今シーズン、ヤクルトは75勝66敗2分という成績を残し、セ・リーグ2位に入った。優勝した広島とは7ゲーム差をつけられたが、前年に96敗したことを考えると、見事な”再起”を果たしたと言ってもいい。4年ぶりにチームの指揮を執った小川淳司監督に今シーズンを振り返ってもらった。


4年ぶりにヤクルトの指揮を執り、チームを2位へと導いた小川淳司監督

―― チームを率いるにあたって、最初に考えたことはどんなことでしたか。

「今回監督を任された時に、まずチームの方向性を考えました。自分がアドバルーンを上げるわけじゃないですけど、『執念を持って、スモールベースボールで1点を取りにいこう』と。これは、自分がシニアディレクターとしてスタンドから試合を見て感じたことが基本となっています。

 リーグ優勝した2015年は選手たちに躍動感があり、頼もしく感じました。逆に去年は、淡々と試合をこなしている雰囲気がありました。それは一目瞭然で、それではいけないと。選手起用に関しては、二軍監督を9年、一軍でも4年半ほど経験させていただき、その部分はそっくりそのままです」

―― 今シーズンは逆転勝ちが38試合。とくに9回における得点は見る者を興奮させました。

「選手からは、キャンプ、オープン戦から1球に対する執念が感じられましたし、交流戦以降の戦いでは最後まであきらめないことが結果としても出たと思います」

―― スモールベールボールに関しては、シーズン前半と後半で変化があったと思います。とくに後半の初回の攻撃は、1番の坂口智隆選手が出塁し、2番の青木宣親選手の長打であっという間に先制を挙げるシーンが何度もありました。攻撃的スモールベースボールと呼べばいいのでしょうか。

「シーズン序盤はバントを多用したりしてましたが、青木を2番に据えてから少し方向転換はありました。ただ、2番打者がバントをしないから『打ち勝つ野球』に転じたわけではないです。バントはあくまで作戦のひとつであり、状況によって作戦は変わります。

 青木を2番にした場合、打たせた方が得点の確率が高いということで、今の攻撃のカタチになっているわけです。やっていることはスモールベースボールです。つないでいく意識は、打撃コーチがミーティングで常に言ってきかせていますし、選手たちの意識も間違いなくその方向です」

―― 開幕当初は青木選手を3番、もしくは4番に置く試合が多くありました。

「メジャーリーガーだった青木に、どうしてもポイントゲッター的な役割を期待して、そういう打順にしたのは事実です。山田(哲人)を1番にして青木を3番にするのか。それとも逆にするのか。その考えでスタートしたんですけど、打線をどうやって”線”としてつなげていくかになった時に、2番を誰にするのかが難しくなって。そこで青木の2番を考えたのですが、彼のプライドもあるし、周りも気を遣うかなと……。それで青木に相談すると、『自分は2番が適任だと思う』と言ってくれたんです」

―― あらためて、メジャーから日本球界に復帰した青木選手について、どんな感想を持たれていますか。

「青木なくしてこの成績(2位)はなかったでしょうね。僕は2011年まで一緒にやっていましたが、青木は別人になって戻ってきましたよね。キャンプでも選手たちとの距離感を最初のあいさつで一気に縮めてくれましたし、本当にチームを引っ張ってくれている。バッティングは誰もが認めるところですが、それ以外の部分での影響が大きかったと、あらためて思っています」

―― チームですが、4・5月は大型連敗が目立ち、5連敗が1回、6連敗は2回ありました。交流戦で最高勝率に輝いた後にも8連敗。前半戦を最下位で折り返しましたが、選手たちは常に前向きな表情だったのが印象的でした。

「とにかく負けていても、コーチたちや青木がベンチで声を出して選手たちを引っ張ってくれましたので。交流戦後には大型連敗を取り返すだけの力も出てきました。選手たちのなかで『自分たちは勝てるんだ』という意識が強く出てきたからだと思います」

―― 夏以降、3連敗以上はなく、苦手だったビジターも克服。シーズン終盤はクライマックスシリーズ(CS)を争うチームを圧倒しました。

「やはりビジターで勝つことによって、連敗は止まります。選手たちの意識も変わってきて当然ですよね。マツダスタジアムや東京ドームで連敗が続いているとか、ナゴヤドームで勝てないとか……。事実として残っているのですが、過剰意識になることもよくないので、そこを払拭できたのは大きかったですね。

