マルセイユで3年。酒井宏樹に聞く「フランスサッカー」と「エムバペの止め方」

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ロシアの地で様々なことを経験して臨んだ2018-19シーズン。

酒井宏樹は3年目を迎えたマルセイユで27試合に出場。37節のトゥールーズ戦では記念すべきフランスでの初ゴールも記録し、サポーターが選ぶクラブの年間最優秀選手に選ばれた。

ただ一方で、チームは5位に終わり、酒井自身にとっても決して満足のいく一年ではなかったという。

柏レイソルから欧州へ旅立ち、はや7年。

今年29歳になった日本代表DFに、昨シーズンのパフォーマンスやフランスサッカー、さらにマルセイユのお勧めスポットなどを聞いた。

(取材日:2019年6月17日)。

「一度きりだとすれば、貴重なシーズン」

――ドイツのハノーファーからフランスのマルセイユへ移籍し、3年が経ちました。まずは2018-19シーズンはどんな一年でしたか?

結果的にうまくいきませんでしたし、タイトルも掴めなかったですけど、自分にとっては貴重なシーズンでした。

プロになって初めてうまくいかなかった一年と言えますし、「リーグ5位」で批判されるチームというのもキャリアで初めてでした。それが個人的にはすごく新鮮で、そういった中で何ができるかを日々考えながら過ごしていたので、一度きりだとすれば貴重なシーズンだったかなと思います。

――結果が出ない中でかかるプレッシャーというのも、これまで経験してこなかったものだった、と。

そうですね。プレッシャーがあるというのは選手にとってすごく幸せなことですし、それを改めて体感できたことは良かったです。

――酒井選手はリーグアンに馴染むのが早かったという印象があります。その理由はどんなことが考えられますか?

1年目、僕がうまくいっていない状況でもチームが使い続けてくれたことが全てだと思います。

うまくいっていなくても、チームが勝つことでポジティブに課題に取り組める状況を作ってくれましたし、信頼してくれたというのがとにかく大きかったです。

――マルセイユでは右サイドだけでなく左サイドもやるようになりました。マルセイユ以前に左でプレーしたことはあったのでしょうか?

プロになってからはないですね。ただ、やはり右と左では全然景色が違うので、やりづらさは常にあります。慣れることは一生ないのかなと思います。

右と左が同じようになるとは自分でも全く考えていません。対戦相手だったり、組むチームメイトだったり、またその試合に対する監督の指示などもあるので、それらに応えられるような選手になれればいいなという感じです。

――日本代表では今年6月のトリニダード・トバゴ戦、右ウィングバックでプレーしました。あのポジションでプレーした印象は?

あまり変わらないですね。ボールをもらう位置だったり、もらうまでの運動量だったりは変わってきますけど、景色は変わらないですから慣れれば全く問題ないと思います。

試合中にどんどんフォーメーションは変わっていくので、シチュエーションによっては前に出て、得点を狙いに行く場面も出てきます。

――酒井選手なら3バックの右ストッパーもハマりそうなイメージがあります。

マルセイユでもそのポジションはやっていて、「できると分かっている」と森保監督から説明は受けています。ただ先ほども言った通り、どこをやっても試合中に形は変化していくので特別意識はしていないですね。

ライバル、PSG

――パリ・サンジェルマン(PSG)はマルセイユの国内最大のライバルです。酒井選手にとってPSGはどんなチームでしょう?

皆さんと同じだと思いますが、スター集団ですね。マルセイユにとっては歴史的に負けることができない相手ですし、もちろん毎試合勝つつもりでいます。ただそれを差し引いても、強い相手だなと感じますね。

――PSGとの対戦前はマルセイユの街も特別な雰囲気に?

街中がかなりヒートアップしますし、もちろんホームでやるときはスタジアムが満員になります。その中で勝てたら良いのですが、昨シーズンは2敗。ホームでは90分にダメ押し点を奪われ、0-2で敗れてしまいました。

――スターが揃うPSGにおいて、最近はフランス代表のキリアン・エムバペ選手が際立った活躍を見せています。彼に対する印象はどうですか?

