『えぶりでいホスト』©ごとうにも/えぶりでいホスト製作委員会

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 ホストクラブという題材は、エンタメの世界では決して珍しいものではない。漫画やバラエティ、実写ドラマでは、華やかさと裏腹のドロドロが入り混じる“夜の顔”として、たびたび描かれてきた。

参考:速水奨の“低音ボイス”が物語に厚みを生む 『名探偵コナン』諸伏高明役で発揮した存在感

 しかし、これがアニメとなると、少し事情が変わってくる。思い返してみても、「ホスト」を真正面から扱ったアニメ作品はほとんど思い当たらない。おそらく多くの人にとって、最も印象的な“ホストアニメ”といえば『桜蘭高校ホスト部』だろう。名門校の生徒たちがホスト部を結成し、女子たちをもてなすというユニークな設定は、少女漫画ならではの華やかさとコメディセンスに満ちていた。筆者自身も夢中になった作品だ。

 とはいえ、『桜蘭高校ホスト部』の舞台はあくまで学園。そこで描かれるのはリアルなホストクラブではなく、“ホスト部”を通じた青春群像劇である。実際の夜の世界とは少し距離があるのも事実だ。

 だからこそ、『えぶりでいホスト』の登場には少なからず驚かされた。本作は、実際にホストクラブで働くことを前提にした、いわば初の本格ホストアニメと言えるかもしれない。しかも、そのアプローチがまた振り切れている。

 描かれるのは、煌びやかな夜の世界……かと思いきや、実際にはかなりカオスな日常。美男子たちが艶やかに接客する姿などほとんど登場せず、展開されるのは全力でバカをやり切るギャグのオンパレード。真面目にホストを描くのではなく、むしろ“ホスト”という題材のフォーマットを借りて、極端なまでに崩しきった清々しいコメディアニメとなっている。

 物語の主人公・関口は、かつて生命保険会社で心をすり減らしていた。そんな彼が、「アットホームな職場です」というチラシの一文に釣られて飛び込んだのが、ホストクラブ「クラブ・ワン」。改名後の“ハジメ”としてホスト人生をスタートさせるや否や、ホスト歴20年の弟キャラ、色恋営業に長けた元アイドル、課金を煽るオラオラ系など、濃すぎる同僚たちが次々と襲いかかる。常識が通用しない夜の世界で、ハジメの“第二の人生”が始まっていく。

 とはいえ、ただのドタバタ劇で押し切るだけの作品ではないのも、このアニメの妙である。たとえば、リョーイチの接客スタイルをメモするハジメに対して、コーイチがふと放つ「接客は人真似でするものじゃない」というひと言。全編ギャグに振り切っているようでいて、ところどころに不意に刺さるセリフが差し込まれる温度差が妙にシュールなのだ。

 原作の公式サイトでも「現職ホストも大絶賛! 現実離れした激しいギャグなのに異様にリアルと話題沸騰」と紹介されているが、視聴を重ねるほどに、その言葉の意味が腑に落ちてくる。

下野紘、八代拓、畠中祐、岡本信彦らの“全力演技”がクセになる 声優陣の芝居もまた、この作品の魅力を支える大きな柱だ。短尺ながらもキャラクターの濃さとテンポの良い会話が際立ち、「短いのにちゃんと笑える」という満足感を毎話きっちり届けてくれる。さらに、良い意味でギリギリ成立しているラインを攻めたネタの連打は、深夜帯という枠にぴったりハマっている。

 下野紘、八代拓、畠中祐、岡本信彦といった実力派が、突き抜けたキャラクターをあくまで真面目に、全力で演じきっているのも特筆すべき点だ。その“本気のバカバカしさ”が作品全体に独特のリズムを与え、ツッコミどころ満載の展開をしっかりと支えている。近年ショートアニメは増えてきているが、癒し系でも子ども向けでもない、大人向けの本格ギャグアニメは久々ではないだろうか。

 そしてもうひとつ見逃せないのが、OP主題歌「えぶりでいホスト」だ。作詞・作曲を手がけたのは、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔。ホストらしい、アゲアゲなワードセンスを巧みに散りばめながら、〈指名し名刺baby 入れてねシャンパン 毎日がイベント〉と畳みかけるようにテンションを引き上げてくる一曲に仕上がっている。軽快なビートとクセになるメロディが、作品の幕開けにぴったりのスパイスとして機能しており、主題歌のクオリティが妙に本気なのも、本作のただならなさを象徴している。

 アニメもキャラクターも楽曲も、どこを切っても“やりすぎ”なのに、なぜかすべてが絶妙なバランスで成立してしまう。それこそが、『えぶりでいホスト』という作品の恐ろしさだ。深夜帯のたった数分、ぼんやり眺めていたつもりが、気づけば笑って、引いて、なぜか時に少し心に沁みている。そんな混沌と中毒性を孕んだ5分間に、まんまと心を奪われてしまうのだ。(文=リアルサウンド編集部)