長らく全日本女子バレーを支え、ロンドン五輪銅メダルの立役者となった木村沙織が、最後の戦いを終えた。


5日に行なわれたファイナル6のNEC戦で、最後の雄姿を見せた木村 今季限りでの引退を表明していた木村が所属する東レ・アローズは、V・プレミアリーグのレギュラーラウンドで苦戦を強いられた。1レグで1勝6敗とつまずき、中盤まではチャレンジリーグとの入れ替え戦もちらつくまで順位を落とすこともあった。しかし、妹の木村美里との2人サーブレシーブ体制で起死回生をはかると、尻上がりに調子を上げ、6位に滑り込んでファイナル6進出を決めた。

 レギュラーラウンド上位6チームによって争われるファイナル6は、1位5ポイントから6位0ポイントまで持ち点に差をつけられる。6位の東レは持ち点ゼロからの厳しい戦いだったが、初戦のJT戦をフルセットの死闘で白星をゲット。久光製薬戦もフルセットまでもつれた試合で、敗れはしたものの1ポイントを獲得し、続く日立戦ではまたもフルセットで勝利するなど粘りを見せた。

 4日のトヨタ車体戦では、木村がチーム最多の22得点をあげる活躍で3-1と勝利。下北沢成徳高校の先輩でもある荒木絵里香(トヨタ車体)が、「やめてしまうのは本当にもったいない」とコメントするほどの気持ちの入ったプレーで、チームのファイナル3進出へ可能性を残した。

 そして運命を決める5日のファイナル6最終戦の相手は、レギュラーラウンド1位のNEC。3-0か3-1で勝たなければ敗退が決まる厳しい状況の中で始まった試合は、木村の攻守にわたる活躍もあり、東レが第1セットを先取する。2セット目はNECの古賀紗理那、近江あかりなどの攻撃に苦しめられ、終盤までリードを許すが、22-22と追いついて先にセットポイントを握った。しかし、そこから再び逆転され、26-28でセットを落としてしまう。

 3セット目も途中で逆転を許すと、勢いは戻らずNECに取られ、試合終了を待たずに東レのファイナル6敗退と、木村の最後の試合となることが決まった。木村は第4セットの途中で両足がつり、コートの外に運ばれてマッサージを受け続けたが、再びコートに戻る前に試合は終了。倒れて痛がる木村に、相手の古賀が駆け寄り、気遣う姿が印象的だった。

 試合後の記者会見では、詰めかけた報道陣に「記者会見では、本人の意向により、試合についてだけの質問に限らせてもらう。引退についての質問は受け付けない」との異例の通告があった。

 木村は、「今日はまず3ポイント(3-0、または3-1で勝つこと)が一番の目標でした。スタートはすごくいい入りでしたが、最後に取り切れなくて、今シーズンを象徴するような展開でした。でも、東レらしいバレーができたので、それはよかったと思います。足がつってしまった後も、最後までコートに立ちたいと思い続けながら声援を送りました」と試合を振り返った。

 木村と古賀がお互い相手を狙って打ち合いになった場面もあったが、「紗理那は得点力が高いので、少しでもそれを削ぐために狙いましたが、なかなか抑え切れませんでした。私たちは今日で終わりですが、ファイナルでも、全日本でも頑張ってほしいですね」と全日本のホープにエールを送った。

 チームメイトやバレー関係者からは、ねぎらいと引退を惜しむ声が相次いだ。

 妹の美里は、「姉と2枚サーブレシーブ体制にすると言われたときは、最初『えっ!』と驚きました。やっていると、必ず私が狙われるんです。それは、私がサーブを打つ人間でも妹のほうを狙いますから(笑)。でも、そういうときにいつも姉がカバーに入ってくれて、助けてくれました。ファイナル3に進出ができなくても、勝って終わりたかった」と唇を噛んだ。

 東レの菅野幸一郎監督は、木村の最後の試合となったことについて、「チームとして、そこにはあまりとらわれすぎないようにしようと思っていた。沙織は日本の選手の中では今もトップレベルにいると思う。あのテクニックと高さをもってすれば、あと5年くらいは普通にできると思う。ただ、あまりリーダーシップを発揮するタイプではないのに、年齢的にそういうものも必要とされてきて、大変だった。とりあえず1回はやめるということで、送り出そうと思います」と語った。

 木村と共に、アテネ五輪を主将として戦った吉原知子監督(JT)は、「長い間お疲れ様、という気持ちと、『本当に引退するのかな?』という気持ちと半々ですね」と、日本女子バレー史上初の五輪4大会出場を果たした後輩の最後が、まだ信じられない様子だった。

 試合開始前には、母校・下北沢成徳の後輩たちが、2階席から「さおり―!」という大声援を送り、気づいた木村が手を振って応えるシーンもみられた。

「成徳のみんなが客席に来てくれたのが目に入り、いつも以上の大きな声で名前を呼んでくれたのが嬉しくて、『絶対に勝ちたい』と思ったのですが……」と、苦笑いした木村。涙を見せなかったことについては、「リオ(迫田さおり)やスタッフが涙ぐんでいるのを見て、つられてウルっときたんですけど、意地でも泣かないぞと決めていたので」

 高校生で全日本に初選出されて以来、30歳になる今年まで、大きなケガもなく毎年招集され続けた「ミラクルサオリン」。日本に奇跡をもたらしてきたエースは、最後まで笑顔だった。

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