そして、そのグルタミン酸やグルタミンを豊富に含む貯蔵タンパク質に水を加えてこねる(麺生地を練る)と、グルテニンという弾力性を作る物質ができる。そのグルテニンと、もともと小麦タンパク質に含まれる、粘性を作るグリアジンが結合し、粘弾性に富む小麦粉生地ができあがるというわけだ。

デンプンの「糊化」によって、とろみや粘り気が生まれる
 うどんの食感を作り出すのはタンパク質だけではない。麺を茹でる過程で生じる、小麦に含まれるデンプンの「糊化(こか)」という現象も大事だ。

 小麦のデンプンには「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類の成分が含まれている。デンプンを水に入れ、50℃まで温度を上げると、アミロースが水に溶け出し始める。すると、アミロースが抜けた分、小麦の粒子に隙間ができ、そこに水が入り込む。そして水が入ったおかげで、アミロペクチンが膨らむ(膨潤)。

 65℃ぐらいまで温度を上げると、溶け出したアミロースが、アミロペクチンが膨らんだ麺の表面で透明な糊状になる。これが糊化だ。糊化によって麺にとろみや粘り気が生まれる。

 糊化したデンプンは、放置すると水分子が蒸発し、固くなってしまう。しかし、いちど膨らんだアミロペクチンの分子構造は元に戻らないために、再び水を加え温度を上げれば、短い時間で再糊化する。この、一度糊化させて水分子を蒸発させた(老化)ものが、冷凍や冷蔵などの保存食品として売られているのだ。

 さらに『麺の科学』著者の山田さんは、麺を茹でる際に「重曹」を加えることで、歯ごたえをよくする、という「裏技」を編み出した。テレビなどでも披露しているので、ご覧になった読者の方もいるかもしれない。重曹が手に入らない場合は、コンニャクやしらたきなどでも代用できるそうだ。

小麦の栽培地の広がりで世界各地に麺の豊かなバリエーションが生まれる
 ところで、野生種の小麦が厳しい環境に耐え得るということは、寒冷地を含む世界中のいたるところで小麦の栽培が可能ということでもある。実際、小麦の栽培は世界中に広まり、各地で独特の麺文化が花開いた。欧州ではイタリアを中心に多種多様なパスタが登場し、アジアでは中国大陸だけでなく、台湾の担仔麺(たんつーめん)、タイのバミーといった多くの中華麺のバリエーションがある。

 小麦を原料とする麺に限っても、それぞれの土地によって使用する小麦の種類や麺生地の製法、調理法が異なり、実にさまざまな風味や食感の麺が生まれている。