下宿と呼ばれる仕組みがそれにあたる。非営利組織を含む運営母体が、空室を提供したいオーナーと入居者を募り仲介する。

広い持ち家を持て余す高齢者にとっては、わずかながら家賃収入があり、若い世代と触れ合いながら、安心して住み続けられるというメリットがある。一方、若者にとっても低家賃住宅は魅力だろう。入居後も運営者が介入して円滑な集住を手助けするとあって、少しずつ利用者は増えているという。

一方で、賃貸住宅型の高齢者向けシェアハウスのニーズはないのだろうか。

あるシェアハウス事業者は、居住者との距離が近いため孤独死や自宅内事故は抑止できるかもしれないが、身元引受人等がいない場合、認知症や要介護になったときのリスクが大きいと指摘した。また、別の事業者は、若者がシェアハウスを仮住まい的に利用するのに対して、高齢者にとっては終の棲家となる可能性があり、物件を転用したり、撤退したりなど、柔軟な運営が難しくなることを懸念していた。特に、高齢者向けとなるとバリアフリー化など空間の配慮が必要でコストがかさむ割に、そのニーズが見えにくいことも課題である。

単身高齢者のための集住の仕組み

かつて九州圏の郊外住宅地にアクティブシニアと母子世帯のシェアハウスを開設した事業者は、数年で閉鎖に追い込まれた。地元高齢者向けに複数回開催したワークショップでは、「夫が亡くなり一人暮らしが寂しいので誰かと暮らしたい」「広い持ち家の管理が大変なので元気なうちに身軽な賃貸住宅に移りたい」という意見が多く挙がっていた。しかし、いざシェアハウスを開設してみると、持ち家を処分してまでシェアハウスに移る人はいなかった。

これについて事業者は、急な立ち退きで住居を失うなど、必要がある人のなかにはシェアハウスを選択する人もいるかもしれないが、持ち家層が自分でタイミングを決めてシェアハウスを選ぶというのは相当な勇気がいることだとし、「結局は、独居での生活が難しくなった段階で、施設やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に移る」という傾向は変わらないのかもしれないと振り返っていた。

一方で、ここ数年、筆者の周辺では、中高年向けのシェアハウスの必要性を聞く機会が増えた。例えば、関西圏で介護型のサ高住を運営する事業者は、介護が不要な60歳未満の単身者からの入居相談を受ける機会が増えたと話していた。年齢的に、一般の不動産会社では仲介をしてもらえないが、介護が不要なため、サ高住やその他の高齢者向け施設には入れない。他方、60歳を超えていても、賃貸住宅で自立して暮らしたいという高齢者のニーズも高くなっているのだという。この事業者は、サ高住に隣接する場所に中高年向けのシェアハウスを新設して、制度から漏れ落ち、不動産市場からも排除される人々の受け皿を準備しようとしていた。

サ高住では、食事や介護サービスなどを提供するほか、看護師も常駐しており、もしもの時の体制も万全である。シェアハウスでの生活が難しくなった場合にはサ高住への移行を促すこともでき、行政機関と連携して次のステップを検討することも可能だろう。

このように、全国には、まだ多いとはいえないものの、単身高齢者のための集住の仕組みを模索している事例がある。以下では、そこでの生活を少しのぞいてみよう。

60代以上シングル女性のためのシェアハウス

東京都西東京市に、60歳以上の単身女性を対象としたシニアライフ田無がある。ハウスを運営する株式会社イチイは、一般賃貸事業のほかに、住宅市場から排除されがちな高齢者や外国人に特化したサービスを全国に先駆けて展開したことでも有名である。

このハウスを開設した同社代表の荻野政男氏は「中高齢期になると賃貸住宅は借りにくくなり、かといって施設入所も適さない層がいる。自由な環境でゆるやかに集住し生活できる場をつくりたかった」と語る。相談ニーズの分析から、ターゲットは高齢単身女性に設定した。現在のアクティブシニア層は、婚姻時の年齢が妻の方が低い傾向にあること、女性の平均寿命が長いことなどから、夫を看取ったのち、単身での生活に不安を覚え、住まいの相談に訪れるケースが多いのだという。


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

地下1階、地上3階建ての自社物件を改修した建物に、2025年9月現在60〜70代の4人の女性がともに暮らす。家賃は4万8000円、水道光熱費と管理費込みで7万円弱と、シニア向けにしては低価格に設定されている。

入居条件は60歳以上の単身女性であること、家賃が払えること、エレベーター未設置のため自力で階段の上り下りができることの三つである。保証人は不要だが、万一に備えて身元引受人は必要とする。要介護状態での入居はできないが、入居後に要介護となった場合は可能な限り対応するというのが同社の方針である。

シェアハウスでの暮らし

ある60代の入居者は、コロナ禍に収入が減ったことで転居の必要に迫られた。家賃の安い住宅に住み替えようと地元の不動産会社に問い合わせをしたが、「その年齢では仲介できる物件がない」と断られた。その後も、複数の不動産会社に足を運んだが、対応はどこも同じだった。いよいよ切羽詰まり、単身者向けのシェアハウスならと期待を込めたが、「50歳前半までしか受け入れていない」とにべも無かった。

不動産会社からは、サ高住や住宅型の有料老人ホームを勧められたが、いずれも高額すぎて手が出なかった。なによりまだ介護が不要で、「施設」という言葉にも抵抗を感じた。自分の力で住宅に住み続けるにはどうしたらいいのか。郊外や地方へいけば家賃は安く、入居できる物件もあるかもしれないが、知らない土地で暮らしていけるか不安だった。

「自分で言うのもなんだけど、最近までちゃんと働いていて、足腰もしっかりして健康体なのに、なんで借りられないのか。なんで私が、という思いしかなかった」と、しばし現実が受け入れられなかった。

いよいよこのままでは行き場がないと思ったとき、ネット上で「自立した生活ができる60歳以上の女性対象」というフレーズを偶然目にし、すぐさま入居の申し込みを行った。面談時、担当者からの「階段の上り下りができる間はずっといてください。年齢制限はありません」という言葉が入居の決め手となった。

シェアハウスでの暮らしについては、「やっぱり家に帰ったときに電気がついているっていうのはいいですよね。ただいまとか、おかえりとか。1人だと言わないじゃないですか。それに一人暮らしだと、鍵一つ失くしても大事ですから」と満足そうに話した。

食事の準備は各自で行い、共有スペースの掃除やごみ捨て、花の水やりなど、日々のルーティンは、当番制で平等に分担する。管理会社によれば、入居者同士のつかず離れずの関係が楽で、ゆるやかな集住が孤立を解消してくれると入居者からの評価は高い。

※本稿は、『単身高齢者のリアル ――老後ひとりの住宅問題』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。