(※写真はイメージです/PIXTA)

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東京で一人暮らしをする若者。就職や転職を機に親元を離れ、「自立した生活」を送っているように見えるケースも少なくありません。しかし、その実態は決して理想的なものばかりではないようです。家賃や物価の高騰、仕事の忙しさ、孤立感――。表からは見えにくい生活の歪みが、部屋の中にそのまま表れていることもあります。

「大丈夫だよ」と言っていた娘の部屋

「これ……本当にここに住んでるの?」

玄関のドアを開けた瞬間、母親の美智子さん(仮名・52歳)は言葉を失いました。

東京23区内のワンルームアパート。そこに暮らしているのは、都内のアパレル関連企業で働く娘・沙織さん(仮名・24歳)です。月収は手取りで約22万円。新卒で就職してから2年、初めての一人暮らしでした。

床には脱ぎ捨てられた服、空のペットボトル、コンビニ弁当の容器。キッチンのシンクには洗われていない食器が積み重なり、異臭が漂っていました。

「これ、ゴミ屋敷じゃないの……?」

母の美智子さんが上京したのは、沙織さんからの連絡が減ったことがきっかけでした。

「忙しいから」「寝ているから」と言われるばかりで、電話も短時間。心配になり、「近くまで来たから」と半ば強引に部屋を訪ねたのです。

「ちゃんと食べてるの?」

「うん、まあ……」

そう言っていた娘の冷蔵庫の中には、調味料と水だけ。自炊の形跡はほとんどありませんでした。

厚生労働省『令和6年 賃金構造基本統計調査』によると、20代前半女性の平均賃金は月23万600円。沙織さんの収入は、決して極端に低いわけではありません。

しかし、家賃は管理費込みで月8万5,000円。手取りの約4割が住居費に消えます。そこに光熱費、通信費、食費を加えると、貯蓄に回す余裕はほとんどありません。

「社販があるから仕事用の服は何とかなる。でも、家賃と光熱費を払うとほとんど残らない」

そう話す沙織さんの目の下には、はっきりとしたクマがありました。母が一番ショックを受けたのは、部屋の散らかり方そのものより、娘の言葉でした。

「片づけなきゃって思うんだけど、帰ってくるともう動けなくて……」

朝9時に出勤し、帰宅は21時過ぎ。立ち仕事と接客で体力を使い果たし、休日は寝て終わることも多いといいます。

「誰も来ないし、多少汚くても困らないし」

それは合理的な判断のようでいて、明らかに生活が崩れ始めているサインでした。

親はどこまで踏み込むべきか…“異様な部屋”が教えてくれたこと

内閣府『令和6年版 子供・若者白書』では、若年層の孤立感やメンタル不調の増加が指摘されています。一人暮らしは自由である一方、生活の歯止めが効かなくなるリスクもあります。特に、仕事と生活の切り替えがうまくできない場合、「食事」「睡眠」「整理整頓」といった基本的な行動が後回しになりがちです。

美智子さんは言います。

社会人としてちゃんとやっていると思っていた。でも、生活そのものが壊れかけていたなんて……」

「一緒に片づけようか」

母の提案に、沙織さんは一瞬ためらったあと、静かにうなずきました。

「正直、誰かに来てほしかったのかもしれない」

親の過干渉は避けたい。でも、完全な放置も危険。その境界線はとても曖昧です。

ワンルームの散らかりは、だらしなさの問題ではありませんでした。それは、若者が抱える生活の限界を可視化した結果だったのです。

都会での一人暮らしは、自由と引き換えに、想像以上の重さを背負うこともあります。その現実は、部屋の隅に積み上がったゴミのように、静かに、しかし確実に生活を圧迫していくのかもしれません。