【高口 康太, はちこ】ファン投票券の買い占め・転売も…中国のアイドルをめぐる「マネー戦争」の現実 自腹で街頭広告を出すスゴいファンたち

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カオスすぎる中国のアイドル・ファン

さて、前編で見てきたように、中国の第二次アイドル・オーディション番組ブームは、韓国の「PRODUCE 101」を起点としている。独自の進化をはじめつつあるとはいえ、まだまだ韓国の模倣から抜け出せていないことも事実だ。

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むしろ、中国独自の進化を遂げているのは、アイドルを取り巻くファンと、そのエコシステムである。

オーディション番組につきものの投票の仕組みだが、前述のとおり現金を積めばいくらでも投票できるシステムは、中国共産党によって禁止された。そのため、現在では抜け穴的な投票システムが採用されている。番組スポンサーの商品に投票権付きQRコードがおまけとしてついており、商品を買えば投票できるという仕組みなのだ。

面白いことにアイドル・オーディション番組のスポンサーはほとんどが乳製品メーカーだ。「創造営2021」は大手乳製品メーカー・蒙牛のフルーツ牛乳。突撃するお姉様はライバルの乳製品メーカー・伊利といった具合だ。アイドル・オーディション番組は乳製品メーカーの代理戦争でもある。

蒙牛乳業の牛乳[Photo by gettyimages]

ファンたちは日々、必死で牛乳を飲みまくっているわけだが、それだけでは追いつかない。実は店頭から牛乳を買い占めて投票券だけを転売する代行販売業者が存在している。毎日、コンビニで牛乳を買って投票するなどという牧歌的スタイルでは、推しアイドルを勝たせることはできない。代行販売業者から投票権を買い占めなければならないのだ。

そこで登場するのがファン組織だ。グレーな存在である代行販売業者とのお付き合いは一般人にはハードルが高いため、組織が金を集め、まとまった金額でどっさりと投票券を買い集めるのである。

この公然の秘密が思わぬ形で明らかになってしまった。5月、代行販売業者がオーディション番組「青春は君にある3」の投票券を取り出すため、牛乳を開封しては排水溝に廃棄している動画がSNSで暴露されてしまったのだ。

「青春は君にある3」ファンイベントの様子[Photo by gettyimages]

食品の無駄を禁ずる反食品浪費法が成立した直後というタイミングの悪さもあり、一気に社会問題化。番組は最終回を目前に放映が無期限延期となったほか、牛乳メーカーが謝罪に追い込まれるなど、アイドル・オーディション番組=牛乳戦争がお取り潰しとなる可能性すら取り沙汰されている。

ファン組織の活動も想像以上

さて、ファン組織は集金手法によって「後援会」と「ファンサイト」とに分けられる。後援会は会員たちがお金を出し合って投票券を購入する団体だ。効率的にアイドルへ投票できるだけではなく、会員の総意としての意見を表明できるため、アイドルが所属する事務所も丁重に扱わざるを得ない。「物言う株主」ならぬ「物言うアイドル・ファン」として、芸能事務所の戦略にも影響を与えられるようになるわけだ。

報道によると、「青春は君に3」を応援する後援会では、わずか6時間で1000万元(約1億7000万円)近い金を集めたケースもあったという。

また、せっかく投票券を仕入れても、同一アカウントから1人のアイドルに投票できる数には上限がある。そこで必要となるのが「外交」だ。上限に達して投票できない票を別のアイドルに投票するかわりに、そのアイドルの後援会に自分たちの推しアイドルに投票してもらうのである。金集めだけではなく他陣営との交渉も必要とは、後援会運営も大変だ。

また、「代投」という新たな仕事も生まれているという。投票券を受け取って代わりに投票するという仕事だ。

得られる報酬は数百円程度というが、スマホをポチポチしているだけでお金がもらえるのだからやってみようという人が中国にはごろごろしている。投票券はQRコード、報酬の支払いはモバイル決済、スマホのチャットアプリ経由で仕事のおさそいがやってくる。すべてがネットで完結する中国だからこそ成り立つ新職業、それが「代投」というわけだ。

アイドルをめぐる「マネー戦争」の実態

ちなみに「アイドル×ファン×マネー」の構図は、オーディション番組だけではない。見事にデビューしたアイドルは主な稼ぎ口としてCM出演がある。「アイドルAくんはこの商品を応援しています(にっこり)」という、商品アンバサダーはアイドルにとって大きな収入源だ。

