人を虜にする、うどんの「食感」はどうやって生まれるのか

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麺の食感を決める大きな要素は原料である小麦の化学的特質
 訳あって米飯を控えていた時期がある。その頃、米の代わりに主食のように毎日食べていたのが「うどん」である。

 食事はささっと済ませたいタイプなので、調理の手間がかからない、コンビニやスーパーに売っている冷凍や冷蔵のうどんを主に食べていた。だが、飛び抜けて美味しいわけではないものの、不思議と飽きなかった。

 おそらく、飽きのこない大きな理由は、あの「食感」なのだろう。固すぎず、柔らかすぎず、適度な弾力があって噛みやすい。噛むこと自体がクセになる。つるっとした舌触りもたまらない。

 この食感という魅力は、うどん、そば、ソーメン、パスタ、ラーメンなど、すべての麺類に共通なのかもしれない。もちろん味や香りが好き、という人もいるだろうが、それらはスープやタレ、ソースによって変化する。麺の食感は、それらによって、さほど変わるわけではない。

 では、麺の絶妙な食感は、どうやって生み出されるのだろうか。

 『麺の科学』(ブルーバックス)に、その答えがあった。この本では、日清製粉で長らく食品の研究開発に従事し、現在は工学院大学先進工学部応用化学科教授の山田昌治さんが、たくさんの事例をもとに麺の性質を詳しく解説しているのだ。

 うどんの原料は「小麦」である。皮部を取り除いた小麦の種子を粉砕して「小麦粉」を作り、水を加えて練ることで麺生地ができる。それを細長く整形したものが、お馴染みのうどんとなる。

 人類が小麦を栽培し始めたのは約1万年前とされている。もともと野生種が自生していたのは、現在のトルコ南東部。年間を通してわずかな雨しか降らない高原の砂漠地帯だった。高度があるため気温も低く、乾燥した厳しい環境で、小麦の先祖は生育していたのである。

 『麺の科学』によれば、うどんの食感を決める重要な要素である「弾力性」や「もっちり感(粘性)」は、小麦が1万年前から持っている特質によるところが大きい。もちろん、麺の練り方や伸ばし方などにもよるのだろうが、原料である小麦の、厳しい環境に適応する過程で身につけた化学的特性に秘密があるという。

 すなわち、乾燥地帯で育った小麦は、稀に降る少量の雨の中から、ここぞとばかりに水分や窒素を溜め込む。そして、その窒素分によってグルタミン酸やグルタミンといったアミノ酸が種子に蓄積される。これらのアミノ酸から合成されるタンパク質は、貯蔵タンパク質と呼ばれる。

 そして、そのグルタミン酸やグルタミンを豊富に含む貯蔵タンパク質に水を加えてこねる(麺生地を練る)と、グルテニンという弾力性を作る物質ができる。そのグルテニンと、もともと小麦タンパク質に含まれる、粘性を作るグリアジンが結合し、粘弾性に富む小麦粉生地ができあがるというわけだ。

デンプンの「糊化」によって、とろみや粘り気が生まれる
 うどんの食感を作り出すのはタンパク質だけではない。麺を茹でる過程で生じる、小麦に含まれるデンプンの「糊化(こか)」という現象も大事だ。

 小麦のデンプンには「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類の成分が含まれている。デンプンを水に入れ、50℃まで温度を上げると、アミロースが水に溶け出し始める。すると、アミロースが抜けた分、小麦の粒子に隙間ができ、そこに水が入り込む。そして水が入ったおかげで、アミロペクチンが膨らむ(膨潤)。

 65℃ぐらいまで温度を上げると、溶け出したアミロースが、アミロペクチンが膨らんだ麺の表面で透明な糊状になる。これが糊化だ。糊化によって麺にとろみや粘り気が生まれる。

 糊化したデンプンは、放置すると水分子が蒸発し、固くなってしまう。しかし、いちど膨らんだアミロペクチンの分子構造は元に戻らないために、再び水を加え温度を上げれば、短い時間で再糊化する。この、一度糊化させて水分子を蒸発させた(老化)ものが、冷凍や冷蔵などの保存食品として売られているのだ。