末吉良丞選手(侍ジャパンの公式サイトより)

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 3月19日に開幕した第98回選抜高校野球。今大会はドラフト候補を擁する有力校が相次いで敗れ、けが人も出るなど想定外の展開が目立っている。序盤から波乱含みの試合が続き、戦力差だけでは結果を読み切れない難しさが浮き彫りとなっている。そんな中で行われた開幕カードは、昨年夏の甲子園優勝校である沖縄尚学と、16年ぶりの出場ながらかつては“東の横綱”と言われた帝京が対戦する注目カードとなった。【西尾典文/野球ライター】

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力負けでした

 試合前の評判では、甲子園優勝にも貢献し、昨年のU18侍ジャパンにも下級生で唯一選ばれるなどドラフト候補として注目度の高い末吉良丞(3年)を擁する沖縄尚学が有利との声が多かった。試合はその予想通り、末吉の好投で沖縄尚学が1対0とリードしたまま7回を終了。

末吉良丞選手(侍ジャパンの公式サイトより)

 しかし、帝京は8回裏、沖縄尚学の守備の乱れから満塁のチャンスを作ると、5番の蔦原悠太(3年)が末吉から逆転の2点タイムリーツーベースを放ち逆転に成功。その後も8番の鈴木優吾(2年)がリリーフした新垣有絃(3年)から2点タイムリーを放って突き放した。沖縄尚学は9回に1点差に迫るものの一歩及ばず、夏春連覇の夢は早々に散ることとなった。

 負け投手となった末吉は試合後、自身のピッチングをこう振り返っている。

「要所要所で三振がとれない、追い込んでから三振が取れなったところが敗因です。調子が万全どうこうではなく、これが今の力、力量だと思います。(8回の逆転タイムリーを打たれた場面は)相手の打者が真っすぐを狙っていると感じる中で、真っすぐで勝負して打たれたのは自分の責任です。インコースを狙って投げて、(キャッチャーが)構えたところに投げたんですけど、きれいにとらえられて力負けでした」

 改めてこの日の投球成績を見ると、7回2/3を投げて被安打5、4四死球で4失点ながら自責点は0、奪三振も9と内容は決して悪くない。失点は味方のエラーが絡んだものであり、先発投手としての役割は果たしたと言える。ただ終盤のリードを守り切れなかった点には、悔しさがにじんでいた。

ドラフト戦線の中心に浮上する可能性も

 投球面で昨年の夏と比べて特に気になったのがスライダーだ。夏は鋭く横に変化し、カウント球や勝負球として威力を発揮していたが、この日は変化の鋭さ、精度ともに物足りなかった。自らも末吉と同じサウスポーで、投手育成に定評のある沖縄尚学の比嘉公也監督も「スライダーが良い時はストライクゾーンからボールに変化して空振りが奪えるのですが、今日は狙ったところにほとんど決まらなかったです」と話している。終盤にとらえられた背景には、武器の一つであるスライダーが本調子ではなかった点が大きく影響したと言えそうだ。

 ただ、そんな末吉に対して視察したスカウト陣からは、夏より投球内容が良くなかったにもかかわらず、評価する声が聞かれた。

「秋は夏の疲れもあってかなり心配な状態でした。フォームのバランスも崩れていて、力を入れるとボールがどこにいくか分からない感じで、修正するまでに相当時間がかかるように見えました。ただ今日は多少ばらつきはありましたが、ストレートも力がありましたし、打者を押し込むことができていた。チェンジアップとフォークも去年まではあそこまでブレーキがなかったと思います。プロでは調子が良い時の方が少なく、悪い時にどこまで投げられるかが重要ですから、そういう点でも完成度が高いと思いますね」(セ・リーグ球団スカウト)

「調子が良くないと聞いていましたが、春先にこれだけ投げられれば十分でしょう。ストレートもコンスタントに145キロくらい出ていましたし、緩急の使い方も上手い。強いて言えば少し完成され過ぎていて、今後の“伸びしろ”がどうかという点は気になりますが、投球術とかマウンドさばきは教えてできるものではなく、その点はさすがだと思います。高校生の左投手としてはやはりトップクラスだと思います」(パ・リーグ球団スカウト)

 末吉は「甲子園という場所でポテンシャルを引き出してもらいました」とも話しており、秋の状態から復調してきた手応えは感じていたようだ。また変化球については冬の間にチェンジアップとカットボールを磨いてきたという。カットボールはこの日キャッチャーからサインが出なかったため使われなかったが、投球の幅を広げる工夫が好投に繋がったと言えるだろう。

 今後の進路については「現時点ではプロ一本で考えています」と語った末吉。春季大会、そして最後の夏でさらに状態を上げることができれば、ドラフト戦線の中心に浮上する可能性も十分にある。高校生左腕の中でもトップクラスの評価に変わりはない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部