日本だとアイドルがCMに起用されると、景品となる限定グッズでもない限りその商品を購入するファンはあまりいないだろうが、中国では「Aくんがアンバサダーになった後、どれだけ売り上げが伸びたか」という数字を作るために、後援会が必死に買い支えるのである。「ファンの購買力=アイドルの商業的価値」という構図だ。

さて、後援会の話が長くなったが、ファン組織にはもう一つ、ファンサイトと呼ばれる形態もある。こちらは後援会以上に現金主義だ。

日本人のファンが出した街頭広告(日本人ファン提供)

推しアイドルの情報や、パパラッチ的追っかけによって撮影された写真を公開しているサイトである。こうしたファンサイトはアイドルの許可なく、勝手に海賊版グッズを作成して販売していることが多い。金を稼ぐためというよりも、街頭に応援広告を出す、あるいはアイドルに誕生日プレゼントを送るための資金集めが目的というケースが多い。

グッズを購入するファンも「代わりに応援よろしく!」「いつもステキな写真をありがとう」という気持ちで、半分寄付のようなノリの人が多い。さらに本来ならば取り締まる立場の事務所ですら、自分たちのタレントの人気が上がり、投票してもらえるというメリットを鑑みて、黙認しているケースもある。

そもそも、事務所にとってもオーディション番組は戦争だ。所属タレントを最後まで勝ち残らせるために、グレーな手段を使っていると噂されている。ファンではなく、事務所が仲介業者から投票券を仕入れて投票するのもよくある話なのだとか。それが問題になるどころか、ファンから「事務所の支援が足りない。もっと現ナマをぶちこめ」と怒りの声が上がるのも中国流だ。

日本人のファンが出した街頭広告(日本人ファン提供)

超「集金」社会・中国に未来はあるのか?

がっつりお金をかけて作った、ハイレベルで面白い番組があり、さらにその周りにはカオスすぎるファン組織の熱い盛り上がりがある。その勢いと熱狂こそが中国のアイドル・オーディション番組の魅力だ。

私自身がドハマリしたように、その面白さは折り紙付きである。

だが、このマネーが飛び交うアイドル・オーディション番組の熱狂、その裏側にむなしさを感じることも事実だ。というのも、オーディション番組出身のアイドルたちは、しばしば「デビューがピーク」と言われる。面白すぎる番組で人気が爆発するが、それ以上の盛り上がりはない。新しい番組が次々公開されるため、ファンは次のアイドルへと移っていき、減っていく。

「創造営2021」で勝ち残った11人によって結成されたグループ「INTO01」も今はすさまじい人気で、早くも20社とのCM契約が決まっている。だが、ここが天井となる可能性は高い。

そもそもこのグループは2年間限定での活動と決められている。番組制作者側も「デビューがピーク」ということをよく理解しているからだろう。すばらしい才能の若者たちが厳しい戦いを勝ち抜いてデビューしたというのに、この使い捨ての手法はいかがなものか。

「創造営2021」で勝ち残った11人によって結成されたグループ「INTO01」(テンセント提供)

もちろん、日本のアイドルだって若さが最大の武器で、卒業したら消えていく人も多い。それでも中国よりは長い時間をかけて活動するし、セカンドキャリアに向けて成長し努力する姿をファンは応援することができる。

中国のアイドル・オーディション番組にハマった私だが、アイドル活動のあり方、アイドルの育て方としては、日本式のほうが好きだ。だが、今の中国に導入するのは難しいようだ。一時は日本式の「成長するアイドル」を手がける事務所もあったが、現在ではほぼ見られない。オーディション番組で一気に人気をあげて短期間で集金するモデルのほうが、手っ取り早く金になるから、なのだろう。

化粧品や衣料品などの日用品から、ドラマやアニメなどのコンテンツにいたるまで、次々と新商品が登場、バズっては消費されて消えていく。そのような現代中国の仕組みにアイドルも組み込まれてしまった。

しかし、アイドルは「モノ」ではない。今のように使い捨て的な「大量生産・大量消費」はいつまでも続かないのではないか。それに、ファンもシビアなマネー戦争に疲弊しつつある。今の情熱が、あと何年続くのかわからない。

この20年間、飛躍的な発展を続けてきた中国。新しいものを次から次へと作りだし、古いものをポイ捨てして省みないやり方を続けてきた。だが、今後は高成長ではなく、成熟が求められる。スピードは落ちても、良いモノ、良いコンテンツ、良いアイドルを長期スパンで育てられるようになるのか。

アイドル・ビジネスの行方は中国の未来の縮図なのかもしれない。