企業の「ナビダイヤル離れ」が進む…それでも使い続ける企業に訪れる「予想外のデメリット」

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「ナビダイヤルにおつなぎします。○秒ごとにおよそ○円の通話料がかかります」

企業の問い合わせ窓口に電話をかけると、最初にこうした音声ガイダンスが流れることがあるだろう。すぐにオペレーターにつながればいいが、場合によっては長時間待たされたあげく、「ただいま電話が大変混み合っております。しばらく経ってからお掛け直しください」と無情なアナウンスが返ってくることも──。

同サービスを提供するNTTドコモビジネスは、今年10月1日から料金体系を変更すると発表。携帯電話から対象番号へ発信した場合の通話料を、従来の「20秒ごとに11円」から「30秒ごとに22円」へ引き上げるとした。この決定により、10月以降は発信者の負担は約33%も増えることになる。たとえばナビダイヤルを30分利用すると1300円以上の支出になってしまうのだ。

この値上げは妥当といえるのか。通信業界に詳しいスマホ・ケータイ・ジャーナリストの石川温氏に聞いた。(以下「」内は石川氏のコメント)

記事前編は【ナビダイヤル値上げに不満続出…消費者からは不評でも企業にこれほど普及したワケ】から。

今後は利用そのものが減っていく?

問題を解決するのは一筋縄ではいかなそうだ。

ここで興味深い発言が石川氏からあった。「そもそも今後はナビダイヤルの利用そのものが減っていく可能性がある」というのだ。今回の値上げもそこに起因しているのではないかと推察する。

NTTドコモビジネスはナビダイヤルの料金の値上げ理由として、《物価上昇や人件費の高騰》としていますが、実際には利用者の減少に伴う維持コストの負担増が主な要因だと考えられます。要するに、ナビダイヤルが使われなくなってきている状況下でいままでの維持コストをまかなうためには、利用者1人あたりの料金を上げるしかなかったということではないでしょうか。

かつては通信手段といえば電話が中心でしたが、現在ではメールやチャットなど、さまざまな手段が普及しています。特に生成AIの精度が向上してきていることからチャットは定型的な答えにとどまらず、多様な疑問に対して適切な回答ができるようになってきました。今後は、電話以外の問い合わせがさらに主流になっていくでしょう。

その結果、ナビダイヤルの利用は減少し続け、システムの維持が難しくなっていくとみられます。こうした背景もあり、今回の値上げに踏み切った可能性が高いと考えています」

根底には「通話は無料」時代とのズレ

企業側の対応手段の多様化に伴い、ナビダイヤルによる問い合わせというスタイルは徐々にフェードアウトしつつあるのかもしれない。それなら減っていくサービスの値上げにこれほど不満の声が相次ぐのはおかしい気がするが……。

「大きな理由は、通話料金に対する価値観の変化です。かつては固定電話を中心に通話料金が発生することが当たり前であり、その水準も長年大きく変わらず維持されてきました。

しかし、携帯電話でかけ放題プランの普及が進み、さらにLINEのようなインターネット回線を利用した無料通話手段も広がったことで、『通話には基本的にお金がかからない』という認識が一般化しつつあります。

かけ放題プランに該当せず料金が発生するナビダイヤルの仕組みが、現代の利用者の感覚と乖離してしまったわけです。その結果、『なぜこの通話だけ有料なのか』という違和感が強く意識され、今回の騒ぎになったのではないでしょうか」

「かけ放題プラン」に含められないワケ

ならば、ナビダイヤルをかけ放題プランに適応すればいいものだが、利用者から長年の不満があるにもかかわらず、こちらも解消していない。

「携帯キャリアのかけ放題といった通話定額が適用されないのは、ナビダイヤルが通常の電話とは異なる仕組みで動いているからです。

まず、キャリア同士の通話をみてみましょう。たとえば、NTTドコモのユーザーがauへ電話をかけると、NTTドコモからauへ接続料が支払われます。逆に、auからNTTドコモへ発信した場合も同じです。

こうした接続料は、キャリア同士で互いに相殺できます。だからこそ、各社はかけ放題というサービスを成り立たせることができるのです。

一方、ナビダイヤルは、ユーザーから企業へ一方向に電話をかける仕組みです。そのため、キャリア間のような相殺は発生しません。結果として、NTTドコモビジネスが設定した料金を、ユーザーがそのまま負担する形になってしまうのです」

ナビダイヤルを採用する企業側への懸念

ただ、利用が減っているとはいえ、ナビダイヤルが突然なくなることはないと石川氏は言う。

「先進的な企業は、生成AIを活用したチャット機能を充実させるなどしていくでしょうが、そうでない企業は変わらずにナビダイヤルを使い続けていき、二極化が進んでいくでしょう。

SNSが普及した現代では、利用者に負担を強いる体制はそのまま企業のマイナスイメージに直結します。現に『ナビダイヤルしか問い合わせ窓口がないなら、その企業のものは買わない』といった声も、ネット上でみられます。

ですから、電話をかけさせない仕組みを整えなければ顧客満足度はどんどん下がり、いずれはナビダイヤルを採用していると“選ばれない企業”になりかねません」

ナビダイヤルは、企業側の効率化やコスト管理を支える仕組みとして発展してきた。しかしその一方で、消費者の利便性や納得感とは、必ずしも両立してこなかったといえる。企業の評判が容易に可視化される時代において、問い合わせ窓口をナビダイヤルに限定し続けるのは、取り返しのつかない大きな痛手になるかもしれない。

余談だが、どうしても電話で問い合わせたいが、ナビダイヤルは避けたいという場合についても伺った。

「企業によっては、表向きにはナビダイヤルの番号を案内していても、実際には別に通常の市外局番の電話番号を用意している場合もあります。したがって、どうしても電話で問い合わせる必要がある場合は、公式サイトや案内ページなどをよく確認し、ナビダイヤル以外の番号が掲載されていないかを探すことをおすすめします」

通常の電話番号であれば、携帯電話の無料通話プランの対象となることが多いため、通話料金を抑えることができるだろう。

いずれにしても10月からのナビダイヤルの値上げは、企業への問い合わせ方法が過渡期にあるという証拠なのかもしれない。

(取材・文=森田浩明/A4studio)

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