【小堀 善友】「ぼくは射精ができない…」 多くの人が知らない「射精障害」、深刻な「性」活の“リアル” 男性不妊症の目指すゴールは

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「射精できなくて困っています」

その男性は、パートナーである奥様と一緒に来院されました。「勃起はします。オナニーで射精することはできるのです。でも、彼女の膣の中では射精することができません。治療することはできますか」、彼はそう言いました。

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私が勤務する病院の男性不妊症専門外来では、そんな患者が週に何人も来院します。そして彼らには、特徴的なパターンがあります。

・勃起障害ではない
・1人でマスターベーションはできる
・パートナーとセックスをする際にのみ、射精することができない
・現在のパートナー以外にも、過去に一度も膣の中で射精したことがない

彼らは男性として、普通に生活はできてセックスもできます。しかし、「膣の中で射精する」ことだけができないのです。

射精ができない、その正体は…

患者は、子供を希望している人とは限りません。以前には、こんな若い男性が来たこともあります。

「僕の彼女はすごく怖くて…いつも射精ができているかコンドームを見てチェックしてくるのです。でも、なかなか射精ができないから、コンドームを外した後、ベッドの横に隠してある白いノリをコンドームの中に入れて、彼女に見せたことがありました。僕が射精できないと、彼女も傷ついてしまうし、本当に困っています。このままじゃ別れてしまうかもしれません」

実はこうした男性たちは膣の中で射精できない「膣内射精障害」という病気なのです。そして男性の不妊症の原因として、この病気が増加しています。こちらの図を見てください。

男性不妊の患者数・疾患分類の調査結果*1

日本国内の男性不妊症の原因を調査した厚生労働省の調査班の研究結果です。1997年と2015年のデータを比較すると、精子の数が少ない、もしくは運動が悪いといった「造精機能障害(黒色)」が8割ほどと最も多く、それ自体にほとんど変化はありません。

しかし、注目すべきは、「性機能障害(白色)」です。著しく増加していることがわかります。逆に、精子の通り道である精管が詰まる「閉塞性精路障害(灰色)」は減少しています。

性機能障害とは、勃起障害もしくは射精障害(主に膣内射精障害)のことを指します。男性不妊症の原因としての性機能障害は勃起障害(6.1%)よりも射精障害(7.4%)の方が多いことがわかっています。

また、勃起障害は治療薬(PDE5阻害薬)という有効な治療法がある一方、射精障害は診察することができる医師も少なく、治療法も定まっていません。射精障害の治療は、とても困難なのです。

不適切なマスターベーション、“3つのタイプ”

調査の結果、膣内射精障害の原因の半数以上は「不適切なマスターベーション」であることがわかっています。代表的な不適切なマスターベーションとは、以下の3つを指します。

・手を使わずに、床などにペニスを押しつける方法。通称「床オナ」
・足にグッと力を入れて伸ばしていないと射精できない。通称「足ピン」
・膣の刺激ではないほど、ペニスを強く握る、もしくは早く動かして刺激する方法。通称「強グリップ」

日常的に膣の中へ挿入している状態とはかけ離れた刺激でマスターベーションをし続けた結果、膣の中の刺激では射精できなくなってしまいます。ほとんどの膣内射精障害患者は、「膣では何も感じない」と訴えられます。強い刺激のマスターベーションはとても危険なのです。

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テンガヘルスケア社がアンケートを取った結果、若年者の約10%が不適切なマスターベーションを日常的に行っていることがわかっています。これは、中高年者と比較すると有意に高いパーセンテージでした。

つまり、将来の「射精障害予備軍」が若者の中にたくさんいる可能性があるのです。病院を受診している射精障害の患者さんは本当に切羽詰まって受診する人たちであり、氷山の一角でしかないと考えられます。未来の不妊症の原因を防ぐためにも、正しいマスターベーション方法を広めていくことは絶対的に必要です。

重要な「パートナーの理解」

射精障害の原因の過半数は不適切なマスターベーションであり、その方法を修正していくことが重要です。まずは「射精リハビリテーション」と言って、適切な方法で射精を行うことにより、膣内での刺激で射精できるようにトレーニングをしていきます。

コツを掴むことが重要で、リラックスした姿勢や、優しい上下運動の刺激、それに力を入れすぎないことも大切です。最近では、適切な刺激でマスターベーションを行うための道具として、メンズトレーニングカップというデバイスもあります。

しかし、実際は射精ができるかできないかよりも、パートナーの理解が一番重要です。射精のことを人と話すことはほぼ全くと言ってよいほどないでしょうし、人と比べることもないことなので、困っていても誰かと相談することはできないことが多いです。しかし、膣内射精障害という病気は一般的な病態であり、とても多くの患者がいるのですが、そのことは知られていません。

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パートナーの女性は「何で私の中で射精してくれないのだろう」と悲しく感じています。やがて、その悲しみは怒りへと変化してしまうことがあります。怒ってしまったパートナーの女性の膣の中で射精は余計にできなくなってしまうという悪循環が起きてしまうのです。

射精障害の治療のためにはパートナーの協力は必須であり、協力を得られなければ治療を進めていくことさえできません。

重要なポイントは、パートナーの女性に射精障害はとても一般的な病態であること、そして射精できなくて困っている男性はたくさんいること、悲しんでいる女性はあなただけではないことを理解してもらうことです。

性機能の専門家の医師やカウンセラーを交えて、カップルでセックスカウンセリングを受けることは非常に効果的です。男性のみのカウンセリングでも良いですが、できればパートナーを交えたカウンセリングをお勧めしています。

また、もしも子供を作りたいことが目標であるのであれば、膣内射精が必須というわけではありません。例えば、膣内にマスターベーションで射精した精液をシリンジで注入するスポイト法を用いれば、それだけで妊娠が可能です。

最近では、スポイト法の専門キットがインターネット通販でも売られています。この方法もパートナーの女性のご理解が重要となってきます。

また、パートナーの年齢が35歳を超えているようでしたら、積極的な生殖補助医療を用いることをお勧めしています。

射精はセックスのゴール…じゃない!

最終的な射精障害の治療は「射精がセックスのゴールではないことを男性にも女性にも理解していただくことだ」と考えています。意外かもしれませんが、射精障害の治療として、「射精できなくてもいいのではないか」ということをお話するのです。

セックスは子供をつくるという目的もありますが、それ以外にも愛情を確かめ合うこと、性的快楽を得ることという面も持ち合わせています。究極のコミュニケーションでもあるのです。

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セックスには必ずしも射精が必要というわけではありません。子づくりでさえ、膣内射精は必須ではないのです。お互いが本当に求めていることは何か、また、何をしてほしいと考えているのか、何をしてあげればよいのか、そのことをきちんと話し合うことが重要であると考えています。

射精の専門家として、射精以上に重要なことは、現在の、そして未来の「二人の幸せ」が何であるかを見直していくことだと考えています。それをいかにアシストできるかが、わたくしの役割です。

【註】
*1 厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」平成27年度総括・分担研究報告書より引用