[3.31 KIRIN WORLD CHALLENGE 日本 1-0 イングランド ウェンブリー]

 負傷者の続出によって一時は崩壊の危機に瀕していた日本代表守備陣だったが、その難局からチームを立て直してきた男が再び世界の列強国に立ちはだかった。

 DF谷口彰悟(シントトロイデン)は1-0で歴史的な勝利を挙げたイングランド戦に3バックの中央でフル出場。「良い勝利だった。これだけ力のあるチームと本番さながらの強度と雰囲気もあったし、その中で戦ってしっかりゼロで終われたこと、しっかり点を取れたことは評価していいと思う」。的確な配球とカバーリングで攻守にリズムを作り、自身4度目となるW杯優勝国撃破を成し遂げた。

 この日のイングランドはトップ下タイプのFWフィル・フォーデン(マンチェスター・C)とFWコール・パーマー(チェルシー)を前線で起用。俗に前線中央の選手が中盤に落ち、両ウインガーを高く押し上げるシステムを“0トップ”と称することがあるなか、いわば“ダブル0トップ”と言えるような変則布陣で日本を待ち受けた。

 日本は5-4-1で守備ブロックを組んでいるため、常に最終ラインとダブルボランチの間を狙っている“ダブル0トップ”に対し、3バックの中央に立つ谷口は常時難しい判断を迫られる状況だった。試合に向けた準備の中ではFWハリー・ケインの先発も予想されたことから、必ずしも想定しやすい布陣ではなかっただけに、谷口は率直に「やりづらかった」という感触も明かした。

 ところが試合が始まれば、相手の布陣による脅威よりも、日本守備陣の臨機応変な対応のほうが光っていた。谷口によると、意識していたのは3バックの両脇のDF渡辺剛とDF伊藤洋輝、ダブルボランチのMF鎌田大地とMF佐野海舟との連動だ。適切な距離感を常に保ち続けることだけでなく、目まぐるしく動いてくるマーカーを時には追いかけ、時には受け渡しながら危険なエリアへの侵入を阻んでいた。

「自分の周りに人がいないということで、大地、海舟、剛、洋輝とコミュニケーションを取りながら、自分が要はリベロみたいな感じでフリーマンで、斜めに走ってくる選手が必ずいるのでその選手を見ながら、大地だったり海舟の背中から走ってくる選手の裏は僕が見るというような形で、左右のカバーを広い範囲で守るやり方がしっくり来る感じはあった。海舟は常に2人を見るような感じでキツかったと思うし、でも海舟ならできるだろうという信頼もあったしで、そこまで綻びはなかったと思う」

 イングランドが予想をしづらいシステムを組んできたことにより、その対応は本大会に向けた格好のテストともなっていた。「相手がどう出てくるのか、どういう狙いを持っているのかをいち早く察知してみんなで合わせてやっていくことが絶対的に大事になる。それは立ち上がりからパーマー選手とフォーデン選手がちょっと落ちて、そこに自分がどう食いつくかが鍵だとわかったので相手を見ながらやれたかなと思う」。その中心には紛れもなく、今回のメンバー最年長34歳のDFリーダーの姿があった。

 この日の谷口は試合前日の取材でも意気込んでいたように、ボールポゼッションでも際立つ貢献を見せていた。終盤は選手交代の影響もあって防戦一方となったが、主力が並んだ後半途中までは時間を経るごとに日本が良い前進経路でもって攻撃を完結させる形が増えていた。

「つなぎの部分では自分のところで少しタメを作るのか、テンポを出すのかというところは相手を見ながら、自分たちのチームの状況を見ながらというところはやったつもり。そこで何本か後半立ち上がりに追加点を取れそうなチャンスがあった」

 強豪国相手のボールポゼッションはカタールW杯後の一大テーマもある。そこに真摯に向き合ってきた谷口は「今日良かったのは要所要所で点を取れそうなところを出せたこと。そこはカタールのところよりは少し成長したと思う」と充実感をにじませた。

 相手には数年間にもわたって世界最高峰のプレミアリーグでプレーしている選手が並ぶなか、谷口はベルギーリーグ2年目という立場だが、その基準の違いがクオリティーの差となって表れるような場面がほとんどないのも驚異的だった。谷口は「体感やっぱり強かったですよ」と振り返りつつも、次のように手応えと展望を語った。

「速いし、強いし、一瞬でも隙を見せたらやられるヒリヒリ感はすごく感じたし、それはブラジル戦同様、一瞬の隙を見せればやられるなと、そこは常に狙っているというのはやっぱりレベル高いなと感じた。でもここでそういう相手とやれたのは自分の中ではW杯に向けてものすごく大きい経験値になったと思う。ここを基準にここから2か月、上げていかないといけないと思います」

 カタールW杯後に31歳で初めての海外移籍を果たし、カタールとベルギーという異国の地で歩んできた2度目のW杯への道。一昨年11月には選手生命を左右しかねないアキレス腱断裂の大ケガに見舞われ、その目標が大きく遠のきかけたこともあったが、W杯本大会を2か月後に控えたいま、再び守備陣に欠かせない存在感を放っている。

 特に約1年ぶりの復帰戦となった昨年10月のブラジル戦以降、谷口は全5試合に出場しており、日本代表は5連勝中。それも復帰前は負傷者が相次いで新戦力のテストが続いていた中、第2次森保ジャパン初の3試合勝ちなしという危機的状況に陥っていただけに、まさに救世主的な働きを見せているとさえ言える。

 そのハイパフォーマンスの原動力は2度目のW杯に向けた執念にも似た強い思いだという。

「やっぱりもう一回目指したいというところ、もう一回W杯のピッチに立ちたいという思い、もうその思いでしか今はやっていないと言っても過言ではないので。そこに向けてはやれることは全てやりたいと思っています」

 今季はシントトロイデンをレギュラーシーズン3位に導く活躍を経て、34歳にして欧州カップ戦出場権を得る可能性を残す充実のパフォーマンス。その充実感は日本代表でのプレーにも大きく還元されている。

「日本代表の選手それぞれみんないいクラブで、みんないいところでやっているし、それに比べれば僕は正直みんなと肩を並べられているかというとそうじゃないけど、でも自分が置かれている状況で必ず成長できるところもあるし、逆に今日のスカッドを見ても『狙い目は僕になるんじゃないかな』というくらい。でもそれはそれで助かるというか。僕のところで止めてしまえば何てことないんで。自分次第だというところで良いプレッシャーをかけながらやっていたし、自分を追い込みながら成長していきたいと思います」

 その姿勢は国内組としてカタールW杯のピッチに立ち、スペインとクロアチアに立ちはだかった時と同様、これからの2か月も不変だ。「そこはもう日本にいた時からそうやってきたし、そこはベルギーでもどこでやっていても変わらないと思います」。鮮烈なW杯デビューと海外挑戦から3年半。堅実な成長で“遅咲き”となったCBは今もなお止まらぬキャリアの上昇期のまま、2度目のW杯に立とうとしている。

(取材・文 竹内達也)