
記事のポイント ヴィクトリア・ベッカムは2024年に売上1億1270万ポンドを記録し、その4割超を
美容事業が占めて成長を押し上げた。 同ブランドはプーチなど大手の買収先候補とされ、
美容主導の展開が長期的成長や売却の可能性を支えている。
ファッション部門は依然として本人への依存が強く、ブランドとして創業者を超える象徴性を確立することが課題になっている。
ヴィクトリア・ベッカム(VB)にとって美容事業がなぜ成長をけん引しているのか。そしてそれが買収につながり得る理由を掘り下げる。売上26%増、4年連続の2ケタ成長
8月26日火曜日、ヴィクトリア・ベッカム・ホールディングス(Victoria Beckham Holdings Ltd.)は2024年の売上高が1億1270万ポンド(約146億円)と、2023年比で26%増加したと発表した。EBITDAは220万ポンド(約2.9億円)で22%増となり、2023年末に立ち上げたフレグランス事業を除外すれば47%増だった。これで同社は4年連続で2ケタ成長を達成した。この成功の大部分は2019年9月にローンチされたヴィクトリア・ベッカム・ビューティ(Victoria Beckham Beauty)に支えられている。データプラットフォームのラグジュアリンサイト(Luxurynsight)によると、2024年には美容事業が全体売上の40〜45%を占め、2022年の約20%から大きく伸びた。ドレスやレザーグッズ、デニムが中心のファッション事業は堅調ながらも小幅な成長にとどまり、売上全体の26%増を押し上げたのは美容だった。同社は事業別売上を公表していない。アイライナーが「ヒーロー商品」に
ヒット商品のサテンカジャルライナー。豊富なカラーバリエーションも魅力だ
2019年11月に発売されたサテンカジャルライナー(Satin Kajal Liner)は、30秒に1本売れる代表的なヒット商品となった。その勢いに乗り、2024年にはダブルクレンザーや、幹細胞生物学と再生医療の医師オーガスティナス・バーダー氏と共同開発したコンシーラーペンを発売。フレグランス部門も2023年のデビュー作ポルトフィーノ’97(Portofino ’97)に続き、21:50 レヴェリー(21:50 Rêverie)を投入した。さらに年内にはファンデーションの発売を予定しており、2025年末までにベースメイクが売上の20%超を占める見込みだ。流通拡大も進んでおり、美容ラインは新たに130店舗を追加し、50カ国200店舗に拡大する計画だ。ラグジュアリンサイトの創業者兼CEOジョナサン・シボニ氏は、これを「意図的に段階的な展開」と呼ぶ。「60%成長を追い求めて燃え尽きるリスクを冒していない。代わりに年間15〜20%で着実に積み上げ、持続的な価値を創出している。アイライナーのようなヒーローがあれば、2000万ポンド(約26億円)から5000万ポンド(約65億円)にスケールできる。ファッション単体ではなかなか実現できないことだ」。「美容が長期成長のカギ」
シボニ氏は続ける。「ビジネス的に、美容を先行させるのは理にかなっている。ファッションは利益性を拡大するのが難しいが、美容はマージンが高く、リピート購入も早く、安定性がある。長期的な成長を目指すにせよ、将来的に売却を考えるにせよ、美容は賢明な道だ」。財務アドバイザリー会社セージ・グループ(The Sage Group)のマリッサ・レポル氏も同意する。「ラグジュアリービューティは、販売量、利益率、リピート購入のすべてにおいてファッションを上回る傾向がある。アイライナーやフレグランスの販売本数といった指標こそが、美容が成長をけん引しているもっとも明確なシグナルになる」。2023年6月、ケリング(Kering)は香水ブランド「クリード(Creed)」を35億ユーロ(約3.8兆円)で買収した。260年の歴史を持つ同ブランドは、一部の中堅ファッションブランドよりも高い評価額を獲得し、美容の収益性とブランド価値の高さを示した。シボニ氏は言う。「ファッション部門を持つ美容ブランドを売るほうが、逆よりもはるかに投資家にとって安心できる」。スペースNK進出とプーチの買収候補説
