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1980年代の自動車業界を象徴するターボ

明るい1980年代の自動車業界を象徴する言葉の1つが、「ターボ」だろう。排気ガスのエネルギーでタービンを回し、高圧力の空気を強制的にエンジンへ導入するシステムは、販売数を拡大したい自動車メーカーにとって格好の新技術だった。

【画像】ターボかスーチャー、NAか ルノー・フエゴ ランチア・ベータ フォード・カプリ ほか 全105枚

今ではコンパクトカーにも当たり前のように載っているが、40年前はまだ発展途上。BMWは1973年に2002で、サーブは1978年に99でターボを導入していたが、完成した技術とはいえなかった。高性能化への最適解というわけではなかった。


手前からシルバーのランチア・ベータ HPEヴォルメックスと、ブルーのフォード・カプリ 2.8インジェクション、シルバーのルノー・フエゴ・ターボ

1980年代前半、4シーターのスポーツモデルを1万ポンド以下で検討する英国人には、ルノーかランチア、フォードという選択肢が用意されていた。それぞれ、ターボかスーパーチャージャー、無過給という、異なる吸気方法を採用して。

身近なフォードを選ぶなら、無過給のカプリ。1969年の発売以来、モータースポーツでの活躍と相まって、量産車へクーペを普及させた立役者といっていい。

スタイリングを手掛けたのは、フォードの特別プロジェクト部門でデザイナーを務めていた、フィリップ・トーマス・クラーク氏。従来のデザインを打ち破り、南フランスのカンヌが似合う優雅な雰囲気を描き出した。

1974年の2代目カプリに搭載された高出力エンジンは、英国で製造される3.0L V型6気筒、エセックス・ユニットだった。しかし、3代目が発表された1978年には、排気ガス規制の強化に伴い代替案が必要となっていた。

1565ccの4気筒ターボでV6のカプリに対抗

そこで採用されたのが、フォード・ヨーロッパが開発した2792ccのV型6気筒ケルン・ユニット。カプリ 3.0Sと3.0ギアを置き換えるかたちで1981年に登場したのが、162psのカプリ 2.8インジェクションだった。

その頃、英国にはフォルクスワーゲンやプジョーなどが提供する、洗練されたシャシーのホットハッチが上陸していた。だが、リーフスプリングにリジットアクスルという、カプリの古風な後輪駆動パッケージは最後まで変わらなかった。


フォード・カプリ 2.8インジェクション(1981〜1986年/英国仕様)

ドイツ・ケルンの工場で生産される2.8L V6は製造品質が高く、電子制御によるボッシュ社の燃料噴射で満足のいく動力性能を発揮した。当時の自動車雑誌のテストでは、0-97km/h加速を8.2秒でこなし、最高速度は214km/hに届いたという。

伝統的なフロントエンジン・リアドライブの操縦性は、熱心なフォード・ファンから愛されてもいた。特に英国での支持は強く、1984年以降、製造が終了される1986年までは、カプリ 2.8インジェクションは右ハンドル車のみが作られている。

一方、フランスのルノーは1.6L 4気筒エンジンのフエゴで対抗するため、ターボチャージャーを選んだ。小排気量による好燃費と低公害を維持しつつ、過給で大排気量に迫る動力性能を得るという考えは、ダウンサイジング・ターボの好例といえた。

ベースになったのは、オーバーヘッドバルブのA5L型クレオンアル・エンジンで、ギャレット社のTO3型ターボをドッキング。小さめのインタークーラーを介して、133ps/5500rpmの最高出力と20.4kg-m/3000rpmの最大トルクを引き出した。

ステーションワゴンのようなベータ HPE

フロントアクスル前方に縦置きされ、5速MTを介し前輪を駆動するというレイアウトは、1978年のサルーン、ルノー18 ターボと同様。だが1983年のフエゴ・ターボでは、圧縮比を8:1へ下げつつブースト圧を11psiへ上げ、高出力化されていた。

シャシーも、基本的には18と共有。ターボ仕様でも、サスペンションに変更は施されなかった。


ルノー・フエゴ・ターボ(1983〜1986年/英国仕様)

前衛的なデザインを手掛けたのは、ルノーに在籍していたロベール・オプロン氏。向上した動力性能が、風洞実験を経て空力特性が煮詰められたフォルムの訴求力を強めた。

BBSのアルミホイールと大きなチンスポイラー、イエロー・レンズのフォグランプで、フエゴ・クーペのトップモデルであることを主張。TURBOのグラフィックがボディサイドに与えられ、露骨に違いが表現されていた。

イタリアにも、パワーアップされた魅力的なモデルがあった。ベータ・ベルリーナ(サルーン)やフルビアを手掛けた、ピエロ・カスタニェロ氏のチームによる、ステーションワゴンのようなシルエットのランチア・ベータ HPEヴォルメックスだ。

ホイールベース2540mmのベータ・ベルリーナ用シャシーを流用し、オリジナルのハイ・パフォーマンス・エステート(HPE)が登場したのは、今回の3台では最も古い1975年。だが、モダンさではまったく引けを取らない。

4気筒ツインカム+スーパーチャージャー

ベータ HPEヴォルメックスが追加されたのは1983年。前後をスポイラーで飾り、フロントグリルにVXのロゴを貼り、ボンネットは小さなパワーバルジを得ている。

フィアット由来の2.0L 4気筒ツインカムエンジンを過給したのは、クランクシャフト駆動のスーパーチャージャー。最高出力は、燃料インジェクション版の123psから137psへ高められ、最大トルクも17.8kg-mから20.9kg-mへ増強されている。


ランチア・ベータ HPEヴォルメックス(1983〜1984年/英国仕様)

ランチアが、スーパーチャージャーを選択したのには理由があった。小型・軽量なコンプレッサーを動かすエネルギー損失はエアコン用コンプレッサー以下と小さく、広い回転域で柔軟に効果を発揮し、ターボラグがなかったためだ。

その結果、インジェクション版から1割のパワーアップを果たしただけでなく、高いギア比を与えることで燃費の改善にもつながった。こちらも考えはダウンサイジング化に通じるだろう。

通常のベータ HPEと同様に、サスペンションは前後ともマクファーソンストラット式にアンチロールバーという組み合わせ。HPEヴォルメックスでは、よりレートの高いスプリングが与えられている。

この続きは後編にて。