完成近づくサグラダ・ファミリア ガウディを「奇抜な天才」とだけ呼べない理由がわかる展覧会
スペインの建築家アントニオ・ガウディが没してから100年を迎える今年、代表作サグラダ・ファミリアのメインである「イエスの塔」が完成した。この歴史的節目にあわせて、大阪・「VS.(グラングリーン大阪 うめきた公園 ノースパーク)」で2026年4月17日から「NAKED meets ガウディ展」が開催される(6月15日まで)。3月に終了した東京展から、大人から子どもまで楽しめる参加型アートを通してガウディ建築に触れる本展の魅力を紹介する。
新しいファンのための入口
とにかく混み合う「NAKED meets ガウディ展」。空いていそうな時間帯をめがけて平日の午前中に訪れても、会場の中は大混雑だった。早く進みたい人もそうでない人も一緒くたになってジリジリとした流れに乗るしかなく、耐え切れずに途中で離脱したり、やっぱり時間がかかってでも展示を近くで見たいと合流したり。

この混雑ぶりが示すようにガウディの人気は高い。一度見たら忘れられない奇抜な形の建築物。140年以上作り続けられながらまだ完成していないというサグラダ・ファミリアの謎の物語。
加えて今回は、映像や空間演出を手掛けるクリエイティブカンパニーNAKEDによる没入型の展示で、「理解できなくても大丈夫」と敷居を低くしていることも影響しているだろう。
会場を訪れている人たちをざっと見渡すと、友人同士のお出かけの延長だったり、デートの口実だったりと、明らかにこの展覧会が日常の楽しみの延長線上にあるようだ。
逆に言えば、すでにガウディのことを良く知っているコアなファンにとっては、この展覧会はいくら「没入感」と言われても物足りなさを感じるかもしれない。コアなファンを大切にしたい思いは知らず知らずのうちに敷居を高くしてしまうのだが、今回の展覧会は新しいファンのための入口に振り切った感がある。
本当のガウディとの出会い
さて、ガウディといえばどんなイメージが浮かぶだろうか。
「自由奔放に奇抜な発想に突き動かされて創造し続けた天才建築家」
といったところだろうか。この展覧会を訪れるには、それだけのイメージが抱けたらもう十分。
そんなイメージと共に会場の中を進んでゆくと、少しずつ「あれ?」と心にざわめきが起きてくる。
ガウディの言葉にこんなのがある。
「人間は何も創造しない。ただ発見するだけだ」(外尾悦郎『ガウディの伝言』光文社)
ということは、ガウディは「突拍子もない自分の発想でみんなをびっくりさせてやろう」ということを狙っていないのだ。ガウディはひたすら自然を観察し、自然から学び、自然の中から合理的な法則を発見し、それを形にしている秩序の人なのだ。無駄にうねうねしたり、過剰な装飾のように一見見えたとしても、実はそれら全てが自然が教えてくれた合理性の最たる形なのだ。会場を回ってガウディの建築理論に触れてゆくうちに、抱いていたイメージが崩れて本当のガウディと出会ってゆく。
何本もの鎖が編み出す放物線
ガウディの代表的な建築理論の一つとして「ポリフニキュラー(逆さ吊り構造理論)」がある。そもそも建築とは重力に抗いながら形を立ち上げてゆく営みで、最大の敵は「重力」。この重力をどう扱うか。
ガウディは敵を味方に変える天才である。ガウディは1本の鎖を2か所に引っ掛けて天井から垂らした。すると美しい放物線が生まれる。これは重力が描く自然の形である。ならば、この放物線を180度回転させたら? 重力が描いた放物線、このラインこそが、自らの重みを自らの形で支える最適の構造となっている! と見たのがガウディなのだった。それがガウディ亡き後もまだまだ建築中のサグラダ・ファミリアの形にも生きている。
この展覧会では、この鎖を取ったり繋げたりの実験を、来場者がその場で体験できるし、デジタル上でも操作できる。これらの何本もの鎖が編み出す放物線をAIが読み取り、設計し、あっという間に建築物のスケッチを大画面で見せてくれる。これはなかなか楽しい。
「私のクライアントは急いでいません」
2026年はガウディ没後100年の年になる。東京展会期中の2月20日にはサグラダ・ファミリアの最高塔「イエス・キリストの塔」に十字架が据えられ、「完成」に向けて大きく前進した。その高さは172.5m。世界で一番高い教会の塔となった。
生き物のように形を変え続けてきたサグラダ・ファミリアに「完成」という言葉が並ぶとどこかヒヤッと心が寂しくなる。もはや「未完成」そのものが作品の一部になっているので、完成してしまうと何かが欠けたように感じるのだ。幸い全体の完成は2030年以降ということだが、残された時間は後わずかで愛おしい。
そもそもの始まりのサグラダ・ファミリアの建設は信心深い一般庶民の発想から始まり、長い間一般庶民のわずかな寄付金から成り立っていた。しかもガウディはその建設費に見合った小さな教会を設計するのではなく、壮大な完成像を描いていた。完成の目処を問われるとガウディはこう答えていたという。
「私のクライアントは急いでいません」
サグラダ・ファミリアは教会なので、ここでのクライアントとはつまり神のこと。つまりガウディは初めから自分が生きているうちに完成することを期待していなかったし、長い時間をかけていろんな人が関わり作り上げてゆく時間そのものを大切にしていたことがうかがえる。
スペイン最大の観光名所に
はたから見れば遅々として進まない建築物は、まるで時間の呪いをかけられたように見えたかもしれない。でもガウディが重力を敵ではなく味方として視点を変えて「ポリフニキュラー(逆さ吊り構造理論)」に至ったように、サグラダ・ファミリアにとって時間はやがて大きな味方になっていったのだ。
着工から110年が経過した1992年、バルセロナにオリンピックがやってきた。サグラダ・ファミリアの存在は世界中の人々に知れわたり、スペイン最大の観光名所となった。入場料や寄付金が集まり資金が潤沢になり、近年の建築技術が大きく躍進し、コンピューター設計、大型クレーン、コンクリートなどの素材なども使われ、関わるスタッフも増え、作業のスピードがぐんぐん上がっていった。
完成がゴールではなく、コツコツと時間をかけて積み上げてゆくこと自体がサグラダ・ファミリアの答えだと言えばそうだし、ガウディは時間を味方にしたと言えばそういう事にもなる。
ガウディ、あなたはどう思って見ているの?
土居彩子(どい・さいこ)
1971年富山県生まれ。多摩美術大学芸術学科卒業。棟方志功記念館「愛染苑」管理人、南砺市立福光美術館学芸員を経て、現在フリーのアートディレクター。
デイリー新潮編集部
