どこまでもマイ・ウェイ

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ガソリン価格は下がる速度が遅い

 米国・イスラエルとイランの戦争(中東戦争)は4週目に入った。

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 自らの決断で始めた戦争により、トランプ米大統領は窮地に追い込まれた感がある。11月の中間選挙の争点とされる、生活費に対する有権者の認識が悪化しているからだ。

 米国のレギュラーガソリンの平均価格は3月20日時点で1ガロン当たり3.91ドルと、1カ月前に比べて約3割上昇した。ロイターが19日に公表した世論調査によれば、55%がガソリン価格の上昇に家計が影響を受けていると回答し、80%以上がガソリン価格はさらに上昇すると予想している。

 対してトランプ氏は、この戦争は「短期的な痛み」を伴うが価値はあるとし、終結すればガソリン価格は下がると主張する。

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 だが、専門家は、終結後も米国のガソリン高は長く続く可能性が高いとみている。過去の経験から、ガソリン価格が変化するスピードは上昇よりも下落の方が遅い傾向にあるというのが理由だ。

戦争が長期化なら…状況は悲観的

 ガソリン価格の急騰は、トランプ氏肝いりである減税政策の効果を帳消しにするとの指摘も出ている。

 米シンクタンク「タックス・ファンデーション」は、昨年7月に成立した減税・歳出法により、今回の確定申告で受け取る還付金は前年に比べて平均748ドル(約11万8000円)増と推定する。だが、スタンフォード大学のニール・マホーニー教授らは、このままガソリン高が続けば、年内に米国人が支払う追加のガソリン代は740ドル(約11万7000円)と試算している。

 トランプ氏の主要支持層である農家の間にも不安が広がっている。中東戦争のせいで燃料や肥料の価格が高騰しているため、作付け期を目前に控えた農家は必要資材のコスト上昇に直面している。

 米金融市場にも暗い影が忍び寄っている。米ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は16日、米国経済が今後1年以内に景気後退に陥る確率は50%超と見積もってもおかしくはないとの見解を示した。背景は原油価格の高騰だ。

 多くのエコノミストは「米国経済はなお堅調」とみているが、戦争が早期に終結するとの期待が薄れ、経済情勢への見方に微妙な変化が生じているのはたしかだ。

地上部隊の投入も支持は低く

 戦費の拡大も懸念事項だ。

 イラン攻撃の戦費は攻撃開始後1週間で110億ドルを超えた。ワシントン・ポストは18日、国防総省がイラン攻撃の戦費として連邦議会に要請する2000億ドル(約32兆円)以上の追加予算案をホワイトハウスに提案したと報じた。

 追加予算の目的はこれまでの交戦で使用した重要な兵器の増産だが、ホワイトハウスは議会で承認されないとみている。民主党が反発しているからだ。

 地上部隊の投入が取り沙汰されているが、世論は後ろ向きだ。前述のロイターの調査によれば、トランプ氏がイランに地上部隊を投入すると予想しているのは65%だが、投入を支持しているのは7%に過ぎない。

 米国とNATO諸国との関係も悪化している。現時点で中東戦争を支持しているのはカナダなど6カ国に過ぎない。

 にもかかわらず、トランプ氏は強硬姿勢を崩さず、戦争をいつ終わらせるかの判断は自身にあると主張し続けている。

米国の自由民主主義指数が急落

 筆者が注目したのは、トランプ氏が2期目の自分ははるかに大きな権限を持っていると述べたことだ。

 ブルームバーグは22日、2期目のトランプ政権の閣僚は大統領を抑制する「ガードレール」の役割ではなく、行動を後押しする「青信号」の役割に置き換わったと報じた。イエスマンに囲まれたトランプ氏は「裸の王様」だというわけだ。

 欧州の専門調査機関も同様の見立てだ。

 スウェーデンの独立調査機関「V-Dem研究所」は、17日に発表した年次報告書(民主主義リポート2026)の中で、米国の昨年の自由民主主義指数を引き下げて0.57とした。0.79だった2024年から1年間での落ち幅は1789年以降の最大である。また0.57という水準も、公民権運動の渦中だった1965年と同程度だ。

 急落した要因は、トランプ氏が米国史上最も自らに権限を集中させ、それを強大化していることだ。統治機構におけるチェック・アンド・バランスが悪化したため、米国は過去50年あまりで初めて「自由民主主義」の体制区分から外れ、「選挙民主主義」に格下げされてしまった。

選挙制度も危うい状況に

 民主主義の“最後の砦”とも言える、選挙制度の信頼が揺らぐリスクも生まれている。

 トランプ氏がセーブ・アメリカ法の成立に固執しているからだ。有権者登録の際に米国市民権の証明を義務づけるこの法案は、民主党支持が多いとされるマイノリティーの選挙参加のハードルを高め、中間選挙で共和党を勝利させることが狙いだ。

 この法案は2月に下院を通過したが、近代史上最も制限的な選挙法案であるため、上院民主党は猛反発している。トランプ氏も法案成立まで民主党との妥協を一切するなと主張しており、予断を許さない状況となっている。

 戦争状態が長引けば長引くほど、トップに権限が集中することは過去の歴史が教えている。中東戦争の最大の問題点は、米国の民主主義のさらなる劣化なのかもしれない。

 悩める超大国の今後の動向について、引き続き高い関心を持って注視すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部