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銀行振込、チケット予約、確定申告・・・。生活のあらゆる手続きがスマホひとつで完結する現代。「選挙もスマホなら、大雪など気にせず投票する人も多いのになー」などと考えたことはないでしょうか。なぜ選挙だけが「指定された場所に行き、紙に鉛筆で名前を書く」というアナログな方法をずっと守っているのでしょうか?

自治体によっては「投票所の入場」まではスマホでできるようになりましたが、「投票そのもの」は今も紙です。

その理由は、「技術的にできない」のではありません。そこには「憲法に起因する厳格なルール」と、デジタル技術の間に大きな課題があるためだと考えられるのです。

■投票、それは管理者も知ってはいけない「絶対の秘密」

ネット投票システムを開発するとなると、技術者が最も悩むことがあるといいます。それは「誰が投票したかは特定しつつ、誰に入れたかは(システム管理者すら)絶対に知ってはならない」ということです。どういうことでしょうか。

それは日本国憲法の第15条、第4項に関係します。

「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない」

この条文は、単に「他人に知られない」というレベルの話ではありません。「国家権力や選挙管理者であっても、個人の内心(誰を選んだか)を知ることは許されない」という強力な規定ととることができるのです。

そこから生まれるのが、ログ(記録)の課題です。

■必要なデータと、あってはならないデータ

一般的なWEBシステム(通販やSNSなど)は、トラブル解決のために「管理者がデータの中身を確認できる」ように作られています。しかし、選挙ではこれが憲法違反のリスクになると解釈できるのです。

○本人確認(認証)・・・「Aさんが投票した」という記録は、二重投票を防ぐために絶対に必要です。

○投票内容(秘密)・・・「AさんがB候補に入れた」という紐付けは、データベース管理者であっても解読できないことが望ましいのです。

つまり、「本人確認は完璧に行い、しかし投票データと個人情報は完全に切り離し、システム管理者やハッカーがどう解析しても絶対に繋がらない仕組みを作る」

この「完璧な紐付け」と「完璧な切り離し」を同時に行うことが、現在の技術を使ったとしても法的に高いハードルとなっていると考えられます。「管理者がこっそり見ているかもしれない」という疑念が少しでも残るものであってはならないのです。

■投票時の「強要」と「買収」の抑止力がない

現在の投票所には「記載台」があり、監視員がいます。これは、あなたが誰の名前を書いているか、家族や上司であっても見ることができないようにするための「物理的な仕組み」です。

もし自宅からのスマホ投票が可能になったら、「投票への干渉」が容易になります。極端ではありますが、次のようなことも考えられるのです。

○DVやパワハラによる強要・・・夫が妻に、あるいは社長が社員に「俺の目の前で、この候補者に投票しろ」とスマホ操作を強制する。

○票の売買(買収)・・・「この候補に入れた画面のスクショを送れば5000円送る」といった買収が容易になる。

投票所という空間は、「誰からも干渉されず、たった一人で自由な意思決定をする権利」を守るための大切な場所でもあるのです。

■リスクをしっかり考えるほど、導入できない?

サイバー攻撃のリスクはゼロにはできませんが、選挙におけるシステム障害は、銀行や流通系のシステムトラブルとは比較にならないほど大きな問題となります。

銀行の場合・・・仮にお金が盗まれても、保険で補填したりデータ自体は修復も可能です。

○選挙の場合・・・もし大規模な改ざんが発覚したり、サーバーダウンで投票できない人が出たりすれば、「選挙のやり直し」が必要になります。

「あの選挙結果は操作されたものだ」というデマが一度でも広がれば、政治そのものへの信頼がゆらぐことにもなります。「100%絶対に大丈夫」と国民全員が納得できるシステムでない限り、国として導入することは、しっかりとした国であればあるほど難しいと考えるのが普通です。

ネット投票実現への動きは

それでも、解決策を模索する動きがあります。日本では、公職選挙法上の「自書式投票(紙に書く)」が原則ですが、段階的なチャレンジが進んでいます。

○海外からの投票は・・・海外に住む人は、郵便投票が間に合わないケースが多く、最もネット投票のニーズが高いと言われています。政府は導入に向けてシステムの検証を行っています。が、やはりセキュリティ面の問題があります。

デジタル投票所入場券の普及・・・「投票」は紙ですが、「入場」の手続きはデジタル化が進んでいます。いくつかの自治体で、郵送されたハガキがなくてもスマホ画面の提示で入場できる仕組みが導入されています。

ネット投票が実現するためのカギは、投票という「個人の不可侵の行動」をしっかり守ることができるのか、です。

しかし、若い世代の政治参加や、身体が不自由な人の権利を守るためにも、しっかりと秘密が守られた投票をネット経由で実現させる努力は必要だと感じます。

だって、想像するだけで便利ですもん。ネット投票は。