ヴィクトリア・ベッカム・ビューティは、2025年7月に英スペースNKの20店舗およびSpaceNK.comで販売を開始し、D2Cから流通を拡大した。同月、アルタビューティ(Ulta Beauty)がスペースNKを3億ポンド(約390〜408億円)超で買収したことも話題となった。シボニ氏は、こうした流通網とブランド規律を考えると、ヴィクトリア・ベッカムはプーチ(Puig)の買収ターゲットになり得ると指摘する。同社は2020年にシャーロット・ティルブリー(Charlotte Tilbury)を約13億ポンド(約1600億円)で、2022年にバイレード(Byredo)を約10億ユーロ(約1兆1000万円)で買収するなど、ファッションと美容のハイブリッドブランドに投資してきた。一方で、美容が加速するなかでもファッションは依然として会社の基盤だ。2008年に立ち上げられたファッションラインは、2024年にはデニム、ハンドバッグ、クレープドレスの売上が伸び、キャサリン妃やミシェル・オバマ氏が着用したことで注目を集めた。ただし、その長期的な役割はまだ不透明だ。MRMアドバイザリーのMRMアドバイザリー創業者でバーバリー(Burberry)元バイスプレジデントのメリッサ・ロス・メンデス氏はこう語る。「服は美しく作られているが、ラインが最終的に何を象徴するのかが問われている。ラグジュアリーハウスは、創業者を超えても生き残るブランドコード(象徴的なデザインや価値観)を持つものだ。ファッションはまだヴィクトリア本人に強く結びついており、それが美容には適しても、ファッションでは永続性を制限してしまう」。コレクションの改善と新カテゴリの可能性
ラグジュアリーコンサルタントであり、ロンドン発高級セレクトショップのブラウンズ(Browns)元ファッションディレクター、エリン・マレーニー氏は、直近のプレフォールとフォールコレクションが以前より統一感を増し、カラーストーリーや価格設定も改善されたと評価する。ドレスは依然としてベストセラーであり、ニット、デニム、ハンドバッグが成長カテゴリーとなっているという。「ベッカムのファンは彼女のライフスタイルを共有したいと望んでいる。ウェルネスやアクティブウェアは自然と次の拡張領域になり得る」。「美容は補完であり、代替になってはいけない」。セージ・グループのレポル氏は警鐘を鳴らす。「美容がファッションの代替になってしまうとリスクがある。投資家の長期的な信頼は、ひとつのカテゴリーに依存するのでなく、スケール・利益性・顧客エンゲージメントを複数の領域で示すことにかかっている」。PJVアドバイザリーで元資生堂幹部ピエール・ヴォアール氏はこうまとめる。「ヴィクトリア・ベッカムにとってファッションでの利益確保は長年の課題だった。美容はマージンが高く、D2C主導のモデルによって財務を下支えしている」。同氏はさらにこう付け加える。「注目すべきは、VBの展開が非常に慎重であることだ。語り口は典型的なセレブリティブランドというより、シャネルやディオール、トムフォードに近い」。プーチの2024年フレグランス&ファッション部門の売上は約35億4000万ユーロ(約3兆7500億円)で全体の73%を占めた。アナリストによれば、そのうちファッションはわずか10%程度に過ぎず、大部分をフレグランスが占めている。これはヴィクトリア・ベッカムが今まさに歩んでいる道と重なる。シボニ氏はこう語る。「時を経て、ブランドは個人からペルソナへと進化し、文化的存在になる。イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)がサンローランに、パコ・ラバンヌ(Paco Rabanne)がラバンヌに改名したのもその流れだ。ヴィクトリア・ベッカムにとっても、ブランドが創業者を超えられるかが持続性の課題になる」。ドルチェ&ガッバーナはその一例だ。数十年のライセンスを経て2022年に美容を内製化し、2024年には6億ユーロ(約660億円)で全体売上の35%を占めるまでに成長させた。一方でバーバリーは2013年に独自部門を立ち上げたが、2017年にはコティへのライセンスに戻している。美容事業の自社運営は変革的である一方、資源を大きく消耗しリスクも伴う。独立成長の希少性と今後の選択肢
ラグジュアリー需要が軟化するなかで、ベッカムの独立した成長は異例だ。セレブリティ主導のブランドが1億ポンド(約130億円)規模に達するのはまれであり、ファッションと美容の両立をコングロマリットなしで実現している例はさらに少ない。今後も独立を続けるのか、あるいは買収されるのかは未知数だが、このモデルが回復力を持つことは証明された。美容がブランドに安定の土台を与えている一方で、課題はファッションをその成功の付属物以上の存在にすることだ。[原文:Luxury Briefing: Victoria Beckham’s beauty-led growth sets the stage for longevity, strategic options]Zofia Zwieglinska(翻訳・編集:戸田美子)