退職代行「大人気」、20〜30代に広がる「コスパ意識」の恐ろしさ

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「退職代行」はなぜ止まらないのか

本人に代わって会社と退職の手続きを行う「退職代行」が話題だ。

サービスを提供する会社EXITでは、20代男性を中心に月に300件もの依頼があるという。

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同社の公式ウェブサイトには、「明日から会社に行かなくてもOK」「スピード退職」などの刺激的なコピーが踊る。

メールやLINEで依頼するだけで、文字どおり、本人はその瞬間から会社と一切関わることなく退職できるのが、人気の理由なのだろう。費用は3〜5万円だ。

今年の5月、私の知人が運営する保育園にも、退職代行からの連絡があったという。4月に入社したばかりの20代の保育士が「持病の悪化のため辞めたい」ということだった。

聞いたこともない会社からの唐突な連絡。持病の話は初耳だし、本人からは何の相談もない。対話の余地もなく粛々と退職の日を迎えるのみ。突然にピシャリとコミュニケーションを遮断されてしまい、困惑するばかりだったという。

そもそも退職の手続きは、お金を払ってまで他人に頼むことなのか。社会人としての配慮に欠けると眉をひそめる人も少なくないかもしれないが、その裏には、働き方に対する若者世代とオトナ世代の大きな価値観のズレが透けて見える。

「慰留ハラスメント」の横行

まず若者が退職代行を利用する理由は大きく2つあり、分けて考えなくてはならない。

理由の1つはメディアでもよく語られている通り、自力では辞められない状況に追い込まれていることがある。

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厚生労働省によれば、退職時のトラブルに関する相談件数はここ10年で2倍に増えたという。

もちろん企業はせっかく採用した人材を簡単には手放したくない。今辞めるなんてもったいない、もう少し頑張ってみてほしいという上司の“親心”も理解できる。

しかし、ひどい場合には「無責任だ」「常識がない」などと、まるで退職そのものが悪であるかのように退職者が責めたてられることもある。さしずめ「慰留ハラスメント」だ。

こうして辞めたくても辞められない状況に陥ると、やがて精神的に疲弊してまともな話し合いもできなくなる。こうなると退職代行に頼らざるをえなくなるのも、頷ける話だ。

もう1つは、先ほどの深刻なケースとは異なり、単にコスパがいいからだ。

辞めるに辞められないのも大きな問題だが、私はこちらに本質的な課題が潜んでいると見る。

20代の2割が「使ってみたい」

今や若者にとって退職はごく普通の選択肢である。

拙著『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)でインタビューした20代の若者たちも、大手、中小問わず、1社で定年まで勤め上げることなど、ただの一人も考えていなかった。

そんな彼らからすると、辞める際の会社とのやりとりなど、ほとんどムダでしかない。理由があるから辞めるのだし、もう辞めると決めている。たとえ引き留められても、お金を積まれても、モチベーションは上がらない。

それなのに上司に気を使って言い出せずにいたり、調整に労力を割いたりするくらいなら、お金を払ってさっさと辞めたほうがいい、というわけだ。これを合理的ととるか、身勝手な逃げととるか。ここに価値観の違いがある。

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今の若者は、合理性や効率に強いこだわりを持っている。「考える前にググれ!」の精神で何かあればまずネットやSNSで検索して最適解を探る。

試しにグーグルで「退職 方法」と検索すると、1億2000万件もの情報がヒットし、「円満退職の知識」「円滑な退職方法」といった見出しがずらずらと並ぶ。

色々と面倒そうだなと思いながら順に見ていくと、退職代行の広告が目に入る。ちょっと上司には申し訳ないかもしれないが、余計な手間が省けるなら使ってみようか。若者にとってはそれが合理的なだけで、なんの悪意もない。

ツナグ働き方研究所で独自に行ったアンケートでは、20代の約半数が退職代行サービスを認知しており、2割が「使ってみたい」と回答している。

礼儀やマナーは大事だ。しかし若者はそれもわかったうえでなお、退職代行を使ったほうがいいと判断しているのではないだろうか。

終身雇用は終わる

筆者が20代の若者に実施したインタビューでも、「時間を奪われることが最悪のパワハラだ」という声が非常に多かった。

コスパと同様に「タイムパフォーマンス」が極めて大切なのだという。

そんな彼らが「最短距離でゴールする」ために退職代行を使うことは、ごく自然なことといえる。

退職代行の人気は、表面的な一つの現象に過ぎない。このことから本当に考えなければいけないのは、「退職、転職なんて普通でしょ」という若者の働き方を、オトナ世代がどう受け止めるかだ。

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トヨタ自動車でさえ、終身雇用の維持は難しいという時代。一生を同じ会社で過ごすという働き方は、もはやリアリティがない。転職はもちろん、副業やパラレルキャリアも徐々に浸透しつつある。

特に若者世代はSNSを通じていくつものコミュニティに自然に出入りしていて、クローズドなタテ社会の中での仕事よりも、目的に応じて働く仲間がヨコにつながる「プロジェクト型」の仕事に馴染んでいる。

とはいえ会社の視点に立てば、「辞めるならいつでもどうぞ」というわけにもいかない。大企業ほど、まだまだタテ社会の文化を残している。

そんな狭間の時代に生まれた徒花のようなサービスが退職代行だといえる。他ならぬEXITの代表が語っているように、本来は不要で、いつかなくなるべきサービスなのだ。

オトナから動き出すべきこと

単なる手段でしかない退職代行の是非を問うてみたところで、世代間の隔たりを埋めることなどできない。

なぜ突然辞めるのか。なぜ会社や上司とのコミュニケーションを遮断してしまうのか。

一度そうなってしまえば、もう取り返しがつかない。

その前に、若者の働き方に対する価値観や考え方を読み解き、オトナから少しでも接近していくことが必要なのではないだろうか。

今の若者の思考の特徴については『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』に詳しく記しているので、興味のある方はそちらを参考にしてもらいたい。