【尾形 拓海】グーグル、アマゾンすら敵わない…「サイバーエージェントとネトフリ」意外なふたり《強さの共通点》が見えてきた

写真拡大 (全7枚)

株式会社サイバーエージェントは2月6日に、26年第1四半期の連結決算を発表しました。連結売上高は前年同期比14.0%増の2,323億円、営業利益は181.8%増の233億円となり、売上・利益ともに第1四半期として過去最高を更新する、好調な滑り出しとなっています。

サイバーエージェントのIP戦略の核であり最大の競争優位性でもある要素――『コンテンツ企業としての感性』と『インターネット企業として技術』を高いレベルで融合させていること――について解説します。

【後編記事】『ウマ娘が「ABEMAの危機」救った…?“優秀すぎるクリエイター”たちが続々とサイバーエージェントに集結するワケ』よりつづく。

任天堂やソニーすら持ちえない「強み」とは

日本のコンテンツ業界には、ソニーや東宝、任天堂など、長い歴史を持つ強力なプレイヤーが多数存在しますが、サイバーエージェントしか持たない強みが存在します。それは、「コンテンツ企業としての感性と、インターネット企業としての技術を、高いレベルで両立させている」ということです。

コンテンツ企業にとって重要な考え方の一つに「クリエイターファースト」があります。ビジネスの起点となるIPを生み出すのは常にクリエイターであり、ビジネスやテクノロジーではない、という考え方です。

同社のアニメ&IP事業本部長としてメディア・IP領域の統括を担い、25年に代表取締役社長に就任した山内隆裕専務は「常日頃から『クリエイターファースト』というのを口酸っぱく言っています。IPはクリエイターの情熱から生まれるものだと思っているし、原作があるものはマンガ家の先生や編集の方々が人生をかけて作っているので、しっかり寄り添っていきたい」と語っています。

また、CygamesのCTOである芦原栄登士(あしはら・えいとし)氏は「技術も大事だけど面白さのほうがもっと大事。技術者によくある間違いとして『技術的に正しいことが正しい』と勘違いすることがありますが、エンジニア組織全体としてそこを間違わないように気を付けています」と述べています。

グーグルもアマゾンもゲーム開発に失敗

「クリエイターを主役に据え、インターネット企業としてのカルチャーや仕事の進め方を押し付けない」というのは当たり前のように聞こえるかもしれません。しかし、インターネット企業にとってクリエイティブを本当の意味で尊重し、それを徹底的に実践することが簡単ではないことは、過去の事例を見ると明確にわかります。

例えば、2012年に設立されたAmazon Game Studiosは、13年以上で数十億ドル規模を投じてきたとされています。その部門のトップを務めたMike Frazziniは書籍部門出身で、ビデオゲームを作った経験が一度もありませんでした。クリエイティブ制作への理解が浅かったのか、同氏は「クリエイティブな発想を重視する」のではなく、「他のゲームのデータを分析して成功要因を逆算する」というアプローチを採りました。

データを重視するというのはインターネット企業では当たり前な仕事の進め方ですが、それをそのままゲーム開発に持ち込んだことが誤りだったのでしょう。残念ながらヒット作品はほぼ生まれず、League of Legends風の「Nova」(2017年中止)、Fortnite風の「Intensity」(2019年中止)、Overwatch風の「Crucible」(リリース後に撤回)と失敗が続きました。

Googleも同様です。大ヒットゲームAssassin's Creedの共同制作者であるJade Raymondを招き、Stadia Games & Entertainment(SG&E)を設立してゲーム開発に参入しました。合計約150名の開発者を雇用しましたが、SG&Eは設立から約22ヵ月で一本のゲームもリリースすることなく閉鎖されています。Stadiaの元関係者は「Googleはゲームを作る場所としては最悪だった」と証言しています。

データドリブンなソフトウェア開発で成功してきたインターネット企業にとって、「クリエイターの感性を重視する」という考え方を組織レベルで理解し実践するのは、簡単そうに思えて非常に難しいのです。

テクノロジーはあくまで「クリエイティブの裏方」

その一方で、サイバーエージェントはインターネット企業として培ってきた技術力を、コンテンツ制作そのものにも広く活用しています。

ゲーム領域では、AIを活用してゲーム開発の生産性と品質を引き上げる取り組みを進めています。例えば、2023年10月に設立された「ゲームAI Lab」は、生成AIを使ったキャラクターやグラフィックの自動生成、シナリオ生成、レベルデザイン支援、3Dアニメーション、音声・楽曲生成など、ゲーム制作のワークフロー全体をAIで支援し拡張していくことを目指しています。ChatGPTの登場から1年も経たないうちに設立されていることから、技術トレンドへの反応の速さがうかがえます。

またCygamesでは、大規模言語モデル(LLM)を活用したゲーム制作の支援機能が開発されています。ゲームにはキャラクター同士が会話するシーンが大量にありますが、従来はセリフごとにキャラクターの動き・表情・声のトーンといった演出要素を一つひとつ手作業で設定する必要がありました。この機能を使うと、LLMにシナリオを読み込ませるだけで、各セリフにふさわしいモーションや表情、ボイスの種類が自動提案されるといいます。

