授業で被験者となっているAさん(青い服)

「これは、私が授業中に負った怪我を揉み消そうとする、組織的隠蔽であり、大学規模のリンチ同然だと思っています」

 2019年9月、首都大学東京の大学院を修了したAさん(33歳・男性)。彼はいま、重い症状に苦しんでいる。

「『仙腸関節痛』などと診断されました。椅子に座ると強い腰痛が、立って右脚に体重をかけるたびに痺れと脱力感、強い痛みが生じます。ひどいときは、歩くのも困難です」

 仙腸関節は、骨盤の骨の間にある関節。この関節の微かなズレにより、骨盤が不安定になり痛みが生じる。骨盤が不安定なため、Aさんはコルセットを装着している。移動は杖歩行だ 。

 Aさんによれば、発症のきっかけは、大学院の授業にあったという。

「私が在籍していたのは『国際徒手理学療法学コース』という、リハビリを実践的に学ぶコース。問題の授業は、『関節マニピュレーション』という実技ですが、“殺人手技” ともいうべき危険なものでした。

 わかりやすく言うと、関節の変形を正して治す手技。不安定な姿勢で頸椎を引っ張ったり、救急救命時並みの強さで衝撃を与えつづけるなど、リスクが高い。海外では死亡例もある、時代遅れの手技です」

 Aさんはそんな手技を、毎週3時間の授業で、被験者として受けつづけた。

「ほかの学生は、留学生と腰痛持ちで。授業中、私が被験者になるしかありませんでした」

 そして、6月中旬に被験者となった翌日、Aさんは起き上がることができなくなった。

「翌週の授業は、うつぶせで受けました。担当のX先生は、『靱帯の損傷だね。そこをやったから(痛めたなら)、治らないよ』と笑っていた。謝罪がないのに驚いたし、『自分は関係ない』という雰囲気でした」

Aさんの診断書

 その後、腰痛が原因で、授業も仕事も休みを余儀なくされたAさん。7月には、勤めていた職場を退社。現在は貯金を切り崩す生活で、近く外科手術治療を予定している。上の写真は、Aさんが通院する整形外科医による診断書だ。手術を受けても、後遺症が残る可能性もあるという。

 Aさんがなにより憤るのは、大学側の不誠実な対応だ。

「受傷から2週間以上たっても、X先生が上司や学域長のY教授に、私の症状を報告している様子はなく、私から彼らに連絡を取りました。

 しかし、7月中旬にY教授から届いたメールは、『関係者で共有・協議します』だけ。Y教授もひどく、メールしても毎度1週間以上返信がない。らちが明かず、8月中旬に大学のハラスメント委員に連絡しました」

 だが、本部での聴取日程は、さらに1カ月後と打診された。

「結局、聴取後の9月下旬に本部から届いた聴取結果は、『精神的損害のハラスメントとしてしか受けつけられない』というもの。謝罪や、手術費などの相談は、『制度がないから』と却下されました。

『大学側が、法律上の損害賠償責任を負うこととなった場合に、支払いできる可能性がある』と説明されただけです」

 首都大広報課に、本件について問い合わせると、「(学生の)個人情報保護等の観点からお答えすることができません」と回答するのみだった。

 教育現場の問題に詳しい渥美陽子弁護士は、こう話す。

「実習中に怪我を負ったのなら、担当教員や大学が、事故を防ぐための措置を怠った『安全配慮義務違反』の可能性がある。大学は、そのような義務違反がなかったか事実関係を調査し、結果を報告するなど、Aさんに誠実に対応すべきでした。

 大学の対応は、『責任を負う可能性があるから調査しない』と言っているようなもので、無責任に感じます。訴訟に発展する前に、まず対話による解決を図るのが、大学としても賢明であったと思われます」

 現在もAさんのもとには、X氏やY氏、大学からの連絡はなく、また同級生らに調査をおこなった様子もないという。2020年4月、「東京都立大学」の名称に戻る予定の首都大学東京。“学生ファースト” を蔑ろにしたままでいいわけがない。

(週刊FLASH 2019年12月3日号)