KEITA 新アルバム『FRAGMENTS』で「理想に近づけた」 30代の第一歩を語る
「この2年半はずっと走りっぱなしでしたね」――。言葉とは裏腹に柔らかい笑みを浮かべ、どこか楽しそうですらある。ダンス&ボーカルユニットw-inds.のメインボーカリスト・橘慶太。彼がKEITA名義で制作したミニアルバムで、2013年の『SIDE BY SIDE』以来となる『FRAGMENTS』が完成した。30歳の誕生日(12月16日)に発売となる新作に込めた思いとは? クリエイターとして新たな一歩を踏み出した彼の“いま”に迫る。

撮影/平岩亨 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

“危機感”が火をつけた曲作りへの衝動



――『FRAGMENTS』の最大の特徴は、これまでの作詞に加え、作曲もされている点だと思います。自身で曲を作ることになった経緯は?

『SIDE BY SIDE』でも制作に深く関わったことで、作ることの楽しさに芽生えたことが大きいですね。これまでもDAWソフト(作曲用ソフト)を使って遊びで曲作りはしていましたが、本格的にやってみたいという気持ちになりました。

――さらに深く、アルバム制作に携わりたいと。

当たり前ですが、歌手は曲がなければ歌えないんですよね。もし曲を作ってくれる人がいなくなったら、自分の音楽人生が終わってしまうと思い当たったんです。死ぬまで音楽を続けるにはどうしたらいいか? 自分で作ればいいんだと考えて、制作を始めました。

――音楽を始めたころから、歌だけでなく作曲にも興味は持っていた?

当時は80年代で、母がDJをやっていたこともあって、ファンク&ソウル系の音楽が好きでした。そのころ、歌が好きという気持ちはもちろんですが、曲に対して「カッコいいな」という意識はありました。その意味で「作りたい」という火種は昔からあったんだと思います。

――今回のアルバムは、どのように作曲していったんですか?

ギターをかき鳴らしながらメロディをつけていく人もいるんでしょうが、僕の場合、何よりもトラック(=楽曲を構成する各パート)ありきで、各トラックに細かく自分の気持ちを置いていくんです。

――いきなりメロディに入るのではなく?

まずビートやリズムを作ります。そこにピアノやギター、ストリングスなどの楽器を重ね、最後にメロディを乗せる。やっていくうちに、そういう自分にとっての定番と言えるやり方が確立しましたね。

――実際に曲作りを開始したのは?

『SIDE BY SIDE』を出して、すぐですね。

――そんなに早く? 新作を出して、ひと息つくというよりも…

むしろスタートでした。先ほど言った危機感が芽生え始めて、w-inds.としての仕事以外はずっと曲作りについて学んでました。コードの理論、機材の使い方を勉強して、それを実践して…。自宅にもスタジオと同じ設備を揃えたので、いつでもどこでもという感じでずっと作り続けてました。



――話が少しそれるんですが、曲作りにおいてインターネットは欠かせないとか?

ネットがなかったら僕は終わりです(笑)。曲作りの勉強もそうだし、ソフトをネットでダウンロードすることもしょっちゅうです。以前は、海外でしか買えなかった機材も多かったんですよ。海外に行く人にお願いして買ってきてもらったりしてましたからね。

――それがネットの普及で変わった。

いまは、海外の人とタイムラグがない状態で、同じソフトで勝負ができるのはすごく大きいです。ネットが確実に、音楽づくりの環境に平等をもたらしたと思います。

――海外のアーティストとも同じ土俵に立って戦うことができる。

だからこそ、言い訳もできないです。あとは自分がどれだけやれるかだなと感じています。




「恋愛」で人は成長していく



――曲作りでは、感性というよりもガッチリと理論から入って積み重ねていくタイプ?

それは性格的なところですね。理論から入らないとイヤなんです。感覚でできないんですよ。歌に関しても、最初は感覚でやってたんですけど、限界を感じるようになりました。これを乗り越えるには、基礎的な理論を知らなきゃダメだと思って、発声などを勉強することで突破口が見えてきたんです。

――曲作りもその経験則で?

感覚だけでコードやメロディを作れなくはないけど、すぐに引き出しがなくなって終わっちゃう。そこに理論があれば、いろんなパターンを結び付けて派生させて広げていけるんです。感覚で“遊ぶ”にしても土台が必要だというのは自分の中のセオリーとしてありますね。

――今回の『FRAGMENTS』を制作する上でのコンセプトは?

統一した世界観を出したくて、そこで考えたのが「愛」や「恋」。人が人生の中で、ずっと寄り添っていく存在として「愛」や「恋」がある。それがあるから、成長できるとも思ってます。それからもうひとつ、「音楽」も僕にとって人生そのもの。「恋愛」と「音楽」を二本柱にしました。

――全6曲に歌詞をつけてますが、6編の登場人物の異なる恋愛小説のようです。

愛にもいろんな形があると思うんです。盲目的な愛もあるし、自分が変わっていく恋もある。それを歌詞にしてみました。

――男性目線でYou(=君)がいて、曲ごとにふたりの距離感がありますね。情けない男もいれば、ちょっとエラそうな男もいたり…

いますね(笑)。多重人格者だと思われるんじゃないかと心配です(苦笑)。

――歌詞の方は生みの苦しみはありますか?

歌詞に関しては、楽曲を聴くとすぐテーマが決まりますね。特に今回、作曲した曲は制作途中で風景が浮かんできていて、こういう詞にしようというのがスッと出てくるんです。そこは、さっき言った作曲における「理論」とはまた違うんですよね。

――作曲が左脳だとすると、作詞は感覚的に右脳で書いてる?

ファーストインプレッションを大事にしてますね。直感的に最初に「これ」と感じたものは、たぶん正しい。歌詞に関しては考えて、考えて…とやっていくと、詰まっちゃうんです。タイトルやカギとなる言葉や風景がふっと出てくるので、それを大事にしています。