アニメ領域では、ゲームAI Labと同じタイミングで「アニメーションAI Lab」が新設されました。生成AIを活用した新しいアニメーション制作プロセスを構築し、制作コスト削減とスピードアップ、表現の幅の拡大を目指すとしています。2025年1月に設立されたアニメスタジオのCA Soaでは、グループが持つ技術やDXの知見を積極的に導入し、制作の「見える化」で情報共有を円滑にする取り組みが推進されています。

また、現在は研究段階ではあるものの、イラスト・マンガ制作向けの技術開発も進んでいます。「MangaDiT」と呼ばれる技術は、マンガの線画に対して、お手本となる参照画像をもとにAIが自動で着色を行うものです(Arxiv)。マンガのカラー化は手作業では非常に手間がかかりますが、この技術が実用化されれば、Webtoonやカラーマンガの制作を大幅にスピードアップできる可能性があります。今後、現場への実装が進んでいくことが期待される技術です。

これらの技術は、クリエイターの制作活動に割り込むものではなく、あくまで「裏側から支えるもの」として開発・導入されていることが重要です。

一代企業だからこそ成し得た「融合」

ここまで解説してきた「コンテンツ企業としての感性とインターネット企業としての技術を高いレベルで融合」できている背景には、創業者が一代で築き上げた企業ならではの求心力と実行力があります。サイバーエージェントの創業者である藤田晋氏の強いビジョンと牽引力が、この本来相反しうるカルチャーを一つに融合できている要因の一つだと筆者は考えています。

AbemaTVに対して、赤字覚悟で10年近く計2000億円超投資し続けて来れたことは、その強みが活きた最もわかりやすい例でしょう。

サッカー・ワールドカップ カタール大会の全64試合を数百億円かけて無料生中継する、という大胆な意思決定も良い例です。楽天は楽天モバイルに、ソフトバンクはOpenAIに大規模な先行投資を行っていますが、これらの企業もサイバーエージェント同様、強いビジョンを持った創業者が一代で築き上げた企業です。

実際に筆者自身も、過去サイバーエージェントのインターンシップに複数回参加し、藤田氏と直接会話する機会も頂きましたが、社員の方々が藤田社長を心から尊敬し、そのビジョンについていこうとする空気が社内に浸透していることを強く感じました。トップの求心力がこれだけ強いからこそ、大胆な意思決定や方向転換が組織全体に一貫して浸透しているのだと思います。

世界最強のコンテンツ企業「Netflix」との類似点

インターネット企業でありながら、これほど高いレベルでコンテンツ企業のカルチャーに適合し、事業を成長させている企業は、世界を見渡してもNetflixくらいしか見当たりません。Netflixの全体従業員数は2024年時点で約1.4万人ですが、そのうちエンジニアリング人材が約3480人と全体の約25%を占めており、コンテンツ企業としてはかなり高い割合です。

しかし、Netflixの公式カルチャーメモには「クリエイティブの意思決定ではTV・映画・ゲームの専門家の意見がエンジニアより重い」と明記されており、サイバーエージェントと同じようにクリエイティブが尊重されていることがわかります。そして、Netflixも創業者であるReed Hastings氏が一代で成長させた組織であり、そのビジョンと牽引力が強く効いていることは間違いありません。

筆者自身も以前Netflixに勤めていましたが、社内ではインターネット企業らしいスピード感で物事が進み、デジタルツールやデータ基盤も非常に整備されていました。しかし、それらはあくまでクリエイティブを支える裏方として機能しており、コンテンツの意思決定にテクノロジーの論理が過度に介入するような場面はありませんでした。

クリエイターが尊重される空気感が業務の中にごく自然に組み込まれている。そうした感覚は、サイバーエージェントが目指している方向と通じるものがあると感じます。

それでもコンテンツビジネスに「確実」はない

コンテンツビジネスの本質的な難しさは、狙って当てることが難しいということにあります。加えて、年々エンタメ業界への参入企業は増えており、コンテンツは飽和する一方です。そのような環境下で、同社が挑んでいるオリジナルIPをヒットさせる難易度も同様に上がっており、体制を整えても結果が出るまでに長い時間がかかる可能性があります。「ウマ娘」や「今日、好きになりました。」のような爆発的ヒット作品は簡単には生み出せないでしょう。

それでも、藤田氏ならびに山内氏が掲げるビジョンと牽引力をベースとして、コンテンツ企業としての感性とインターネット企業としての技術力を高い次元で融合できていることは、他のコンテンツ企業やテック企業が中々持ち得ない強みであり、サイバーエージェントを支える基盤になると筆者は考えています。

【こちらも読む】サイバーエージェント藤田晋が上場で「225億円調達」直後に味わった「地獄」…株価暴落、「金を返せ」の誹謗中傷の中でたどりついた“結論”』

【こちらも読む】サイバーエージェント藤田晋が上場で「225億円調達」直後に味わった「地獄」…株価暴落、「金を返せ」の誹謗中傷の中でたどりついた”結論”