千葉の幼稚園で「石鹸60個」が次々と消失…防犯カメラが捉えた”意外な犯人”の正体

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千葉県松戸市の幼稚園で起きた「連続石鹸消失事件」。防犯カメラが捉えたのは、誰もが想像しなかった「意外な犯人」だった……。著書『自然はすごい いつもの道が美しく見える5つの視点』を上梓した、ネイチャーガイドで自然観察家のノダカズキ氏が、その正体と「犯行の動機」を明らかにする。

なんでも食べてしまう「雑食性の鳥」

カラスはとても興味深い雑食性の鳥で、実にさまざまな物を食べます。図鑑には「カラスは雑食性」と書かれていますが、その食事は魚や野菜、肉まで多岐にわたります。

時には、他の鳥にはあまりない「共食い」をすることも。さらに、地域によって食べるものが大きく異なるのもカラスの特徴です。

カラスは人間と同じように、季節や地域に応じた食べ物を楽しんでいます。我々人間が秋にはサンマを、春にはタラノメといった季節の食材を食べるのと同じです。たとえば、北海道のカラスは秋になるといくらや鮭を好んで食べます。

都会に住むと食材の季節感が薄れてしまうことが多いですが、これはカラスにも当てはまります。東京のハシブトカラスはケバブやピザ、カレーなど、年間を通じて手に入る物ばかりを食べています。

また、大きな養鶏場の近くでは、鶏卵を盗み食いする姿もよく見られます。牛小屋にいるカラスは、とうもろこしを中心に食べていることが多いですし、動物園にいるカラスは動物園で与えられた餌を食べるのです。

カラスはどんな食物を好むのか?

カラスの食生活について、全国規模の調査データがあります。全国から集められた369羽のハシブトガラスと484羽のハシボソガラスの胃の内容物を調べたところ、実にバラエティ豊かなメニューが見つかりました。

イネや麦、スイカ、種子、昆虫、ネズミや小鳥の残骸。ここまではまだ想定内かもしれません。が、ゴム製品や人の髪の毛まで胃の中から出てきた日には、「なんでもありか!」とツッコミたくなります。そう、カラスはまさに本物の雑食です。

植物性と動物性の食物の割合を見てみると、どちらのカラスも植物質が約88%、動物質が約12%。通常ハシブトガラスは肉食傾向が強いとされていますが、意外にも、この調査ではハシブトが肉好きとか、ハシボソが草食系といった違いは見られませんでした。

このあとの話につながるのですが、ハシブトガラスが食べていた植物性の種子のうち、なんと52%がウルシやハゼノキの仲間。おいしそうには見えないですが、実は脂肪分が豊富で、栄養満点の「カラス的スーパーフード」なのです。

石鹸を次々と盗み出した犯人は……

ここで、そんな脂肪を愛してやまないカラスが巻き起こした「事件」をご紹介しましょう。

2000年の冬、千葉県松戸市のある幼稚園で、園児たちの手洗い用に設置されていたネット入りの石鹸が、次々と姿を消すという事件が発生。1月だけで消えた石鹸は60個。しかもネットが鋭利なもので切り裂かれており、周囲では変質者の仕業ではないかという疑念が高まりました。

当時この地域では子どもを狙った猟奇事件も起きており、幼稚園側の警戒心は最高潮に。ついには100万円をかけて防犯カメラを設置し、犯人の正体がついに映像に映し出されました。

それは、石鹸をくわえて飛び去るハシブトガラスの姿。犯人はまさかの鳥だったのです。

なぜカラスは石鹸を盗むのでしょうか。東大の研究チームがこの謎を追跡調査したところ、どうやら石鹸はカラスにとって「食用」だったことが明らかになりました。カラスは石鹸をくちばしでつつき、食べていたのです。

理由はシンプル。石鹸は油脂から作られています。つまり、石鹸は「固形の油」。自然界では油は非常に貴重な栄養源であり、特に冬の寒い時期には効率的なエネルギー源として重宝されます。

実際、カラスが石鹸を狙うのは冬に集中しており、脂肪を補うための行動と考えられています。

伏見稲荷大社の“放火魔”事件

似たような事件が1999年に京都の伏見稲荷大社でも発生しました。原因不明のボヤが続出し、「これは誰かの悪戯では?」と疑念が持たれたのです。

東大の樋口教授による調査で、ついに真相が明らかになりました。防犯カメラには、火のついた和ろうそくをくわえて飛び去るハシブトガラスの姿がしっかりと映っていました。

そしてそのろうそくを、わざわざ落ち葉の中に隠すという念の入れよう。まるでキャンプの準備でもしているかのような仕草です。

和ろうそくは高級品で、最高級のものは一本一万円以上します。素材にはハゼの実から搾った油が使われており、これまたカラスにとってはご馳走そのもの。つまり石鹸も和ろうそくも「油を摂取するための食品」という位置づけだったわけです。

カラスにとっては都市そのものがレストラン。そして、脂肪たっぷりの石鹸やろうそくは、冬の高カロリーなご馳走。

私たちが思わぬものに価値を見いだすように、自然界の住人たちもまた、独自の価値観でこの世界を生きています。

あなたがうっかり落としたお菓子もゴミ箱に捨てた賞味期限切れのお肉も、どこかのカラスにとっては「今夜のメインディッシュ」かもしれませんね。

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