手軽にトラックをワイヤレス充電! ドライバーの声を反映した、三菱ふそうトラック・バスの実証実験とは
実運用型の実証実験はじまる
EVトラック普及の議論では、これまで航続距離やバッテリー容量に注目が集まってきました。しかし、実際の物流現場で次第に顕在化しているのは、充電そのものを運用へどう組み込むかという問題です。
【おぉ! ホントに非接触】eCanterがワイヤレス充電する様子(写真)
三菱ふそうトラック・バスは2026年現在、愛知県江南市の名鉄NX運輸 江南支店(名鉄トラックターミナル中部)において、小型EVトラック「eCanter」を用いた停車中ワイヤレス充電(SWPT)の実証実験を行っています。これは環境省が推進する、運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業の一環です。そして、この実証実験の特徴は実運用型である点にあります。
単なる研究施設ではなく、すでにeCanterを28台運用する名鉄NX運輸の物流現場へ導入。実際の配送業務の中で、新しい充電方式が成立するかを検証しています。
想定するのは都市近郊配送です。配送距離は1日50〜75km程度。例えば愛知県小牧市周辺で食品や資材を配送し、夜間帰着後に約5〜6時間かけて5kW充電を行います。
ここで重要なのは高出力化を追求していない点です。夜間帯に充電時間を確保できるなら高出力は必須でないため、短時間で大量充電する機能は不要となります。つまり今回の狙いは、“短時間で大量充電”ではなく、“運行の邪魔をしない充電”なのです。
また、現場では、数分のケーブル接続作業そのものが負担になっているといいます。重いケーブルを引き回し、接続し、終了後に片付ける。時間よりも、むしろオペレーションの煩雑さが問題視されていました。
そこで充電設備をワイヤレス化。ドライバーは車内モニターを見ながら位置を合わせ、ボタン操作のみで充電を開始できるようにしたのです。
ただし、ワイヤレス充電最大の技術課題は「位置ずれ」です。送受電コイルがずれれば、充電効率が低下するだけでなく、漏えい磁界増加のリスクも生じます。
そこで今回のシステムでは、3層の誘導システムを採用しています。まず車輪止めによって前後方向を制御。次に地面のガイドラインで左右位置を大まかに合わせ、最後に駐車サポートカメラで高精度な位置決めを行います。これにより、前後±40mm、左右±110mmの誤差を許容範囲としました。
今後、ワイヤレス充電は高速道路にも普及する?
興味深いのは、この設計思想です。当初はより複雑な誘導設備も検討されていたものの、プロドライバーから過剰だとのフィードバックがあり、シンプルな構成へ改良されたといいます。つまり、今回の実証は単なる技術検証ではなく、「物流現場が受け入れられるUI(ユーザーインターフェース)とは何か」という検討でもあるわけです。

充電設備との「位置ずれ」防止のため、車輪止め、ガイドライン、駐車サポートカメラの3層の誘導システムを採用する(乗りものニュース編集部撮影)
充電方式にはダイヘン製の磁界共鳴方式が採用されました。85kHz高周波交流を用い、コイル間ギャップを確保しながら非接触給電を行います。スマートフォンなどで一般的な電磁誘導方式に比べ、大電力かつ長距離伝送に適している点が特徴です。
車両側は、既存の急速充電器と普通充電器に加え、ワイヤレス充電器を追加した3方式対応。制御には既存CHAdeMOプロトコルを流用しており、既存インフラとの親和性も意識されています。
また、安全性も重要な検証テーマです。受電コイル周辺では誘導加熱リスクがあるため、専用保護カバーが装着されています。漏えい磁界に対しても、停車中ワイヤレス充電の国際標準規格を下回るレベルに抑えられています。
ところで、ワイヤレス充電は今後どのようになっていくでしょうか。実証実験を共同実施している三菱総合研究所は、停車中給電を段階的に普及させた先に、走行中給電の社会実装をロードマップとして提示しています。高速道路や幹線道路へ設備を埋設するハード面のほか、補助金制度などソフト面での制度構築も視野に入れています。
一方で三菱ふそうトラック・バスは、市販化や大型トラック展開については慎重な姿勢を維持しています。特にスーパーグレートなどの大型車は用途の多様性や運用条件が大きく異なり、小型車と同じアプローチが成立するとは限らないためです。それでも今回の実証実験が示すのは、EV物流の競争軸が変わり始めているという現実でしょう。
もはや航続距離だけでなく、「いかに充電を運用へ溶け込ませるか」の研究が、今後の普及を左右するのではないでしょうか。ワイヤレス充電は単なる“ケーブルレス化”ではなく、物流オペレーション全体を再設計するインフラ技術として、次の段階へ進もうとしています。
