「胸ポケットに入れていたモノが銃弾を止めた」というのは映画だけでもなく、現実に起こりえることが確認されています。今回、銃弾を止めて命を救ったモノは、女性の胸に埋め込まれていた豊胸用の「シリコン樹脂」でした。

Life-Saving Silicone Breast Implant After Firearm Injury: Case Report and Treatment Recommendations - Giancarlo McEvenue, Anastasia Oikonomou, Noah Ditkofsky, Joan Lipa, 2020

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2513826X19898821

Woman's Breast Implant Saved Her Life by Deflecting a Bullet, Case Study Shows

https://www.sciencealert.com/woman-s-life-saved-after-her-breast-implant-deflects-bullet-study-suggests

この事件はカナダのオンタリオ州で発生しました。犯人は見つかっていないため事件の詳細は不明ですが、被害者自身は「通りを歩いていたら左胸に熱と痛みを感じ、血が流れているのが見えたため自力で救急病院に向かった」と証言。この救急病院で行われた臨床検査によって、左側の乳頭上部に弾痕が確認されました。

穴の周辺の皮膚は熱傷になっており、この熱傷は銃口から出た発火炎(マズルフラッシュ)によって付けられた、すなわち銃弾がかなりの至近距離で発射されたことを示唆していました。また、触診の結果、弾痕の存在した左胸側とは逆の右胸側の皮下に弾丸のようなかたまりの存在が確認できました。

被害者の胸部のレントゲン写真が以下。右胸側側面に存在する影が弾丸そのものであることがハッキリとわかります。左胸の弾痕から右胸にかけてガスのような軌跡が残されていることから、「左胸乳頭上部から入射した弾丸がシリコン樹脂によって偏向して、体内を通過して右胸で止まった」と推定されました。また、レントゲンによって、肋骨が骨折しており、さらに肺挫傷を生じているものの、胸腔内に損傷は生じていないことがわかりました。



行われた外科手術によって、両胸のシリコン樹脂が除去され、弾丸が摘出されました。以下が右胸側のシリコン樹脂。弾丸の通過痕が残されています。摘出された弾丸は、警察の調べによると被甲が銅製の40口径弾とのこと。



手術が成功後、研究チームはCTスキャンや臨床的な証拠を元に、「銃弾がどのように胸部のシリコン樹脂を通過したか」について解析を行いました。その結果、「左胸のシリコン樹脂が弾丸を偏向させなかったならば、弾丸は胸壁を直接通過して、心臓に直撃していた可能性がある」ことが判明。研究チームは、左胸骨は骨折しておらず、右胸の胸骨が骨折していたという事実は着弾時に銃弾が十分なエネルギーを有していたことを示唆しているとして、「この弾道の変化は弾丸がインプラントに当たったことによるものとしか考えられない」と述べています。

乳房内のインプラントが弾丸に与える影響に関する研究は2017年に行われており、「シリコン樹脂によって弾丸の侵入距離が約20%短くなる」という結論が示されていました。アメリカ形成外科学会の調査によると、2016年には29万人以上の女性が豊胸手術を受けていることから、アメリカでは数百万人の女性が胸にシリコン樹脂を埋めている可能性があると研究チームは指摘。アメリカの銃犯罪の多さも勘案すると、「銃弾がシリコン樹脂に当たった」事例は多いのではないかと研究チームは考えましたが、同様の症例は今回の事件以前にはわずか2例しか報告されていませんでした。

今回の症例を報告したGiancarlo McEvenue医師は、「患者はわずかな外傷だけで、完治しました。不幸な話でしたが、ハッピーエンドですよ」とコメントしています。