さらに『麺の科学』著者の山田さんは、麺を茹でる際に「重曹」を加えることで、歯ごたえをよくする、という「裏技」を編み出した。テレビなどでも披露しているので、ご覧になった読者の方もいるかもしれない。重曹が手に入らない場合は、コンニャクやしらたきなどでも代用できるそうだ。

小麦の栽培地の広がりで世界各地に麺の豊かなバリエーションが生まれる
 ところで、野生種の小麦が厳しい環境に耐え得るということは、寒冷地を含む世界中のいたるところで小麦の栽培が可能ということでもある。実際、小麦の栽培は世界中に広まり、各地で独特の麺文化が花開いた。欧州ではイタリアを中心に多種多様なパスタが登場し、アジアでは中国大陸だけでなく、台湾の担仔麺(たんつーめん)、タイのバミーといった多くの中華麺のバリエーションがある。

 小麦を原料とする麺に限っても、それぞれの土地によって使用する小麦の種類や麺生地の製法、調理法が異なり、実にさまざまな風味や食感の麺が生まれている。

 興味深いのはパスタの製法だ。スパゲティなどのロングパスタや、マカロニをはじめとするショートパスタの両方で、ダイスと呼ばれる穴の空いた金具が用いられる。デュラム小麦を原料とする麺生地を、ダイスの穴から押し出して麺の形を作るというのがパスタ独特の製法である。

 ダイスは、元は青銅から削り出されたものだったが、摩擦係数が大きすぎて時間がかかるため、現在では穴の部分をフッ素樹脂製にしているそうだ。だが、今でもあえて青銅を使うメーカーもある。それは、青銅だと麺の表面が荒れるからだという。表面はつるつるの方が良さそうなものだが、実は荒れていた方が、ソースの絡みが良くなる。

 世界各地の麺の製法や調理法には、それぞれの土地の住民の好みだけでなく、歴史的経緯や風土、文化が如実に反映している。植民地化によって麺文化が伝わり、土着の文化とミックスされるなどのケースは珍しくもなかっただろう。

 日本食ブームのおかげで、最近では日本のうどん、ソーメン、そば、即席麺などの輸出が伸びているという( https://newswitch.jp/p/13990 )。今後、もしかしたら日本の麺類が他国の文化と混ざり合い、新しい麺文化が花開くかもしれない。

 テクノロジーによる変化もあるだろう。あの「もっちり、つるつる」の食感を残したまま、未来の麺がどうなるのか。重曹を使って茹でたうどんを頬張りながら、楽しみに待ちたい。

(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『麺の科学』
-粉が生み出す豊かな食感・香り・うまみ
山田 昌治 著
講談社(ブルーバックス)
240p 1,000円(税別)