最も新しい強羅花壇とアストンマーティン・ヴァンテージロードスターの極上時間
とはいえまだ当時は、和食が世界遺産に認定されるなど誰も想像できなかった頃だ。日本人として少しこそばゆい気持ちがしたのも事実だ。あれから約四半世紀。今や日本を代表するラグジュアリー旅館として、進化と深化を遂げてきた強羅花壇。既に日本を代表する存在になった感はあるが、実際本当に海外での人気は高い。取材に訪れる海外のメディアを感嘆させ、セレブリティはいうまでもなく、一般的な外国人の宿泊客を魅了し続けているのはなぜだろうか。
また、訪問者それぞれの目的にまで徹底的に配慮する。強羅花壇を訪れるならば完全にプライベートが守られた空間で、静寂を手に入れたいと思う方は少なくないだろう。そういう向きには誰にも会わずにチェックイン・アウトが可能な”離れ”が用意され、完璧に演出された”舞台装置”によって、ただそこにいることが楽しめるようになっている。「花香」には、巨岩をくり抜いて特別に設えられた露天風呂が、美しい箱庭に置かれている。ただ眺めているだけでもくつろぐことができるが、湯をじっくりと楽しんでいると、時間が経つのを忘れてしまう。また今春より新装なった「別邸」の「暁」では、縁側に置かれた露天風呂から広大な枯山水の中庭を独占できるという、スペクタキュラーな体験もできる。
これはヴァンテージロードスターのオーナーであればわかっていただける喜びだろう。なぜならヴァンテージロードスターは、ともすれば相反するオーナーの欲求を、オーナーがほぼ意識することなく提供してくれる車だからだ。信号待ちの間、ふと幌を開けたくなれば、その開閉には7秒あればいい。タキシードからデニムジーンズへと着替えた時ほどの劇的変化を瞬時にやってのける。オープンカーの宿命とも言える風の巻き込みの制御も素晴らしい。風は感じたいが、風に悩まされたくはないという矛盾に完璧に答えている。走行モードではS、+Sだけでなく、+TRACKのサーキット走行用まで用意されている。トラックモードにしてサーキットで全開することなどの欲求に駆られることもあるが、その暴力的な加速で得られる快感とは別に、穏やかな秋の箱根を軽く流す時は、抑えの利いたジェントルマン然とした態度でクルージングするだけでも気持ちが豊かになる。
もちろん、誰が見てもタダモノではない外観であるのは間違いないし、ボンネットの下には野獣の心臓が埋め込まれており、そこここにレーシングカーのDNAを感じることができる。だが、他のスーパーカーたちと比較して、よくぞここまで涼しい顔で、場所を選ばず自然に溶け込めるものだと感心する。どんなものでも受け入れる包容力と寛容性、これぞ英国紳士的というものだ。まさに車のジェームズ・ボンドだとも言えるだろう。
自分が望む何かを、あらゆる形で応えてくれることは最上の喜びだ。本当の居心地の良さは、虚仮威しの豪華さから得られるものではなく、それぞれの個性を大切にすることであり、異なるものすら優しく包み込むことのできる価値観を提供することだ。単に「豪華」を意味するラグジュアリーとは異なり、館内の一つ一つの空間や従業員の所作、たたずまいに丁寧に気を配り、そこに宿る心や精神性を大切にすることによってラグジュアリーを感じることできる。「おもてなし」とは、「個性」というものはそういうもの、強羅花壇とはそういう場所だ。
