※画像はイメージです/PIXTA

写真拡大

消費者庁「令和7年版消費者白書」によると、 2024年度の消費生活相談件数は約90万件で、うち65歳以上の高齢者からの相談が29.8万件(33.1%)を占めています。では、自分や自分の家族がトラブルに巻き込まれた場合、どう対処すればよいのでしょうか。弁護士に聞きました。

父の書斎で見つけた1枚の契約書

「なにかの間違いであってくれ……」

プライム上場企業に勤務するケンジさん(仮名/55歳)。年収は約900万円で、共働きの妻と大学生の娘と、都内マンションで暮らしています。

家族仲も良く、平穏な生活を送っていたケンジさんですが、半年ぶりに帰省した実家で衝撃の事実を知り、いまは弁護士のもとを訪れています。

きっかけは、80歳になる父から探し物を頼まれ、父の書斎に入ったときのことです。

「ん? なんだこれ……」

ケンジさんが見つけたのは、実家のリフォーム工事に関する1枚の契約書でした。

「たしかに、この家ももう古いしな」

さして気に留めることもなく探し物を再開しようとしたケンジさん。しかし、あわせて置かれていた見積書を見て、思わず膝から崩れ落ちたといいます。

見積書には、「外壁工事一式」「床下補強工事一式」などと記載されているだけで、具体的な施工内容や使用部材など、ほとんど記載されていなかったのです。

「父さん、これ何?」

問い詰めると、父は気まずそうに口を開きました。聞けば数週間前、「無料で家の状態を診断します」と名乗る2人組の男性が突然訪問してきたといいます。

父「その2人が言うには、このままだと数年以内に家が危険な状態になると言うんだ。それで見積もりを頼んだら、後日また直接やってきて『今この場で契約してくれれば、この見積額から30%割引しますよ』と言われてな。いつかはリフォームしようと思っていたし、その場で契約したんだよ』

一方、母は「そんな話、初めて聞いた」と青ざめます。

嫌な予感がしたケンジさんは、その場で業者へ電話。しかし返ってきたのは、「正式な契約なのでキャンセルできません」「どうしても解約するなら工事代金の30%を違約金として支払ってもらう」という冷たい言葉でした。

「絶対におかしい……」

真面目に働いてきた父が、老後の大切なお金をこんな形で奪われるなんて――。

やり場のない怒りと悲しみを抱えるケンジさん。はたして、違約金ゼロで契約を解除することはできるのでしょうか。

契約解除は可能?弁護士の回答

本件のようなリフォーム契約では、実務上「代金を支払う前か後か」によって、最終的な金銭的結果が“天と地ほど変わる”ことがあります。

まず、代金支払い前であれば、検討すべきはクーリング・オフです。業者が自宅を訪問して勧誘し、その場で契約したような場合、特定商取引法上の訪問販売にあたり、契約書面を受け取ってから8日以内であれば、原則として無条件で契約を解除できます。

仮にクーリング・オフが難しい場合でも、すぐに諦める必要はありません。契約書に「解約時は工事代金の30%を違約金として支払う」と記載されていても、消費者契約法上、事業者に生じる「平均的な損害額」(※)を超える部分は無効とされる可能性があります。

(※)平均的な損害額とは、同じ類型の事業者が締結する同種の契約について解除された場合に、その事業者に通常生じる損害の平均を意味する。実務上は、取引の類型や工事の進捗状況などを踏まえた相場観により、契約書の定めが修正されるイメージ。

したがって、実際に工事が始まっていない、材料発注も限定的であるといった事情があれば、違約金を大幅に抑えられる余地があります。

一方、すでに代金を支払ってしまった後は、状況が大きく変わります。法的にはクーリング・オフや取消により返金請求できる可能性があっても、相手業者が任意に返金しなければ、交渉や訴訟による回収が必要になります。

その場合、回収額に比べて時間や弁護士費用などの手続コストが重く、実務上は泣き寝入りに近い解決を迫られることも少なくありません。

だからこそ、この種の訪問リフォーム契約では、少しでも不審に感じた時点で、支払う前に止まることが重要です。

工事内容が「一式」ばかりで曖昧、当日契約を強く迫る、大幅値引きを強調する、こうした事情がある場合にはその場で判断せず、家族や専門家、消費生活センターに相談しましょう。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士