【為替】財務相声明が示す円安阻止の日米合意
円安阻止の根拠、2025年9月の日米財務相共同声明
5月12日、来日したベッセント米財務長官との会談後の記者会見で、片山大臣は記者団からの質問に答える形で以下のように発言した。
「足元の為替動向については日米間で非常によく連携できていることと、昨年9月に発出した、もちろん介入についてもはっきりと書いてある日米財務大臣共同声明に沿ってやっているということを確認して、引き続きしっかりと連携していくことも再度、特にこういう状況ですから強く確認をいたしました」。
この発言以外でも、片山大臣はたびたび、円安阻止や為替介入について、2025年9月11日に発表した日米財務相共同声明を根拠にした対応と説明してきた(図表参照)。では、この声明のどの部分がそうした意味になるかについて、具体的に見てみよう。
【図表】米ドル/円の週足チャート(2025年1月~)
出所:マネックストレーダーFX 円安阻止介入容認の記述=日米協調介入の「布石」も?
為替介入については、以下のような言及が参考になっているだろう。「両者は、為替市場における介入が検討されるような場合、介入は、過度な変動を伴う、又は無秩序な減価・増価への対応として等しく適切と考えられるとの想定の下、為替レートの過度の変動や無秩序な動きに対処するためのものに留保されるべきことで一致した」。
これを素直に読むと、「介入は、過度な変動を伴う、又は無秩序な減価・増価への対応として等しく適切と考えられる」ということなので、今回の場合は円安が「過度な変動」または「無秩序な減価」という評価で日米当局が認識の一致を見たことにより、介入が正当化されたということと考えられる。
少し気になるのが、介入が適切と判断される基準として、「無秩序な減価」、つまり通貨安だけでなく「無秩序な増価」と通貨高のケースにも言及されている点だ。かつて日本では円高阻止で為替介入を行ったこともあったので、それを再確認した意味に過ぎないというところだろうが、対円での米ドル高について「無秩序な増価」として米当局が米ドル売り介入に動くこと、つまり日米協調介入を正当化する布石と見るのはうがち過ぎだろうか。
通貨安誘導を否定=円安阻止で日米利害一致の可能性
また、この共同声明の中には、以下のような言及もあった。「両者は、財政・金融政策は、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられ、競争上の目的のために為替レートを目標とはしない、とのG7のコミットメントについての認識を再確認した」。
これを素直に読むと、通貨安誘導の否定ということで、それ自体は目新しいものではない。ただ、興味深いのは、通貨安誘導を意味していると見られる「競争上の目的のために為替レートを目標とはしない」ことについて、以下のように別のアプローチでも執拗に繰り返した点ではないか。
「いかなるマクロプルーデンス措置又は資本フロー措置も、競争上の目的のために為替レートを目標とはしない」、「年金基金等その他の政府の投資主体による海外への投資は、(中略)競争上の目的のために為替レートを目標とはしない」。
こうした論法は、2025年6月に米財務省が公表した為替報告書においても見られたものだった。この報告書において、ベッセント米財務長官は、「トランプ政権は、米国の貿易収支不均衡を助長するマクロ経済政策を容認しないことを貿易相手国に対して強く警告してきた」と述べていたが、その中で複数のアプローチによる貿易相手国の通貨安誘導を否定していた。2025年9月の日米財務相共同声明で似た論法が使われたということでは、これは米国主導の可能性が高そうだ。
米政権が許容しない円安水準は160円か、それとも150円か
トランプ政権にとって貿易上不利益になる貿易相手国の通貨安誘導を容認しない、という考え方が、今回円安阻止における日米間の利害一致をもたらし、ともすれば、むしろ米国主導のように見える背景になっているのではないか。では、貿易相手国の通貨安誘導を容認しないという立場のトランプ政権、ベッセント財務長官の立場において、許容できない米ドル高・円安水準はいくらなのか。
2025年1月のトランプ政権発足以降で初めて米ドル高・円安が160円に迫ったタイミングで、日米当局は「レートチェック」に動いた。普通に考えたら、さらに米ドル高・円安となったら為替介入に動くことを示唆したとみられたが、実際にこの「レートチェック」水準より米ドル高・円安となったところで、4月30日、日本の当局は介入に動いたとみられた。以上からすると、当初より、160円以上の円安を容認しない方針で一致していたように見える。
ただ、もう1つの考え方として、2025年9月、日米財務相共同声明が発表されたタイミングに注目してみると違ったイメージになる。これは、トランプ政権誕生後、一旦139円まで米ドル安・円高となったものの、改めて150円を超える米ドル高・円安に戻ってきたタイミングでもあった。その意味では、本来的には150円以上の円安を、トランプ政権の貿易上は望ましくないものと考えているとするのは、うがち過ぎだろうか。
吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長