やっぱり速さじゃないですか。チームも彼のスピードを生かすことを重視している印象です。最終的には彼とディ・マリアがもう“戦術”だったので、強い信頼を得ていた分、以前対戦した時と比べても明らかにプレーに磨きがかかっていると感じました。

結果が全てを物語っていますし、あれだけのゴールを決めることは彼の自信にも繋がると思います。「結果」と「自信」は比例していきますね。

――実際にピッチで対戦して、これまで戦った選手の誰かに似ているという感覚はありますか?

似ているという感覚はないですね。ただ、あのチームは全ての選手がうまさや強さなどを兼ね備えています。その中でのゴールゲッターなので、“怖さ”はもちろんあります。

――彼のような選手を止めるにはどうしたらいいですか?

同じシチュエーションは二度と来ないのでその質問はすごく難しいです。ただ、彼の苦手なシチュエーションに持っていくことが止められる確率を上げられる唯一の方法だと思います。ディフェンダーとしてはまずそこですね。

――リーグアンにはエムバペやネイマールなどスター選手がいますが、彼らほど知られていない選手の中でスゴイな、面白いなと感じた選手がもしいたら教えてください。

難しいですね。どこまでが知られていないのかというのもありますし…。

たぶん僕より皆さんの方が選手を知っていると思います(笑)。対戦相手は研究材料として見るんですけど。

――フランスといえば、現在の世界王者です。フランスのサッカーにはどういった印象を持っていますか?

ポテンシャルの高い選手がたくさんいるという感じですかね。あの能力を持っている選手たちが他のリーグに行き、新たなものを吸収したら、あんな風になるのだろうなと。

フランスにとどまっていてはパーフェクトな成長はおそらくないです。やはり他の国のサッカーをたくさん知ることによって成長していくことが大事ですし、日本人選手にも同じことが言えるじゃないかなと思います。

――マルセイユでは元イタリア代表のマリオ・バロテッリと今年1月から半年間チームメイトでした。どんな選手でしたか?

すごく良い人で、かつすごく正直な人ですね。外国籍選手のグループがあるので、同い年だったこともありよく話をしました。皆から好かれていて人気者でした。

――右サイドでコンビを組むことが多いフロリアン・トヴァンは?

彼はあまり英語を話さないタイプなのでそんなに深い話はしないですが、すごく優しいですし、ピッチ上ではお互いを信頼し合っている関係ですね。

――海外移籍ではやはり言語が欠かせません。マルセイユではフランス語よりも英語でコミュニケーションを取ることのほうが多いですか?

監督がフランス語なのである程度聞けないといけないですし、そこは理解できていると自分では思っています。ただ、普段のコミュニケーションやフランクな会話というのは英語のほうが多いです。

――フランスに来る前はドイツでプレーしていました。フランス語とドイツ語ではどちらのほうが難しいですか?

フランス語ですね。発音が難しいです。ただ、向こうでサッカーをさせてもらっている以上はしっかり言葉を覚えなくてはいけないですし、その辺りも含めて国へのリスペクトが大事だと思うので、簡単ではないですが着実に上達していきたいです。

――日本人のファンがたとえば試合観戦などでマルセイユへ訪れた際、ここがオススメというスポットを教えてください!

僕は全然歩かないので分からないですが…やはり海ですかね。旧港(Le Vieux Port)とか。

――引退後のキャリアについて考えていることなどありますか?

僕はサッカーをやるのがとにかく好きなので、海外で長くプレーしたいという思いが今は強いです。マルセイユのように良いクラブであるなら尚更、ずっと続けたいなと考えています。ただそこは、相思相愛でないといけないので…。

マルセイユは大好きなクラブです。サッカー選手なのでもちろんさらに上の舞台を視野には入れていますが、マルセイユが「大好きな場所」であることは揺らぐことはないですね。

――最後に、2019-20シーズンの目標は?

チームとしての結果です。誰が見ても良いシーズンだったという一年を送りたいですし、それをやり遂げる覚悟を持って新しいシーズンに入りたいと思います。

酒井 宏樹

1990年4月12日生まれ(29歳)
オリンピック・マルセイユ所属
日本代表56試合出場1得点