市議が「金をおろしてこい」で3万円取得、恐喝で逮捕される理由は? 強盗との違いを弁護士が解説
愛知県稲沢市の市議会議員が、恐喝などの疑いで逮捕されたと報じられ、ネット上で話題となっています。逮捕された山田崇夫市議は、2023年に初当選していました。
CBCテレビ(2月9日)によると、去年11月、自身が出資する一宮市内の飲食店にいた40歳の男性に対し、「どれだけ払えるんだ。金をおろしてこい」などと言って現金3万円を脅し取った疑いが持たれています。
男性は複数回殴られ、約1週間のけがをしたとされています。警察の調べに対し、山田市議は「内容は違うところがありますけど、大筋は合ってます」と供述しているということです。
「脅して金を取った」なら強盗ではないか?と思う方もいると思います。強盗罪と恐喝罪の違いについて簡単に解説します。
●「強盗」と「恐喝」はどこで区別される?
相手に暴行や脅迫をして恐怖心をもたせ、その結果「他人の財物」(お金など)を交付させた場合、恐喝罪になります(刑法249条。10年以下の拘禁刑)。
「暴行や脅迫」をして、結果として「お金などを出させた」ということは、強盗罪(刑法236条。5年以上の有期拘禁刑)と似ています。
そして、強盗罪の方が法定刑がずっと重いのです。両者の違いは、暴行・脅迫の「程度」にあります。
強盗罪が成立するには、その暴行・脅迫が「相手の反抗を抑圧するに足りる程度」であることが必要とされています。やや難しい表現ですが、「抵抗することができないほど追いつめられた」というくらいの意味です。そのような場合には強盗罪になり、そこまでの暴行・脅迫とはいえない場合には恐喝罪にとどまるというのが実務です。
結論として、私は現時点の報道のみからでは、本件では強盗罪(強盗致傷罪)の成立は難しく、恐喝罪と傷害罪にとどまると考えています。以下順を追って解説します。
●実際の裁判ではどう判断されている?
少し難しい話ですが、裁判所は「反抗を抑圧するに足りる」かを、暴行・脅迫のやり方の悪質さや強さ、場所、時間帯、人数差、金が渡されるまでの経緯など、いろいろな事情を踏まえて判断します。
場所や時間帯というのは、例えば真夜中に暗くて誰も助けてくれず、逃げられないような場所で脅されたりすると、「反抗を抑圧するに足りる」と評価されやすい、ということです。
暴行・脅迫と金の交付のあいだに時間的・場所的な間隔があるかも考慮されます(福岡高裁昭和63年(1988年)1月28日参照。なお福岡高裁は強盗罪を認定)。
たとえば、脅したあとに被害者が自分で銀行などからお金をおろしてきて渡したような場合は、強盗よりも恐喝として認定されやすくなります。
強盗として起訴されたものの、裁判所が「反抗を抑圧する程度には至らない」として恐喝罪を認めた裁判例もあります。
以下でいくつかご紹介しますが、いずれも暴行の具体的な態様を踏まえ、強盗罪に必要な程度の暴行には当たらないと判断されています。
1)広島地裁昭和44年(1969年)3月19日判決
タクシー運転手に対し、顔を殴る、胸倉をつかんで車外にひきずり出そうとする、顔面・耳を手拳で数回殴打、革靴のまま足蹴りするなどの暴行を加え、全治約1週間の傷害を負わせたうえで現金5千円を交付させた事案です。
しかし被告人が同僚の暴行を制止していたこと、凶器を使っていないこと、被害者を押さえつけてもおらず逃げる余地があったこと、お金は被害者が自らが「これでかっこうをつけて」と座席に置いたものを受け取ったことなどから、暴行・脅迫は「反抗をかなり困難にさせる」ものの「反抗を抑圧するに足りる」とは認めがたいとして、傷害罪と恐喝罪の併合罪を認定しました。
2)岡山地裁昭和44年(1969年)8月1日判決
大型貨物車の運転手と助手を車外に引きずり降ろし、手拳で数回殴打し足蹴りするなどして、それぞれ加療約5日間の傷害を負わせたうえ、約700メートル離れた空地に連行して現金を交付させた事案です。
暴行自体は軽微とはいえませんが、犯行現場の国道は交通量も多く人家もあったこと、被告人の一人が暴行を制止したり鼻血を拭うよう被害者に声をかけたりしていること、被害者が「営業所で払う」と答えるなど意思を表明していることなどの、被告人と被害者とのお金の交付までのやりとりなどから、暴行・脅迫をもって被害者の反抗を抑圧するに足りる程度とは断じ難いとして、恐喝罪と傷害罪を認定しました。
3)東京地裁昭和38年(1963年)8月6日判決
夜半の人気のない神社境内で、被害者1人に対し被告人側4名が暴行を加え、加療2週間を要する傷害を負わせたうえで金品を取得した事案です。
暴行は「相当程度」のものでしたが、喧嘩のあとの「おとしまえ」としての犯行であり、暴行直後に「どう話をつけてくれるんだ」と言われると被害者は自らポケットから千円札2枚と時計を差し出していることなどから、反抗を抑圧する程度とはいえず、恐喝及び傷害の罪に問うべきとしました。
●恐喝と傷害、どちらも成立すると罪の重さはどうなる?
上で挙げたいずれの事案も、暴行でけがを負わせているため傷害罪も成立しており、恐喝罪と傷害罪の併合罪(刑法45条前段)となっています。
お金などを奪うための暴行によってけがを負わせた場合、強盗とされたか恐喝とされたかで扱いが大きく変わります。
強盗とされた場合には、けがは強盗の暴行から生じたものとして評価され、強盗致傷罪(刑法240条)が成立します。刑は無期または6年以上の拘禁刑となり、非常に重くなります。
一方、恐喝とされた場合には、恐喝罪と傷害罪の両方が成立し、併合罪として処断されます。
併合罪となった場合、複数の罪を合わせて一つの刑を定めますが、それぞれの罪の刑を単純に足し合わせるわけではありません。
刑法47条では、併合罪のうち二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする、と定められています(「併合罪加重(へいごうざいかじゅう)」といいます)。
恐喝罪は10年以下の拘禁刑、傷害罪は15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。重いほうの罪の刑を基準に、その長期に2分の1を加えた範囲内で、一つの刑が言い渡されます。
つまり、15年の1.5倍である22年6カ月までの範囲内で刑が言い渡される可能性があることになります。
●本件では「強盗」にならないのか
では、本件ではどうでしょうか。具体的な事情がはっきりしないため、最終的には強盗罪として起訴されたり、有罪判決が下される可能性もあります(もちろん、まだ逮捕されたという段階に過ぎませんので、不起訴となる可能性もあります)。
ただ、最初に書いたとおり、報道で明らかになった事情だけで考えるのであれば、上の裁判例との比較でいえば恐喝罪にとどまる可能性が高いように思われます。
なお、「金をおろしてこい」という言葉から、男性がその場に持っていた現金ではなく、ATMなどでおろしてきた3万円を渡した可能性も考えられます。
暴行・脅迫と金の交付に時間的・場所的な間隔がある場合、その間に逃げたり通報したりすることも可能と考えられることから、「反抗を抑圧」といえなくなり、強盗罪の成立が認められにくくなるといえます。
結局、現時点では、暴行の態様や負傷結果、店舗の状況などから、「反抗を抑圧するに足りる程度」という立証までは難しそうだと捜査機関が判断し、強盗ではなく恐喝の疑いで逮捕したものと考えられます。
●けがをしている点について
本件では、報道では男性が「複数回殴られ」約1週間のけがをしたとされています。
強盗罪と認定されれば、このけがは強盗から生じたものとして強盗致傷罪(刑法240条、無期または6年以上の拘禁刑)が成立し、刑はとても重くなります。
一方、恐喝罪にとどまる場合には、先の裁判例と同じように、恐喝罪と傷害罪の併合罪となります。
本件は恐喝の疑いで逮捕されていますが、傷害についても別途捜査され、起訴される可能性があります。
(参考文献)
・高等裁判所刑事裁判速報集昭和63年141頁 福岡高裁昭和63年(1988年)1月28日判決
・判例タイムズ233号153頁 広島地裁昭和44年(1969年)3月19日判決
・刑事裁判月報1巻8号813頁 岡山地裁昭和44年(1969年)8月1日判決
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
