仕事のデキる人はむやみに「大丈夫」とは言わない…プレッシャーに弱い部下の心に火をつけた上司のアツい一言
※本稿は、安達由紀代『困った部下は声かけで変わる そのまま使えるフレーズ70』(現代書林)の一部を再編集したものです。

■クレーマーに悩む人にかけるべき一言
クレーム対応は誰でも大変だよね
クレーム対応をしている場面で、いつも焦ってしまい、うまく対処できていない部下に対し、上司としてあなたが「少しでも気持ちを楽にしてあげたい」「励ましたい」と思うのは自然なことです。
しかし、この残念な声かけは、一見、共感を示しているように聞こえますが、「大変なものだから仕方がない」という認識を部下に与える可能性があります。
このような言葉は具体的な対処法を示していないため、部下の不安を軽減することにはつながりません。次にまたクレームが来ても、冷静に対応することはできないでしょう。
上司が寄り添う姿勢を示すことは重要です。しかし、苦労を認めるだけでは、部下が「どう対応すればよいか」がわからずに戸惑うだけです。
さらにひどいクレームがあった場合、部下が自信を失い、最悪の場合は休職につながる可能性すらあります。
まず大切なのは、クレーム対応では冷静さが重要だと伝えることです。さらに、そのための方法を一緒に考えることです。
「冷静に対応するコツを一緒に考えませんか」と声かけすることで、部下は「自分だけで悩まなくてよい」という安心感を得られるでしょう。さらに、実践的な解決策を学ぶ機会が得られます。
こうしたやり取りを通じて、部下との信頼関係も強化されるはずです。
いざというとき、クレーム対応を共に考えてくれる上司の存在は心強いです。部下のモチベーションを高め、前向きに問題へ取り組む姿勢を育むでしょう。
■自分の頭で考えない困った部下には…
考えすぎずに、まずは行動してみてはどうですか
上司や同僚に頼りがちな部下で、周りの人の時間を浪費している場合、「まずは行動しましょう」と促すのは十分ではありません。
部下が「深く考える必要がない」と誤解する可能性があります。行動意欲を削ぐ結果になりかねません。また具体的な指針がないと、「どう進めたらいいかわからない」と混乱するだけです。
部下の中には、「聞けば教えてもらえる」と思い込み、思考をとめてしまっているケースもあります。結果として、頼られているメンバーは余計な時間をとられ、チーム全体のパフォーマンスが下がっているかもしれません。
上司として重要なのは、部下が自律的に成長できる土台をつくることです。
「自分で考え、情報を探す」というプロセスを後押ししてください。そして、部下1人では困難が生じたときには適切なサポートを提供するのです。このバランスが鍵となります。
■「自ら動く」ための第一歩は、具体的な提案
まずは、具体的な行動を提案します。それが「自ら動く」ための第一歩です。
「周りの人に確認する前に、マニュアルや事例を調べると理解が深まるかもしれませんね。もちろん、それでもわからないときは、ぜひ声をかけてくださいね」などといった声かけをすれば、部下に行動の指針を示すと共に、安心感を与えることができます。
部下が自ら取り組む経験を積ませてあげてください。自信がついてくれば、自分の力で自律的に成長ができます。そのことが、チーム全体のモチベーション向上にも寄与するでしょう。
周りの人に確認をする前に、マニュアルや事例を調べてみると理解が深まるかもしれませんね。もちろん、それでもわからないときは声をかけてくださいね
■「励ましの言葉」が逆効果に…
大丈夫、きっとできるはずです
責任ある仕事を任されると、部下がその重圧に不安を抱えるのは自然なことです。
「大丈夫、きっとできるはずです」という言葉は励ましとして使われることが多いですが、実際には部下の不安を払拭できません。
逆にプレッシャーを強めてしまうだけです。部下は「でも、どうすればよいのかわからない」と感じるだけでしょう。
こうした状況で重要なのは、ただ励ますだけでなく、具体的な支援方法を示し、部下が安心して業務に取り組める環境を整えることです。
また、「任せる」といいながら、実際には丸投げになっていないか、自分に問いかけてみることも大切でしょう。
効果的なアプローチは、部下の気持ちに寄り添いながら、部下の負担要因を確認して、共に解決策を考える姿勢を示すことです。そうすることで、部下の不安を和らげ、1人で抱え込む必要がないことを伝えられます。
そうした対話が、「困ったときは相談していいんだ」「この上司は本当に支えてくれる」という信頼につながっていきます。

