高市早苗首相

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【前後編の後編/前編からの続き】

 高市早苗首相が“悲願”とまで口にして、先の衆院選で国民に約束した「消費減税」に“暗雲”がかかっている。国会への法案提出を目指すべく始まった超党派による「国民会議」。その議論が低調なのである。そこには一国のトップの悪だくみが見え隠れしていて……。

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【写真を見る】「激ヤセ」が心配される高市首相 以前と比較すると「まるで別人」

 前編では、遅々として進まない消費減税を巡る議論の現在地点について報じた。

 もはや存在自体が形骸化しているとも揶揄される国民会議だが、今月8日に行われた実務者会議では、小野寺五典税調会長らが、スーパーなど量販店のレジシステムの開発を担う東芝テックや富士通、NECなど大手メーカーの担当者から直接ヒアリングを行っている。

高市早苗首相

 会議に携わる永田町関係者に当日の様子を聞くと、

「それまでの実務者会議では、日本チェーンストア協会や日本百貨店協会など小売業界の代表者たちから、消費減税を行うにあたっての課題や問題点を聞き取ってきました。その中で真っ先に挙がったのがレジのシステム改修問題です。現状で食料品の消費税率は8%ですが、それを0%にするとなれば、改修にかかる時間は1年前後。今年度内の消費減税を実現するには、今すぐにでも作業に入らないと間に合わないのです」

「限りなくゼロに近い」税率に下げる方法も

 商店街の青果店や精肉店、鮮魚店など個人商店にあるレジなら、税率変更は即日可能の機種もある。一方、大手スーパーや百貨店などで扱うレジは、大抵「POS(販売時点情報管理)システム」が組み込まれており、そう簡単にはいかない。

 経済誌記者の解説。

「このシステムは、店で何が売れたかを瞬時に把握でき、在庫を管理する倉庫とも連携が可能です。自社のみならず、取引先などとも広範囲につながっているシステムのため、いざ税率をゼロにするとなれば、プログラムを実質一から作り直す必要がある。前例のない作業なので、システム開発を担う大手メーカーとしても先が見通せません」

 そのため、実務者会議では苦肉の策が披露されたという。

 前出の関係者いわく、

「税率をゼロにするのはハードルが高いけれど、1%とか2%など、0%以外の税率に変更するだけなら、1カ月から3カ月で可能と、メーカーの担当者から説明を受けました。これを聞いた維新の議員から“だったら0.001%にすればいいのでは”“有力な選択肢だ”という声が上がっていました」

「消費税ゼロ」が時間的に難しければ、レジのシステムの改修が短期間で済む「限りなくゼロに近い」税率に下げるだけで、減税を強行する可能性もあるわけだ。

「会議後、小野寺税調会長は、わざわざ会場に残りメーカーの担当者をつかまえて名刺交換をしていたくらいですから、消費税率とレジのシステムの改修にかかる期間の関係に、かなり興味を持っていることは事実でしょう。税率を1%とかゼロ以外の数値にすれば、今秋の臨時国会で税制改正法案を成立させた後、レジ改修に入っても、今年度内に間に合いますからね」(同)

すでに1年を切ったというのに……

 今月15日にあった実務者会議には、消費減税で影響を被るとされる地方自治体の首長たちが参加した。

「2年間、食料品の消費税が0%となれば、年間約5兆円の減収が見込まれます。そのうち年間約2兆円は地方自治体への交付金の原資となるはずの額だとして、地方税収の減少に苦しむ地方自治体に配慮してほしいと首長たちが訴えたのです」(前出の関係者)

 実務者会議は、消費減税に否定的な人にばかりヒアリングして、できない理由を探っていると訝しむ声もあるが、こうした状況を高市氏は知らない可能性が高いという。

「小野寺氏をはじめ実務者会議のメンバーが、高市さんに呼ばれて報告を求められたという話はいまだに聞きませんね。会議に参加している各党の議員同士でさえ、“それは違う!”などと声が飛び交うような活発な議論を交わすまでに至っていません」(同)

 国民会議の事務方である内閣官房の担当者は、

「国民会議は、実務者会議と有識者会議が連携して、専門的な議論の結果を(高市氏が出席する)『親会議』に報告する形になっています。まだ議論が進行中なので、『親会議』の開催に向けての調整はしておりません」

 高市氏が青写真を描く今年度内の消費減税スタートまで、すでに1年を切ったというのに、切迫感はなさそうなのだ。

「減税自体がつぶれる可能性は低い」

 さらに、実務者会議との両輪とされる有識者会議でも、消費減税についての活発な議論はされていないという。

 有識者会議のメンバーの一人で、地方財政の専門家である関西学院大学名誉教授の小西砂千夫氏に聞くと、

「有識者会議は給付付き税額控除について意見を述べてほしいとだけ言われています。毎回会議で実務者会議の様子に関して説明を受けますが、それについて出席している有識者の間で意見や質問が出ることはありません」

 有識者会議への他の出席者にも取材を申し込んだが、一様に「消費減税を話し合うのが目的ではない」との回答。同じ国民会議の下で、実務者会議とは役割が違うとの説明だった。

 別の内閣官房関係者が言うには、

「有識者会議の雰囲気は、いろんな立場の参加者が意見を出して、論点整理をした後、最後は政治の側が決める流れになっていると思います。とはいえ、今の国民会議の進み具合を見ていると、有識者会議では給付付き税額控除は対象者を絞った『簡易型』でも実現に2〜3年ほど必要だと政府側が説明しています。こうしたことからすれば、給付付き税額控除の制度設計を迅速に進めても、結果的に消費減税が必要になる流れとなる、とも考えられます。最終的に官邸主導で進めれば、減税自体がつぶれる可能性は低いのではと思います」

「今後の高市政権を占う試金石に」

 他方で、実務者会議で指摘されたさまざまな課題をクリアしなければ、有権者から期待外れだと批判される恐れもある。

 ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこんな意見だ。

「高市さんは、支持率次第で消費減税というカードを切るか否か、様子見を決め込んでいるように見えます。世論調査では消費減税についての評価が拮抗している。このまま高支持率をキープできるのなら、消費減税の可否は国民会議に任せる。つまりは、給付付き税額控除を先行させて消費減税はできなかったという結論もあり得ます。一方で、イラン情勢や物価高に世論は敏感ですから、支持率が一気に下がってくれば回復のため減税を実行するでしょう。とはいえ、国民会議の議事進行を見れば深い議論になっておらず、当初の予定どおり法案の準備ができるのか甚だ疑問です。夏に予定される中間取りまとめでどのような決断を下すかが、今後の高市政権を占う試金石になると思います」

 日本経済の行方を左右する消費減税を“政争の具”としてもてあそぶようなら、さすがに高市氏も悪だくみが過ぎるとの誹りは免れまい。

 前編では、遅々として進まない消費減税を巡る議論の現在地点について報じている。

「週刊新潮」2026年4月30日号 掲載