隣席から肘や膝が…、新幹線の「スペース侵食」に不快の声 度を越した密着は犯罪になる可能性も
新幹線に乗車中、隣の席の男性の腕が肘置きを越えて女性の身体に接触したーー。そんな男性に不快感を示す女性のポストが、Xで話題になりました。
ポストと共に投稿された画像には、アームレストを越えて投稿者の座席と思われるスペースに隣席の男性の腕が大きくはみ出している様子が写っていました。
この投稿に対して、SNS上では同様の体験をしたという女性から、「脇腹とか腕に当ててくる」「膝が大きくはみ出していて不快」「痴漢だと思う」といった声も上がっていました。
こうした「押し付け」行為は、単なるマナー違反にとどまるものなのでしょうか。それとも、法律上の刑罰が科される可能性があるのでしょうか。
●不同意わいせつ罪の成立はハードルが高い
まず、刑法上の「不同意わいせつ罪(刑法176条)」になるかが問題となりますが、結論としては難しいと考えられます。
この罪は、2023年の刑法改正により、従来の強制わいせつ罪から名称などが変更されました。
改正前は「暴行または脅迫」が要件とされていましたが、現在は、相手が同意しない意思を形成・表明などすることが困難な状態(刑法176条1項各号に列挙される8つの類型)のいずれかに該当する場合などにも成立するようになっています。
しかし、この罪が成立するためには、その行為が「わいせつな行為」と評価される必要があります。一般的に、服の上から脇腹に肘を押し当てるという行為だけでは、直ちに本条のわいせつな行為とまで評価するのは難しく、不同意わいせつ罪の適用は少なくとも今の実務的には難しそうです。
●迷惑防止条例違反になる可能性
一方で、各都道府県が定める「迷惑防止条例」違反に問われる可能性は十分にあります。
多くの条例では、電車などの公共の乗り物において「人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような方法」で衣服の上などから人の身体に触れることや、「卑わいな言動」を禁じています。
新幹線の座席という逃げ場のない状況で、わざと肘をはみ出させて相手の体に密着させ続ける行為は、これにあたる可能性があります。
実際、過去には類似のケースで刑事裁判になった事例も存在します(東京地裁平成30年(2018年)9月12日、東京高判平成21年(2009年)5月14日など)。
●「故意」の有無が争点に
問題なのは、単に肘が当たっただけでは処罰は難しい、という点です。
犯罪の成立には「故意(※「わざと」くらいの意味)」が必要です。つまり、意図的に接触していたと認められる必要があります。
たとえ激しい動きがなくても、接触を認識しながら長時間にわたって体を押し付け続けることは、痴漢行為とされる可能性があります。
加害側が「居眠りをしていて気づかなかった」「座席が狭かったので仕方がなかった」などと弁解することも考えられます。
しかし、あまりに不自然に腕を突き出していたり、相手が身をよじって避けようとしているのにさらに押し当ててきたりするような状況があれば、客観的に見て「故意に体を触りにいっている」と判断される材料になります。
こうした行為は単なるマナーの問題として片付けられがちですが、度を越した密着は犯罪になり得ます。「これくらい我慢すべき」と軽視せず、社会全体でこうした「押し付け」行為の悪質性を認識していく必要があるといえるでしょう。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