結果として、部下は責任の重さだけでなく、それを支えてくれる安心感の中で、自信を持って業務に向き合えるようになります。
次のような理想の声かけをすることで、責任をともなう仕事への恐怖心が軽減され、自信を持って取り組む姿勢が育まれるでしょう。
いま、どんなサポートが必要ですか。
手伝う準備はできていますよ
■「失敗を恐れる部下」の背景事情
成長のために、リスクを恐れず挑戦してみませんか
失敗を恐れて責任を回避する部下に対して、「リスクを恐れず挑戦してみませんか」という声かけは、意図としては前向きですが、大きなプレッシャーとなりかねません。
特に失敗への恐怖心が強い場合、「挑戦する=失敗する可能性が高い」という不安を助長することもあります。その結果、逆に行動を避けるような態度が強まることすらありえます。
重要なのは、失敗を恐れる気持ちを否定しないことです。計画的な進め方を提案し、具体的なサポートを提供しましょう。
多くの部下は「責任を問われたときの評価」や「周囲の目」に敏感になっており、その不安が挑戦を遠ざけてしまっているのです。

だからこそ、「挑戦=孤独ではない」と伝えることが、上司としての大切な役割です。
■必要なのは「安心感+具体的な行動指針」
「初めから失敗を考えるのではなく、しっかりと計画をして進めていきませんか」などの声かけにより、部下に安心感を与えつつ、具体的な行動指針を示すのです。
また、「どの部分に不安を感じているのか」を丁寧にヒアリングし、共に解決策を考えることで、部下が状況を整理する手助けとなります。
さらに、「最初から完璧を目指す必要はありません。小さなステップを踏みながら進めることで自信をつけていきましょう」という声かけも有効です。
挑戦への抵抗感を和らげ、まず一歩を踏み出すための勇気を与えることができるでしょう。
こうした声かけをすることで、部下は「リスクがあっても、計画的に進めることで成果を得られる」と理解し、自ら行動に移す意欲が高まるはずです。
初めから失敗を考えるのではなく、しっかりと計画をして進めていきませんか
■若手行員が打ち明けたホンネ
昼休み明けのオフィス。電話を切ったばかりの若手行員Sさんが机に突っ伏していました。
私はその様子に気づき、「Sさん、大丈夫ですか」と声をかけると、彼は眉間にしわを寄せたまま話を始めました。
「お客様から預金の手続きの件で苦情がありまして、何度も説明したのですが、まったく聞く耳を持ってもらえなくて……正直、自分が何を話しているかもわからなくなりました」
私は「クレーム対応は誰でも大変だよね。経験を積めば慣れるよ」と声をかけました。
すると、Sさんの目は少し泳ぎ、「……そうですね」と頷きました。そこで会話は途切れてしまいました。
18時過ぎ、帰り支度をしていた私に、Sさんが意を決したように声をかけてきました。
「課長……。すみません、さっきの話なのですが」
「ん? どうしたの?」
「自分でも、感情的にならずに対応しなければとわかっているのですが、ああいう理不尽な怒り方をされると、正直、怖くて、手が震えるのです」
Sさんの声には、張り詰めた糸のような緊張と、本音がにじんでいました。
「課長から『誰でも大変』っていわれたとき、あたふたしてしまった自分が、何か、ダメだといわれているように感じてしまって……すみません、うまくいえないのですが」
■部下を救った「40代課長の言葉」
その言葉に、私はハッとしました。
「……そうか。Sさん、勇気を出していってくれてありがとう」
私は帰り支度の手をとめ、Sさんに向き合いました。

「改めて話をさせてくれるかな。クレームって確かに感情的になることが多いですよね。冷静に対応するっていう言葉は簡単だけど、実際はすごく難しいです」
私の言葉に目を丸くするSさんに、こう続けました。
「だからこそ、1人で抱え込まずに、対応のコツとか、考え方を一緒に整理していきましょう。例えば、相手の怒りの背景に何があるかを聞き出す質問とか、先回りして共感する言葉の使い方とか。僕も、新人の頃はお客様に何度も詰められて、電話のあとにトイレで肩を震わせたよ」
「課長でもそんな時期があったのですね」とSさんは笑顔になりました。
そんなSさんを見て、私も頬をゆるめました。
「もちろん。完璧な人なんていないよ。でも、だからこそ、お互いの経験を持ち寄って、少しでも前向きに対応できるようにしたいなあ。どうかな?」
「……はい。正直、少し気が楽になりました」
「じゃあ明日、10分だけ時間もらえますか? いくつか、役に立ちそうなケースを一緒に振り返ってみよう」
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安達 由紀代(あだち・ゆきよ)
プロコーチ
新卒で日本銀行に入行。政策委員会室などに在籍し30年以上勤務。帯状疱疹を患い、一時的に視力を失う経験より、自身の在り方、キャリアについて根本から見直す。2019年に世界有数のコーチングカンパニーCTIのセンター長と出会う。CTIジャパンでコーチングを学んだ後、2021年に日銀を任意退職。2022年に株式会社 TRUE LIFE MISSION を設立。主に管理職を対象に、4500回におよぶコーチングセッションを通じて、目に見える成果だけでなく、クライアントの在り方や意識の変容も支援している。主な資格は、米国CTI認定 CPCC、日本FP協会認定 AFPなど。
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(プロコーチ 安達 由紀代)
