森岡亮太が着るユニフォームの「背番号44」のところには、丸く大きなワッペンが貼ってある。ベルギーリーグでは現時点の得点王とアシスト王がわかるように、それぞれランキングトップ選手のユニフォームに派手なワッペンを貼りつけているのだ。


早々に結果を出してベルギーで一躍有名になった森岡亮太

 ベルギーリーグのワースラント=ベフェレンに今季移籍した森岡は、第4節を終えたところで2ゴール4アシストを記録しており、アシストランキングでトップにいる。ベルギーのメディアは「なんというプレーヤーだ。60分に1回、ゴールに絡んでいる。森岡はリーグ序盤戦のセンセーション。彼を発掘したべフェレンのスカウトに脱帽だ」(『ヘット・ラーツテ・ニーウス』8月21日付)と、森岡にぞっこんだ。

 現地の複数報道によると、ベフェレンが森岡を発見したのは偶然の産物だったという。2016年4月、ベフェレンでスカウトを担当しているダニエル・デクラークが守備的MF(センターバックという説もあり)の選手をチェックしにポーランドまで行ったとき、対戦相手のシロンスク・ヴロツワフに森岡がいた。

「すぐ森岡に興味を持った。テクニックがともかくすごかった。視野が広く、ボールの置きどころもよく、ボールさばきに秀でており、ショートパスもミドルレンジのパスも難なく出していた」(デクラーク)

 2016年12月、トップ下のシーベ・スフライフェルスをゲンクにレンタルバックすることになり、ベフェレン内で森岡がリストアップされた。しかし、ヴロツワフの提示は90万ユーロ(約1億1800万円)。はるかにベフェレンの予算をオーバーしており、このときは獲得を断念するも、「今後も森岡の調査を続ける」ということでクラブ内のコンセンサスは取れていた。

 そして2017年5月13日、デクラークはふたたびポーランドへと飛び、ルフ・ホジューフ戦を視察した。ヴロツワフにとっては1部残留のために、絶対に勝たねばならない試合だった。結果、ヴロツワフは6-0で勝利する。

「その試合で森岡は2ゴール1アシストを決めてヒーローになった。試合後、私はホテルで森岡本人と、その関係者に会った。いい雰囲気で話し合いができたよ。森岡は日本代表監督からチェックされやすくなるよう、ベルギーへの移籍を望んでいた」(デクラーク)

 今シーズンから指揮を執ることになったフィリップ・クレマン監督も、森岡のテクニックに魅了されたひとりだ。「森岡こそウチのクラブで必要な男だ」とディルク・ハイク会長に進言したという。
 
「(ポーランドの)レギア・ワルシャワも森岡を欲しがっていた。ウチのクラブにとってラッキーだったのは、ヴロツワフはポーランド内のクラブに自分のところの選手を売りたくなかったんだ」(ハイク会長)

 こうして森岡は27万5000ユーロ(約3600万円)の移籍金でベフェレンに加入することになった。この金額はクラブ史上最高額だが、「今や、はした金」と報じられている。

「森岡の未来は計り知れない。彼は欧州トップリーグでもプレーできるポテンシャルを持っている。現在、森岡はベルギーのなかで『最高の10番』。彼には1000万ユーロ(約13億円)という金額も大げさではないぐらいの価値があると聞いている。もし、そのお金を積まれたら? 断るね。私は本当に彼を売らないよ」(ハイク会長)

 森岡の報道を追っていくと、ひとつ気にかかることがあった。ポーランドリーグ2季目となった昨シーズン、森岡は8ゴール9アシストというキャリアハイの結果を残した。だが、実際にはフィジカルの激しいリーグでロングボールを多用する戦術のなか、「苦しいシーズンを送っていた」とも記されているのだ。8月26日に行なわれたシント=トロイデンVVとの試合後、私は森岡本人に確かめてみた。

―― 昨季ポーランドで8ゴール9アシストを記録したとき、私は森岡選手に「キャリアハイでしたね」と言った記憶があります。しかし、ベルギーのメディアは「ポーランド2年目の森岡選手はあまりよくなかった」と書いていました。ただ、最後のほうの試合では2ゴール1アシストを決めて、ヒーローになったそうですね。昨シーズンは苦しんでいたんですか?

「そうです。1年目の最後に点を一気に獲ったので、2年目の最初5〜6試合はずっとマンツーマンでつかれたんですよ。それでまったく(自分のプレーが)できなくて、ウチのチームも何もできなかった。それからマンツーマンがなくなり、ちょっとずつですけど点を獲っていけました。だけど、あんまりよくなくって、結構……」

―― 結構、学びのシーズンだったと。

「そうですね」

―― 最後はヒーローになったんですよね。

「シーズンの最後はもう、残り少ないところで最下位までいきましたからね。そのあたりで一気にババッとチームがいいゲームをし始め、なんとか残留が決まったんですけれど、そのときにちょっと(ゴール数を)稼いだというか。だから、レギュラーシーズン全体としてはダメですね」

―― さきほどの話ですと、開幕しばらくしてからマンツーマンが解けたと。それはなぜでしょう。

「マンツーマンしなくても(相手は)勝てるやろ、みたいな(苦笑)。それぐらい、あのときのチームはひどかったです。サッカーじゃなかったですね」

―― 今みたいなベルギーでの姿は、1年前は考えられなかったわけですね。

「こんなにボールに触れなかったですから。まあ、いい経験ですね」

―― フィジカルは逞しくなったのでは?

「それはもう、かなり」

―― やっぱり海外には来るものですか。

「やっぱり海外には来るものですよ」

 実はもう、ベルギーリーグでも森岡には包囲網が敷かれ始めている。シント=トロイデンVV戦では相手のMFスティーブン・デ・ペッターに密着マークされ、必殺のスルーパスを完全に封じ込まれてしまったのだ。

「そろそろ(密着マークが)くるかなと思ってましたけど、だいぶきましたね。相手の6番(デ・ペッター)がついてきて、何とか外したら今度は5番(MFアレクシス・デ・サール)が突っ込んできた」(森岡)

 敵将のヨナス・デ・ルーク監督は、「森岡はチームの流れを作る選手だ。森岡を試合のなかから消してしまえば、ベフェレンはかなり厳しくなるだろうということはわかっていた」と語った。おそらく、他のチームもデ・ルーク監督の手法にならって、森岡をピッチの上から消しにかかってくるだろう。2014年以来遠ざかっている日本代表に近づくためにも、森岡にとってこの状況はいい試金石となるだろう。

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