電池を3Dプリント。ドローンの翼が丸ごとバッテリーになる日も近い
デバイスのカタチはいかに決まるか。実はバッテリーの制約が大きいそうです。
電池というのは円柱か直方体、あとはコイン型あたりに相場は決まっていて、設計者はその形を前提にデバイスを作るしかなかった。新型iPhoneでもバッテリーの進化がよく注目されますよね。
でも、そもそも電池を好きな感じに「印刷できる」としたら? そんなテクノロジーが進んでいます。
電池を「積む」から「刷る」へ
アメリカのスタートアップMaterial Hybrid Manufacturing Inc.(以下、MATERIAL)が開発した技術は、バッテリーを3Dプリンターで直接「その場に」製造するものです。
リチウムイオン電池を構成するアノード(負極)、カソード(正極)、セパレーター、そしてケーシングまでを一体で印刷する独自プラットフォーム「HYBRID3D」を使うことで、金型も専用ラインも必要なく、製品の形状に沿ったバッテリーをその場で作れるというのです。
これがどういうことか? もう少し噛み砕いて説明を頑張ってみます。
従来の電池(円筒形や直方体型)は、いわば「既製服」です。サイズは決まっていて、それに合わせるのはデバイス側の仕事でした。
一方でHYBRID3Dは「オーダーメイド」に近いイメージ。体型に合わせてぴったりのサイズで無駄なく仕立てられます。電池の材料が流動性のあるインクのように振る舞い、製品の輪郭やくぼみ、曲面に沿って積層されていくのです。
同社は自社サイトで「ガソリンはタンクの形を選ばない。電気も同じであるべきだ」と表現しています。燃料は容器に流し込むもの。MATERIALはバッテリーをそういう存在として再定義しようとしているわけです。
バッテリーだけが取り残されている
左から創設者のMiles Dotson、Gabe Elias、Christopher Reyes
創業者のGabe Elias氏は、メルセデスAMG・ペトロナス・F1チームで7連覇を支えたエンジニアという来歴を持っています。
かつてF1マシンのドライバーズシートの周囲に電池を巻きつけるプロジェクトに取り組みましたが、「円筒形のセルを隙間に詰めて配線でつなぐ作業があまりに複雑で、プロジェクトごと断念した」と振り返っています。
その後、2023年にMATERIALを共同創業。そのとき彼が目指したのは「バッテリーを構造部品と同じように設計できる世界」でした。
「電子機器はどんどん小さく、複雑な形になっているのに、バッテリーだけが取り残されている」
電池が自由になれば、デザインも自由になる
現在、MATERIALは無人機メーカーのPerformance Drone Works(PDW)と提携し、アメリカ空軍から125万ドル(約19億円)の契約を受けて、実用化・技術の商業化を進めているところ。
概念実証段階のドローンでは、既存の48本の円筒形セルと同じスペースに「HYBRID3D」で電池材料を充填した結果、エネルギー密度が50%向上し、利用できる内部体積も35%増加することができました。
この結果が意味するところは「飛行距離を1.5倍に伸ばす」、あるいは「バッテリーサイズを小さくして積載量を増やしつつも同じ距離をカバーできる」ということ。ドローンの得意不得意をさらに際立たせる選択肢が生まれますね。
さらに将来の設計では、ドローンのフレームや翼そのものの内部に電池材料を充填することも想定されています。これはもはや「電池を搭載する」ではなく「翼が電池でもある」という状態です。
他にも、スマートグラスの細いアーム部分を電池にすればデザイン性は高められるでしょうし、軍用ヘルメットの形状にぴったり合う電池ならデッドスペースをなくせます。体の中に入れ込むような医療ウェアラブル機器をさらに小さくすることもできそう。
お披露目されたプリンター
HYBRID3Dは「ダイレクトインク印刷」と「熱溶解積層法(FDM)」を組み合わせたハイブリッド方式で、1層あたり100〜150ミクロンの精度で材料を積み上げます。対応する電池化学はNMC 811、NMC 111、LFP(リン酸鉄リチウム)、LTO(チタン酸リチウム)など複数。
初号プリンターは550mm×350mmのプリントベッドを持っています。金型不要・ソフトウェア変更だけで形状を変えられるため、プロトタイプから量産への移行コストを大幅に削減できるのもメリットです。
まさに次のプロダクトデザインの革命はバッテリーから起きる、ということでしょう。電池が「形を持たない素材」になるとき、デバイスのデザインはもっと自由になるのです。
Source: IEEE Spectrum , MATERIAL

