別次元の価値観 オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン 6年のレストアで再生 後編
6年の月日をかけた見事なレストア
今回ご登場願った、オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマンは、1953年8月にロンドンで販売されているが、最初のオーナーから20年後までの詳細は不明。1974年にグレートブリテン島の南端、フォークストーンに住む人物が買い取っている。
【画像】別次元の価値観 A70 ヘレフォード・カントリーマン 北米のウッディ 同時代の英国車も 全113枚
しかし、当初はレストアするつもりだったが、廃屋に放置されたようだ。NYE 631のナンバーを付け、沢山のスペアパーツと一緒に。

オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)
1995年、隣町のアシュフォードに住むデビッド・バンクス氏がクルマの存在を知り救出。6年の月日をかけて、見事なレストアを施した。シャシーからボディを降ろし、ウッドフレームも徹底的に仕立て直したという。
公道へ戻ったA70 ヘレフォード・カントリーマンは、2001年からの10年間をデビッドとともにした。その後、ステーションワゴンを中心に収集する、ジェームズ・ハル氏へ売却。500台以上といわれた彼のコレクションに加わった。
2014年にジェームズはコレクションの処分を決め、ジャガー・ランドローバー(JLR)社へ売却するが、関心を引いた100台を除いて手元には残ったらしい。そして数年後、残りのコレクションはオークションへ出品されることになった。
そこには、A70 ヘレフォード・カントリーマンも含まれていた。自走できなかったが状態は良好で、グレートブリテン島の中部、ブロムスグローブの町に住む現オーナー、ブライアン・ボクソール氏が購入している。
ログハウスのような温かみがある車内
「エンジンは掛からず、ブレーキは固着していました」。と、ブライアンが振り返る。燃料系と点火系にも手を加え、タイヤは新調。2020年9月から3か月をかけて整備し、車検を受け、2020年12月に路上へ復帰した。
購入当時、NYE 631のA70 ヘレフォード・カントリーマンは、現存する唯一の個体ではないかと彼は考えていたという。だが、他にも残っているようだ。

オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)
「残存数は極めて少ないですね。7年間に3モデル合計で約2900台が作られていますが、農場や工場の実用車として酷使されていましたから。ニスやオイルで木材をケアしないと、すぐに腐ってしまいますし」。ブライアンが説明する。
可愛らしいい見た目のA70 ヘレフォード・カントリーマンは、全長が4242mm、全幅が1766mmあり、想像するよりサイズは大きい。A70 ヘレフォード・サルーンからは、戦後の緊縮財政の薄暗い雰囲気を感じるものの、ウッディはポップで明るい。
美しいテールゲートは、中央で分かれる観音開き。車内もニスで塗られたウッドで満たされ、山袖に立つログハウスのような温かみがある。天井は木が格子状に組まれており、丁寧な仕事ぶりを楽しめる。
スチールが露出した、ボディカラーと同色のダッシュボードと、好ましいコントラストを生んでいる。フロントガラス越しに広がるボンネットでは、Aのカタチをモチーフにした、フライングAと呼ばれるマスコットが行く先を示す。
トルクが太く現代でも許容できる動力性能
フロントシートは、ダンロピロ社製の左右に別れたベンチタイプ。フェイクレザー、レキシン材で仕立てられている。リアシート側の空間にも余裕があり、6シーターのファミリカーとして不足ないパッケージングを得ている。
リアシートを倒すと、巨大な荷室が生まれる。荷物を沢山積んで、しっかり働けそうだ。

オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)
公道を走らせてみると、21世紀の交通にも対応できる印象。交通量が少なければ、120km/hくらいまで加速することもできそうだ。しかしブライアンによると、下り坂ではブレーキが心もとなく、80km/hまでに抑えた方が良いという。
2.2Lの4気筒エンジンは、やや雑味を伴って回転する。それでも低速トルクが太く、粘り強い。コラムシフトでの変速は、最小限で済ませられる。特に急かして走らない限り、今でも充分に許容できる動力性能といえる。
一度動き出せば、基本的には3速と4速だけでまかなえる。クラッチペダルを丁寧に踏んで2速へシフトダウンしても、加速の勢いに目立った違いはない。
ステアリングホイールは大径で、テコの原理で低速域でもさほど重くはない。早め早めに予測しながらの運転は求められるが、操縦性は正確と表現していい。乗り心地も過度にぐらつくことはなく、カーブでもキビキビと身をこなす。驚くほどに。
われわれを惹きつける素朴な魅力
そんな好印象なA70 ヘレフォード・カントリーマンだが、英国製ウッディの終わりを象徴するモデルとして歴史には刻まれた。1950年代半ばまでに英国政府は規制を緩和し、高価で維持に手間のかかるウッドボディの需要は急減したのだ。
オースチンも、セパレートシャシー構造からモノコック構造へ技術を進化させ、ルーフを切り取りウッドボディを載せることが難しくなった。モーリス・オックスフォード・トラベラーやマイナー・トラベラー程度へ、選択肢は絞られてしまった。

オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)
ボディを生産したパップワース・インダストリーズ社は、スチール製ボディのA70 ワゴンを試作したものの、その後は郵便向けのバンやグリーン・ゴッデスと呼ばれる消防車両へ事業を移した。しかし、個々の部門毎に売却され現存はしていない。
現在では製作すら難しい、ウッドボディのA70 ヘレフォード・カントリーマンは、われわれを惹きつける素朴な魅力に溢れている。可愛らしい見た目と、木材ならではの温かみは、われわれのクルマへの価値観を覆す。
実際、ブライアンが向かう先々で、小さくない人だかりができるという。クラシックカーのイベントだけでなく、ゴミ処理センターでも。
協力:グラフトン・マナー・ホテル、ブロッケンコート・ホール・ホテル
オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)のスペック
英国価格:818ポンド(新車時)/2万5000ポンド(約400万円)以下(現在)
販売台数:1500台
全長:4242mm
全幅:1766mm
全高:1664mm
最高速度:130km/h
0-97km/h加速:21.4秒
燃費:7.8km/L
CO2排出量:−
車両重量:1281kg
パワートレイン:直列4気筒2199cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:69ps/3800rpm
最大トルク: 16.0kg-m/1700rpm
ギアボックス:4速マニュアル
