(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

「老人が悪だくみの餌食に」――悲しいことに、そんな事件が頻発しています。なかには、認知症の疑いがある人に狙いを定めて近づいてくるケースも。本記事では、永峰英太郎氏の著書『人はこんなことで破産してしまうのか!』(三笠書房)より一部を抜粋・再編集し、認知症にともなう金銭リスクについて解説します。

温和な性格居酒屋主人、お金を貸したことを忘れるように

東京都中野区に住む高齢男性は、店舗兼住居に住み、長く居酒屋を運営してきた。彼の温和な性格を慕って、いつも多くの常連さんで賑わっていた。

それだけに、お客さんのツケ払いは日常的で、お金を貸すことも、決して珍しくはなかった。もちろん借りた側は、後日しっかり返済し、トラブルが生じたことは皆無。男性と常連さんの間には、深い信頼関係が構築されていた。

そんな関係性が崩れ始めたのは、2017年頃。知人に言われるまま、お金を渡したり、貸したりする機会が以前より多くなり、それらのお金が返ってこないケースが出てきたのだ。

じつはこの時期、男性には認知症の症状が出始めていた。認知症「近い体験の全体がすっぽり抜け落ちる」という症状の一つが出て、知人にお金を貸しても、その記憶が抜け落ち、「返して」と言うこともなくなっていた。

知人の多くは、自ら返済していたが、中には「まぁいいか」と、返済しない者も現れ始めたのだった。善人であっても、ちょっとしたことで人は変わっていくのだ。

ハイエナのように近づいてくる悪徳業者

そして、こうした異変は少しずつ周囲に知れ渡っていき、悪だくみをする者が出始める。

中でも多かったのが、男性に対して「あなたにお金を貸した。返してほしい」と嘘を言う者だった。この時期、認知症の症状はまだ初期の段階で、正常な状態に戻ることもあった。そして、自分の記憶が何かおかしいことに対する自覚もあった。

そのため、相手を疑うことなく「私が忘れているんだ」と思い込み、人に迷惑をかけたくない気持ちから、言われるままお金を渡していった。 

この男性の状態が知れ渡ると、悪徳業者も近づいてくる。認知症の疑いのある人」を集めた名簿を作り、高い値段で売りさばいている業者が存在するが、男性もこのリストに載ってしまう。ちなみに「振り込め詐欺」が行われる裏でも、こうした名簿が出回っているケースが多い。

すると、着物や布団などを扱う業者がセールスにやってきたり、注文していない商品が代金引換で配達されたりするようになった。しかし、男性はどんどんお金を払っていった。

どう見ても堅気とは思えない人が、「金を返さんか!」と怒鳴り込んでくることもあった。男性は、悪だくみをする人の格好の餌食となってしまったのだった。

全容を把握した息子がとった「最後の手段」

あまり実家に顔を出さない息子が、4年ぶりに帰郷すると、その家の荒れっぷりに唖然とする。居酒屋は営業しておらず、父親の認知症は悪化していた。

そして驚愕したのが、消費者金融からの督促状の多さだった。男性は「金を返せ」と言われ、消費者金融で無理やり、お金を借りさせられたのだった。

その額は、1000万円を超えていた。男性と仲が良かった知人が訪ねてきて、息子は初めてその全容を知った。とても自分で払える額ではなかった。

今は警察に被害を訴えているが、前途は多難だ。法律の相談窓口で現状を訴えたところ、子供が父親の成年後見人になることで、父親の自己破産が可能になるとのアドバイスを受けた。

こうして父親は、自分の知らないところで自己破産者となった。父親から金を奪った者は、楽しい人生を送っているのだろうか。

認知症患者は宝物」…カモにならないために

認知症患者に対して、周囲の人は「助けてあげよう」と思うものだが、「騙してやろう」という輩も一定数いる。

2023年に捕まった特殊詐欺グループの上層部は、詐欺の電話をかける「かけ子」に対して「認知症高齢者は宝物。宝物を探せ!」とはっぱをかけていたそうだ。それほどまでに、認知症患者はカモなのである。

こうした被害を防ぐには、子供や周囲の人がしっかりフォローしてあげることが一番大切だ。定期的に帰省したり、会話をしたりする中で、親の健康状態をつかんでおきたい。

もし認知症の気配を感じ取ったら、地域包括支援センターに相談するとともに、子供が親の財布の管理をするといったことも視野に入れよう。

永峰 英太郎