助けてください…退職金3,000万円の64歳元会社員、定年後4年で「1,000万円」を失った“厄介な理由”【CFPが警告】
定年退職は、家計の支出が大きく変化するタイミングです。その際、退職金という「これまで受け取ったことのない大金」を手に入れることで、冷静な判断を失ってしまう人も……。では、そうならないためにどのような準備・対策が必要なのか、64歳男性の事例をもとにみていきましょう。
幸せなセカンドライフに忍び寄る“破産の足音”
シンジさん(仮名・現在64歳)は、同い年の妻と2人暮らしです。ひとり息子はすでに結婚しており、自宅から車で30分ほどのマンションで家族と暮らしています。
シンジさんの定年直前の年収は1,000万円を超えていました。ただ、趣味の車やゴルフ、家族での旅行など、日々の生活を楽しむことを優先していたため、資産形成は意識していなかったそうです。そのため、定年時の貯金額はわずか100万円ほど。しかし、シンジさんはまったく気にしていませんでした。なぜなら、約3,000万円の定年退職金が待っていたからです。
「老後2,000万円問題と言われていたくらいだし、3,000万円あれば老後は問題ないだろう」
貯金の習慣がなかったシンジさんにとって、「3,000万円」という金額はどこか現実味がなく、気持ちを高揚させました。
退職金を取り崩す日々が常態化
定年後の夫婦の収入は、あわせて月22万円ほど。現役時代と比べると大きく減少しましたが、深刻に受け止めることはありませんでした。
むしろ、自由な時間が増えたことで、支出は定年後も増えていったといいます。定年退職のお祝いとして夫婦で海外旅行に出かけ、その後も毎月のように国内旅行を楽しみます。ときには息子家族を誘って、豪華なディナーを囲むことも。
さらに、定年祝いで新車を購入。その車でキャンプやドライブを楽しみ、また現役時代から続く得意先との付き合いで、定期的なゴルフにも興じます。
定年後の暇な時間を心配していたシンジさんにとって、こうした日々は幸せそのものでした。しかし、その陰で貯金は着実に減っていきます。
当然ながら、これらの支出は月22万円の収入では足りません。かつては会社の経費でまかなわれていた交際費も、退職後はすべて自己負担です。こうして退職金の切り崩しが常態化していたのでした。
わずか4年で衝撃の目減り…それでも支出を減らせない“厄介な理由”
こうして、定年からわずか4年で貯金が約2,000万円にまで減少していたシンジさん。月に約22万円の収入がありながら、年間約250万円のペースで取り崩している計算です。
残高が減るスピードに不安が募るシンジさんでしたが、会社員として年収1,000万円を突破したプライドや、周囲との比較、生活水準を落とすことへの抵抗感などが邪魔をし、なかなか支出を減らすことができませんでした。
なにより、妻の幸せそうな姿を見るたび、「お金がないから節約しよう」とは口が裂けても言えないと思っていたそうです。
しかし、このままの生活を続ければ、遅かれ早かれ資金が尽きることは明らかでしょう。
エリートほど要注意…「老後破綻」に陥る原因
老後に入ってから生活が立ち行かなくなり、自己破産にいたる世帯は決して珍しくありません。
日本弁護士連合会の「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、全破産債務者のうち60代以上が占める割合は2017年以降増加傾向にあり、2023年では28.55%にのぼります。老後破綻は一部の特殊なケースではなく、誰にとっても起こりうる問題です。
[図表]老後破綻の割合出典:日本弁護士連合会「消費者問題対策委員会2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」を参考に筆者作成
老後破綻の要因として、退職後も住宅ローンなどの負担が残っているケースや、思わぬ病気・ケガによる医療費の増加、想定外の支出が重なるなどさまざまですが、なかでも多いのが「生活水準を下げられない」という問題です。
意外かもしれませんが、このケースは現役時代に給与が高かった会社員も少なくありません。一度上げてしまった生活水準を下げることができず、現役時代と同じ感覚で支出を続けてしまった結果、資産が想定以上のスピードで減っていくのです。
こうしたリスクを避けるため、定年前の事前準備が重要になります。具体的には、ライフプラン表を作成し、今後の収入・支出・資産の推移を可視化しておくことが有効です。
あらかじめ年間の収支バランスを把握し、どの程度の支出であれば持続可能なのかを確認しておけば、老後に入ってからの支出管理もしやすくなるでしょう。
浪費にブレーキがかかったキッカケ
その後、シンジさんは第三者の客観的な意見を求め、妻に内緒でファイナンシャルプランナー(FP)を訪ねました。
「節約するしかないと、頭ではわかっていても止められないんです。助けてください……」
そう嘆くシンジさんの収支を確認したところ、毎月およそ16万の赤字であることが判明しました。シンジさん夫妻がこのままの生活を続けた場合、75歳前後で資金が尽きてしまいます。
また、今後の物価上昇や医療費の増加、車の買い替えなどの支出も考慮すると、さらに早まる可能性が高いでしょう。
詳細な数字とともに改めて現実を突きつけられたシンジさんはショックを受けていたものの、家計の見直しにより、資金の枯渇を大きく先送りできることも分かり、ひと安心。まずは毎月の生活費を35万円以内に抑えることを目標に、夫婦で支出を見直すことにしました。
シンジさんは、現在の課題と将来に向けた対策を具体的な数字で確認できたことにより、漠然とした不安が解消できたようでした。
「まずはできることから、ひとつずつ見直していきます」と語るシンジさんの表情には、前向きな覚悟が見えました。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP

