物価高の日本に「トランプ不況」が追い打ち…ガソリン高騰のウラで、この夏「消える」意外な日用品
7月に「トランプ不況」が日本を襲う
「可能な限り、在宅勤務を行う」
「公共交通機関の利用を促進する」
「代替手段がある場合、航空機の利用は避ける」
これは、3月20日、IEA=国際エネルギー機関が国際社会に向けて公表した、石油などエネルギー節約策10の提言の一部である。まるで新型コロナウイルス拡散期を思い起こさせるような文言が並んでいる。
3月24日、自民党が開いた会議でも、出席した石油元売り会社側から、「ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続けば、7月にも石油製品の供給制限を行う可能性がある」との見通しが示されている。
政府は、240日分ある石油備蓄(国家備蓄146日分、民間備蓄88日分、産油国共同備蓄6日分)のうち、民間備蓄の一部に続き、国家備蓄の放出を始めた。
また、アメリカなど中東以外の産油国からの輸入も急ぐ方針だ。とはいえ、アメリカ産の石油が日本に到着するのは「最短でも6月」(石油元売り会社幹部)だという。
渇水対策として節水するように、在宅勤務の推奨や公共交通機関の利用促進などによってガソリン消費量は多少抑制できたとしても、LNG(液化天然ガス)の高騰で電気料金が跳ね上がれば、酷暑の夏は乗り切れない。
また、すでに大手化学メーカーは、プラスチックなどの原料になる基礎化学品「エチレン」の減産体制に入っている。
その影響で、「エチレン」を加工して作られる「ポリエチレン」や「ポリプロピレン」の生産が滞るようなことになれば、ペットボトル、レジ袋、ポリバケツ、食品用タッパーといった生活必需品の製造もおぼつかなくなる。
「もう、ガソリンや軽油の価格抑制策を考える時期は過ぎた。夏には供給が制限される恐れもあるので、これからは、石油をどれだけ持たせられるのかの議論を始めないといけない」(自民党の会議に出席した議員)
つまり、イスラエルのネタニヤフ首相とアメリカのトランプ大統領がイランに仕掛けた「やらなくても済んだ」戦争が長期化するようなら、梅雨明けする頃には「トランプ不況」が襲ってくるということだ。
政府の補助金も夏には使い果たす
こうした中、政府は3月19日にガソリン補助金を開始した。また、国民の不安や物価高を抑えるため、同24日には、今年度予算の予備費から補助金用に8000億円を積み増すことも閣議決定した。
これによってガソリン価格を1リットルあたり30円程度抑える役割を果たす補助金の総額は、前回分を加え、1兆800億円となり、日本国内でのガソリン消費量が「1億リットル/日」と考えれば、数字の上では300日程度は継続できるメドは立った。
とはいえ、補助金が使われるのはガソリンだけではない。重油や灯油、軽油や航空燃料にも振り分けられる。また、イラン戦争が長期化したり、円安が進行したりすれば、原油高に拍車がかかり、1リットルあたり40円とか50円の補助金を投入する必要性も生じる。
そうなれば、到底、300日は持たない。下手をすれば、やはり夏を前に、今回、積み増した補助金は枯渇し、高市政権は、未曽有の経済危機に次の一手を大胆に打つことを余儀なくされることになる。
イラン戦争はしばらく続く
日々、状況が変化し、トランプ氏が言うこともコロコロ変わるため予測は難しい。ただ、本稿執筆段階(25日夕)では、近く行われる可能性があるアメリカとイランの戦闘終結に向けた協議で、日本はもとより国際社会が望む「停戦」へと一気に進む可能性は、次の理由で低いのではないか、というのが筆者の見立てだ。
(1)アメリカとイランの代表者問題
・アメリカ側の代表が、ウィトコフ中東担当特使と、ユダヤ系でトランプ氏の娘婿、クシュナー氏であれば、イラン側は、2月に会談した数週間後に攻撃されたため信用しない。今回のイラン攻撃に反対し、イスラエルにもモノを言ってきたバンス副大統領が出てくるのが理想。
・イラン側の代表が、革命防衛隊の元司令官で、最高指導者となったモジタバ師にも近いカリバフ国会議長と考えた場合、聖職者ではないカリバフ氏が、「ミサイル開発5年間禁止」「ウラン濃縮停止」「核施設の破壊」といった、トランプ氏が突き付けた15項目の条件を、どこまで権限を持って判断できるのか未知数。
(2)アメリカが提示する「1ヵ月の停戦」問題
・強襲揚陸艦「トリポリ」や「ボクサー」が中東海域に到着し、海兵隊4500人の増派、F35ステルス戦闘機やオスプレイの配備が完了すれば、アメリカは、交渉しだいでいつでもイランを再攻撃できる準備が整う。
・イスラエルメディアによれば、アメリカは、まず1ヵ月間の停戦を宣言し、その間にイランと15項目の条件について協議する方針だが、イランにとって15項目の受け入れはハードルが高い。「経済制裁解除といった見返りでは飲めない」となった場合、戦闘開始になる恐れもある。
(3)ネタニヤフ氏の思惑がトランプとは異なる問題
・トランプ氏はアメリカ国内向けに「勝った」と言える交渉ができれば及第点。国内で「イスラエルの戦争なのにアメリカが戦わせられている」との不満が極限に達する前に、「核の脅威を取り除いた」と宣言できれば十分。
・一方、ネタニヤフ氏は「イラン脅威論」の旗手。イランの体制返還はもとより、イランの核施設をすべて破壊したうえで、イランが支援してきた周辺国の武装組織から攻撃される脅威を一掃するまで攻撃したいとの思惑がある。
筆者は、(1)から(3)の中で、(3)が一番のカギになると見ている。仮に、アメリカとイランとの間で戦闘終結に向けた環境が整ったとしても、トランプ氏がネタニヤフ氏を制御できなければ、中東での緊張感は続く。
また、もしイランが、ホルムズ海峡に、船舶と接触することで爆発する旧来型の機雷のほか、磁気や音響に反応して爆発する「係維触発機雷」なども敷設していれば、掃海作業は難航し、停戦が実現したとしても数ヵ月はタンカーなどの航行が脅かされることになる。
加えて言えば、イラン各地の地下深くに設置され、多層防空システムで守られている核物質を除去する作業にも莫大なコストと時間がかかる。
高市早苗首相が挑む「2次面接」
アメリカとイランの戦闘が続く中、3月19日(日本時間20日)に行われた日米首脳会談。筆者は、高市首相に80点から90点は付けたいと思っている。
高市首相による「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」という冒頭発言、そして、テレビ朝日の千々岩森生記者の質問に、トランプ氏が「真珠湾」を持ち出した部分は、今なお物議を醸しているものの、無難に終えたことだけで及第点と言っていい。
ただ、それは、就職試験で言えば、1次面接を突破したに過ぎない。
それも、アメリカのグラス駐日大使が、事前に高市首相や自民党幹部と会談して日本側の空気を探り、小泉進次郎防衛相もアメリカのへグセス国防長官と対話を重ね、「日本ができることとできないこと」を擦り合わせたというアシストがあってのことだ。
この先は、当面の石油調達と価格抑制策で真価が問われ、停戦が実現した場合は、トランプ氏から「これをやってくれ」と目に見える形での支援を求められることになる。
容赦なく降りかかってくる2次面接や3次面接、場合によっては欧州などとのグループディスカッションを乗り越えられるかどうかで、名宰相か、それとも単に見せ方が上手な明るいだけの宰相にすぎないのか、評価が定まってくるように思う。
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