パパ、ぼく大きくなったら医者になる…愛するわが子の夢に尽くした年収1,200万円・54歳サラリーマン「後悔しています」と嘆くワケ【CFPの警告】
もしも愛するわが子が夢や目標を口にしたら……子がその夢や希望を叶えられるよう、できる限り協力したいと考えるのが親心でしょう。しかし、なかには子の夢を応援した結果「後悔」を口にする親もいるようです。小学生のころから医者を志していた20歳ひとり息子と、その夢を全力で応援してきた親の事例を紹介します。
息子の夢のために…
ヨウジさん(仮名・54歳)は、年収1,200万円の会社員です。3歳年下のカナコさん(仮名・51歳)が専業主婦として家庭を支え、夫婦の金融資産は1,500万円ほどあります。そんな2人には、ある悩みがありました。
それは、ひとり息子のソウタさん(仮名・20歳)のことです。ソウタさんは、国立の医学部を目指して今春2浪目に入っています。
「医者になりたい」…夢に向かってひたむきに努力を続けてきたソウタさん
ソウタさんの夢は「医者」になること。両親は当初、子どもがよく口にする「大きくなったら〇〇になる」という類の話と受け取っていたそうです。
しかし、ソウタさんは本気でした。本人の希望で小学3年生から塾に通い始め、中学受験では見事、第一志望の私立中高一貫校へ合格。その頃から、両親も腰を据えて「医学部進学」に向けて金銭面・精神面のサポートを本格化させました。
私立中高一貫校の学費と塾代だけで、1,000万円は軽く超えているでしょう。それでも、医学部進学となればさらに多額の費用が必要になります。そこで、ヨウジさんは貯蓄に励みました。10年前にマンションを購入した際も「住宅費を抑えて教育費に回したい」という思いから、都心から電車で40分ほどのところにある中古マンションを選んだのです。
夫婦の望みは、ソウタさんを国立大学の医学部に入れること。国立を希望するのは、やはり学費負担を考えてのことです。
しかし、前回、今回と2年続けて不合格。さすがに今回は、親子ともにショックを隠し切れませんでした。
しばらくの沈黙ののち、ソウタさんはポツリとこぼします。
「もう、医者は諦めようかな」
ヨウジさんはたまらず励ましました。
「なに言ってんだ、いまさらそんなこと言うなよ。こんなに頑張ってきたじゃないか。『パパ、ぼく大きくなったらかっこいいお医者さんになる』って言ったの、父さんは忘れてないからな。何年かかってもいい、挑戦してみよう」
そこまで口にして、ヨウジさんはハッとしました。
父の後悔
ヨウジさんの勤務先は65歳定年です。現在は年収1,200万円ですが、58歳になれば役職定年となり、収入が2割ダウンします。60歳からはさらに1割の減収です。
「もし来年も国立が厳しければ、私立に行かせるしかないか……」
そうは思うものの、私立となると、1,500万円の貯蓄はほぼすべて教育費に消えてしまうでしょう。
教育費と自分たちの老後不安に押しつぶされそうになったヨウジさんは「第三者の意見を聞こう」と、妻を連れてファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。
深刻な問題
「後悔しています」
そう嘆くヨウジさんから話を聞いたFPは、息子のソウタさんが私立大の医学部へ進学する可能性も踏まえ、現状の問題点と今後のマネープランについて整理しました。
現状の問題点はまず、収入の下落ピークと教育費のピークが重なってしまう点です。
現在の年収は1,200万円ですが、58歳で960万円、60歳で864万円と、今後は2段階で収入が減っていきます。一方、ソウタさんがもし来年私立大医学部に進学した場合、学費のピークはちょうど収入が下がり始める時期と重なります。
また、もし預金1,500万円を学費に充てる場合、不足分は「これから」調達しなければなりません。その場合、老後資金は事実上ゼロになります。
さらに、ヨウジさんは「ここまでかけてきた教育費を取り戻したい」、すなわち「なにがなんでも医者になってほしい」という気持ちが芽生え、金銭的に厳しい私立大への進学も辞さないという思考に陥っている節があるようでした。
教育費と老後資金を両立するための「3つ」の対策
今後は、下記の3点を踏まえて家計全体を見直していくとよいでしょう。
1.学費負担の選択肢を広げる
まずは「教育ローン」の活用を検討することです。国の教育ローンは年収制限があり利用が難しい場合でも、民間の教育ローンであれば利用できる可能性があります。また、「奨学金」の利用も視野に入れるべきでしょう。場合によっては、ソウタさん自身にも「自分のキャリアへの投資」として学費の一部を負担してもらうことを話し合う必要があります。
さらに、「医者になったあと特定の地域で勤務すること」を条件に、学費が免除される制度を設けている私立大学もあります。こうした制度を利用できる大学への進学も、選択肢として検討すべきでしょう。
2.生活費の見直し
家計の見直しを始めるうえで、固定費をはじめとした支出の見直しは必要不可欠です。まずは、数年後の収入減を見据えてシミュレーションする必要があるでしょう。
3.収入を増やす
65歳の定年を迎えたあとも、可能な限り働いて収入を得ることを検討すべきです。専業主婦の妻がパートに出て、世帯年収を増やすという選択肢もあります。
「共倒れ」を防ぐ現実的な落としどころ
“老後ローン”は存在しない…教育費と老後資金の最適なバランスを探る
教育費が不足する場合には、「教育ローン」や「奨学金」といった制度を活用できますが、老後資金が不足しても“老後ローン”はありません。
もし1,500万円を教育費として使い切ってしまえば、将来、ソウタさんが両親の老後のサポートを一挙に背負う可能性もあります。それはソウタさんの人生の自由を奪い、親としても不本意なはずです。身の丈以上の教育費をかけるよりも、親が経済的に自立していることのほうが子のためでしょう。
その後、ヨウジさんはFPとともにキャッシュフロー表を作成し、教育費として支出できる限度額を可視化することにしました。
私立進学を選ぶのであれば、「不足分は奨学金を利用する」という条件をソウタさんに提示し、本人の覚悟を確認することにしたそうです。FPに相談したことで親としての覚悟も決まったヨウジさん夫妻でした。
山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
