唐辛子が入った料理を食べてあまりの辛さに苦しんだり、翌日トイレで悲鳴を上げることになったりした経験のある人は多いはず。健康にいいと言われている唐辛子の辛味成分・カプサイシンが人体に悪影響を及ぼすことはあるのかについて、医学の専門家が解説しました。

Can eating hot chilli peppers actually hurt you?

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オーストラリア・ボンド大学医学部の准教授であるクリスチャン・モロ氏と博士課程の学生のシャーロット・フェルプス氏によると、辛い唐辛子を食べるとむくみ・頭痛・目の痛み・吐き気や嘔吐(おうと)・下痢・腹痛・胃酸の逆流による胸焼けなどといった症状が出るケースがあるとのこと。しかし、これはカプサイシンが細胞に物理的なダメージを与えているからではなく、人体がカプサイシンの刺激をやけどと間違えてしまったことによる結果なのだそうです。



人間を含む哺乳類はカプサイシンからやけどのような刺激を感じますが、鳥類は感じないことが分かっています。そのため、「植物がカプサイシンを合成するようになったのは、哺乳類による食害を防ぎつつ鳥類に食べてもらい、遠くに種を運んでもらうためだ」という説が有力視されています。

一口に「人間」と言っても、激辛料理が好きな人もいれば辛いものが苦手な人もいますが、これには遺伝的要因が絡んでいるとの指摘があります。双生児の被験者らに普通のイチゴゼリーとカプサイシンを添加したイチゴゼリーを食べ比べてもらった2012年の研究では、辛いものの好みに関する遺伝的な傾向があると結論づけられました。またモロ氏らによると、辛いものを食べ続けると、カプサイシンによる刺激にある程度耐性が付くとのことです。

カプサイシンによる辛さは、人体がやけどを負ったと勘違いしたことによる反応に過ぎないとはいえ、刺激が強い物質にはなんらかの影響があるようにも思えます。実際に、「唐辛子の大量摂取は認知機能の低下と何らかの関連性がある」とする研究も報告されています。中国の成人4852人を対象としたこの研究では、唐辛子を1日50g以上摂取している人は、そうでない人より認知機能の低下を報告する割合が高いという結果が得られたとのこと。



しかし、小さじ一杯の一味唐辛子を2.5gとすると、唐辛子を1日に50g分摂取するには小さじ20杯も食べなければならないことになります。また、前述の研究での認知機能は自己申告によるもので、研究を裏付けるような追加の実験結果も報告されていないとのこと。こうした点からモロ氏らは、「適度な量の唐辛子の摂取による悪影響や大きな障害を裏付ける決定的な証拠は、ほとんどありません」と述べています。

常識的な量であれば唐辛子に長期的な悪影響はないとされている上に、唐辛子は抗酸化物質の宝庫なので、定期的な摂取にはむしろ多くの利点があるとのこと。また、食事に唐辛子を入れる人は塩分を控えめにする傾向があるので、そうした面でも適度な辛さを料理にプラスするのは健康的な習慣になるのではないかと、モロ氏らはコメントしました。