遅い。あまりにも遅い。

 湘南ベルマーレのチョウ・キジェ監督に、パワハラの疑いが降りかかったのは8月12日だった。同日に一部スポーツ紙が報道し、クラブはすぐに事実関係を調査するとし、監督の指揮及び指導を控える決定を下した。調査を担当するJリーグにも、全面的に協力するとした。
 
 17日に行われたファン・サポーターとの定例の意見交換会『クラブカンファレンス』も、報道陣に公開した。この席で眞壁潔会長は、Jリーグによる調査に協力することを改めて強調した。

 ベルマーレの対応に、問題はなかった。
 すでに1カ月以上が経った。
 しかし、Jリーグからは何のアナウンスもない。

 その間に、J1リーグは4試合が消化された。高橋健二コーチが監督代行の立場で指揮するチームは、2分2敗と勝利から遠ざかっている。

 チョウ監督がいないから勝てないと見なされるのは、誰にとっても本意ではないだろう。ベルマーレには一貫したスタイルがある。サッカーの原理原則を徹底的に突き詰めたそのスタイルは、誰がピッチに立っても揺らがない。だからこそ、現場のスタッフと選手たちは、指揮官不在でも結果を残したいと強く考えているはずだ。

 とはいえ、心に波風が立たないはずもない。

 ピッチに立っている間はサッカーに集中できるとしても、選手とスタッフは非日常の時間と空間に放り込まれている。調査結果が明らかになるまで、何も言うことができない。伝えたいことがあっても、口を閉ざすしかない。ストレスは溜まるばかりでも、解消する手立ては持てないのだ。

 先を見通せない日々には、クラブも困惑していると想像する。

 スポンサーとの契約更新へ向けた話し合いの場や、新規のスポンサー獲得のための営業の機会で、パワハラの疑いをかけられている現状を理解してもらうのは、大変な困難を伴うのではないだろうか。「調査の結果が出るまでは……」と言われたら、その時点で会話のシャッターは降りてしまう。

 結果として、貴重な営業の機会が削がれてもおかしくない。表面化していないところで、クラブは痛みを負っている気がする。

 このまま調査結果が明らかにならず、ズルズルと時間だけが過ぎていったら、ベルマーレはどうなるのだろうか。J2降格圏に巻き込まれても、経営に悪影響が及んでも、自己責任になってしまうのか。

 それでは、おかしい。あまりにもおかしい。

 親会社の撤退から市民クラブへ生まれ変わり、長い時間をかけて体力をつけてきたベルマーレは、Jリーグの大切な構成員である。これからJリーグ入りを目ざす地方クラブの、希望になっているところもある。

 彼らが一日でも早く日常を取り戻すためにも、Jリーグは調査結果の公表を急がなければならない。もう1か月以上が経っているのだ。ベルマーレの苦しみを自分事として受け止めれば、ここまで時間がかかることはないと思う。