毎週金曜日は「ギュッと肩を寄せ合い…」「パクっと口で」野口聡一さんが明かす、宇宙飛行士たちの『数少ない娯楽事情』〉から続く

 宇宙飛行士たちは、宇宙生活でどんな食生活を送っているのか? なんとなく無味乾燥なものを食べているイメージもあるが、その実情は、想像よりも「ちゃんとしている」ようだ。元宇宙飛行士・野口聡一さんの新著『宇宙でラーメンは食べられるか 宇宙暮らしのロマンと現実』(幻冬舎)から、一部抜粋してお届けする。

宇宙の食事情】『すし』でも『ラーメン』でもない、宇宙飛行士に人気の「宇宙日本食」とは?


宇宙飛行士の野口聡一さんが明かす、宇宙の食事情(書籍より、以下同)

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寿司でもうどんでもない、宇宙で人気の「日本食」とは?

 日本食は世界に誇る文化であり、海外でも人気です。宇宙でも例外ではありません。JAXAが国内のメーカーと開発する「宇宙日本食」は、各国の宇宙飛行士の好評を博しています。

 ISSで食べられる宇宙食は、標準食とボーナス食に大別できます。

 標準食とは、アメリカのNASAとロシアが提供する宇宙食のこと。ISSに長期滞在する宇宙飛行士のうち、NASAから派遣された宇宙飛行士はNASAの標準食が、ロシアから派遣された宇宙飛行士はロシアの標準食が、メインの食事となります。

 いっぽうのボーナス食とは、宇宙飛行士が選んで持って行く宇宙食のこと。各国のメーカーが開発しており、宇宙日本食はボーナス食に該当します。私が人類としてはじめて食べた宇宙食ラーメンもボーナス食です。

 とろろにオムレツ、うなぎ、ひじき、きんぴらごぼう、ハンバーグなど、宇宙日本食は現在50品目以上ありますが、なかでも人気なのがカレーです。

 無重力状態では体液が頭のほうに集まることはすでにお話ししましたが、これにより宇宙ではつねに鼻が詰まったような状態となり、嗅覚や味覚がにぶくなる傾向があります。そのため宇宙食は、スパイスがきいたものや辛いものなど、味のわかりやすいものが好まれます。

 スパイスがきいていて辛さもあるカレーは、まさに宇宙食にうってつけ。同じく宇宙日本食の白飯と一緒に食べれば、地上と変わりないカレーライスを楽しめます。

シュリンプカクテルにチーズまで……意外とおいしい宇宙

 もちろん、NASAの標準食にも人気メニューがあります。私のイチオシはシュリンプカクテルです。むき身の小えびをソースにディップして食べるシュリンプカクテルは、アメリカやイギリスでは前菜として親しまれています。NASAのシュリンプカクテルはソースとのバランスが絶妙で、地球で販売しても売れるのではないかとひそかに思うほどです。

 もう1つ、シュリンプカクテルと並ぶ人気標準食があります。トヴァロークと呼ばれるロシアのチーズです。英語表記ではcottage cheese、つまり「カッテージチーズ」なのですが、これがアメリカや日本で食べるカッテージチーズより抜群においしいんです。

 トヴァロークはロシアではとてもポピュラーなチーズで、料理にもデザートにも使われるそう。宇宙食のトヴァロークはデザートに分類され、ほのかな甘みがあってクリーミー。私はもちろん、ほかの宇宙飛行士にもファンが多い逸品です。

 食には、コミュニケーションを円滑にする役割もあります。ISSでは、お気に入りの標準食やボーナス食をほかの宇宙飛行士に分けてあげたり、交換したりする光景が珍しくありません。そうやってクルー同士でコミュニケーションを深めているのです。2回目のISS滞在中には、宇宙飛行士の山崎直子さんと共同で手巻きずしをつくり、クルーに振る舞ったこともあります。

 現時点では、宇宙への食品の持ち込みにはさまざまな制約があります。けれど、みなさんが宇宙で暮らすころには、もっと気軽に食品を携行できるようになるはず。お気に入りの日本食を持って行って、ほかの国の旅行者とぜひ一緒に味わってください。きっと忘れられない思い出になるに違いありません。

〈「自分の肛門を見ながら…」「尿は飲料水に」元宇宙飛行士が経験した、国際宇宙ステーション(ISS)の意外過ぎる“トイレ事情”〉へ続く

(野口 聡一/Webオリジナル(外部転載))