 今シーズンは広島以外の球団に勝ち越すことができましたが、広島には接戦しながらも大きく負け越したという事実がある。そこは今後の課題として残りますが、逆に極端な数字が出たのは今後に向けていい材料になると思っています」

―― 春のキャンプでは、「若い選手を育成することが、自分の使命だと思っている」とおっしゃっていました。

「うちはレギュラーの年齢が比較的高いのと、選手層も厚くない。なので、若い選手が試合に出られる環境にありました。そのなかで、一軍で実績のなかった風張(蓮)や中尾(輝)、梅野(雄吾)らを思い切って使うことができた。彼らが少しずつ結果を残し、もちろん打たれることも多いですが、これからに向けていい経験ができたんじゃないでしょうか」

―― 思い切った起用のなかでも、結果を残さなければ試合に出られないなど、厳しさもありました。

「たとえば野手に関しては、廣岡(大志)と西浦(直亨)を昨年の秋からずっとショートで競わせました。開幕のショートは廣岡が勝ち取り、西浦をファームへ落としました。そのなかで川端(慎吾)のケガで西浦を再昇格させたところ、爆発的な成績を残した。そしてそのタイミングで廣岡の結果が出なくなり、西浦がショートのポジションを勝ち取った。こうやって切磋琢磨することで本当の力がつくと思っています。そういう意味で、最初に課題としていたチームの底上げは、少しはできたのかなと感じています」

―― この先、CSがあるのですが、来年が待ち遠しくて仕方ありません。

「ただチームとして考えた時に、若い力とベテランの力をどう融合させるのか。すぐに若い選手を使えばいいというわけではないですし、今年は川端や大引(啓次)といったレギュラーだった選手が出たり、出なかったりで、気の毒な使い方をしてしまった」

―― 9月16日の広島戦では村上宗隆選手をスタメンで抜擢し、プロ初打席初本塁打を記録しました。

「来年のことを見据えて、厳しい経験をさせた方がいいという判断で、消化試合ではなくあの時期に起用しました。持っているものはすばらしいんですけど、来年、彼を使っていくタイミングが非常に難しいというか……(前回監督時の)2013年に田中浩康を外して、山田をセカンドに据えたのですが、これがなかなか自分の思うようなタイミングにはならないので。そこは非常に難しいですね」

―― 野手陣に関してですが、試合前にコーチと選手が輪になり、欠かさずミーティングを行なっていました。それを小川監督は少し引いたところから見守っていました。

「監督という立場ですから、俯瞰(ふかん)してチームを見ないといけませんし、コーチの仕事ぶりも把握しないといけません。みんなそれぞれ責任を持ってやってくれ、だからこそチームがうまく回っていると感じています。もちろん、我々にいたらないところもあって、選手に不満を抱かせていることもあるかと思います。でもそこは、チームが勝つことで解消される部分かなと思っています」

―― バレンティン選手やキャッチャーの中村悠平選手など、マンツーマンで話し合う姿も印象的でした。

「バレンティンは審判の判定に気持ちが切れてしまうので、なんとか我慢してもらうようにと……。ただ、やさしい言葉ばかりかけてもダメなので、声を大にして叱る時は叱ります。

 中村はチームの勝敗を左右するポジションで、彼が意固地にならないように、次に向けてどう考えていくのか、ということですよね。それを積み重ねて、自分の引き出しにしてくれれば……僕もいろんな評論家のキャッチャーに話を聞いたりして、中村と話をしています。実際あの場にいて、ピンチになった時にみんなが思うようなサインは出せないですし、そこの難しさを理解してやらないといけないと思っています」

―― CSファーストステージが迫ってきました。現時点で話せないことは多いと思いますが……。

「僕は二軍監督時代から、今いる戦力でいかに勝つかを考えてやってきました。今回、青木がケガをして、畠山(和洋)もそういう状態にあります。こればかりはどうすることもできません。青木抜きのチームを考えないといけないのですが、もしかしたら間に合うかもしれない。その時はどういった状態で戻ってくるのか。万全でなかった場合にベンチに入れるのか。チームを引っ張る姿勢も含めて、青木にはベンチにいてほしいのですが、そのことで16人いる野手が15人になってしまうと弱さが出てしまうこともある。そこはまだ悩んでいるところで、最後の最後まで状態を見極めて判断したいです」