陸上界に現れた超新星・16歳清水空跳とは何者か 「背の順は1番前か2番」身長164cmで10秒00の理由、同僚もライバルも衝撃の爆発力
陸上・インターハイ 男子100&200メートル/星稜・清水空跳(2年)
ホットスタッフフィールド広島で7月25日から5日間行われた陸上インターハイ。熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、困難な環境の中で競技を続けてきた選手などさまざまなストーリーを持つ学生を取り上げる。今回は男子100メートルで10秒00(追い風1.7メートル)の日本高校新記録を樹立し、200メートルとの2冠を達成した星稜の清水空跳(2年)。桐生祥秀の従来記録(10秒01)を12年ぶりに塗り替え、一躍、注目の的となった16歳はどんなスプリンターなのか。これまでの競技人生を辿り、身長164センチながら生み出す爆発力の要因に迫った。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)
弱冠16歳の小さなスプリンターが日本、そして世界に大きな衝撃を与えた。
灼熱のホットスタッフフィールド広島。タイムレース形式となった男子100メートル決勝3組。全体1番目のリアクションタイムで抜群のスタートを切った清水は、爽やかなセンターパートヘアを風になびかせ、ぐんぐん加速した。50メートル付近ですでに他の選手を置き去りにして圧勝。電光掲示板に「10.00」が表示されると、会場から起こったどよめきは、間もなく歓喜に変わった。西日を浴びた16歳の笑顔がトラックに映えた。
「自分でも衝撃のタイム。10秒1台を飛び越えて0台が出せて嬉しい。最終組で追い込まれる状況ってものがあってのこのタイムだと思う。伝説を作ったのかなという気がします」。1000分の1秒まで発表されたタイムは「9秒995」。200メートルでは追い風参考(2.7メートル)ながら、サニブラウン・ハキームが持つ日本高校記録まで0秒05に迫る20秒39で目標の2冠を達成。4×100メートルリレーも含め、計6本のレースを走り切った。
真夏の広島で“時の人”となった。インスタグラムのフォロワーは大会前から一気に1万人増え、2.3万人に。100メートル10秒00は日本歴代5位とともにU18世界記録とあって、海外メディアでも「Sorato Shimizu」の名前が広がった。そんな陸上界に現れた超新星はどんな人生を歩んできたのか――。
石川県金沢市出身。父・正雄さんは走り高跳びで国体4位の実績を持ち、絵美さんも100メートル障害で日本選手権や国体に出場。「足偏の漢字をつけたかった」と話す絵美さんの意見に、正雄さんが宙を舞うハイジャンプ選手だった経歴が合わさり「空跳(そらと)」と名付けられた。「空に向かって自分の足で跳ぶ」。込められたのは「羽ばたいてほしい」という思い。400メートル障害で全国大会に出場した姉・優奈さんを含め、陸上一家で育った。
小学4年時に地元のクラブチームに所属して本格的に競技開始。小学生時代は水泳や体操競技も習い、スポーツ漬けの日々を過ごした。近隣の中学には陸上競技部がなかったため、隣町の長田中に進学。3年時には200メートルで全中優勝を果たし、陸上界次世代の逸材として名を馳せた。
高校でも飛躍は止まらない。優奈さんと同じく、自宅から通える星稜(石川)に進学した。1年時のインターハイでいきなり100メートル10秒26で準優勝。2年生となった今年7月上旬の日本選手権では桐生が持っていた高2記録10秒19に並び、高校生で唯一準決勝に進出。順調に階段を上がっていったが、インターハイで覚醒し、陸上の枠を飛び越えて一気に全国区になった。
身長164センチと小柄も「この体だからこそできる動きがある」
身長164センチと短距離選手としては小柄。正雄さんは「早生まれだし、背の順は1番前かその後ろ」と明かす。にもかかわらず、異次元の爆発力を生み出せるのはなぜか。
本人が分析するのは、上半身と下半身の連動性の高さ。それぞれを力任せに動かすのではなく、「身体の中心の股関節周りから前に突き飛ばすイメージ」を体現することで、上半身と下半身がついてきて推進力が高まるという。星稜高にある「骨盤ドリル」や肩甲骨を動かすメニューを取り入れて強化した。
今大会、共に4×100メートルリレーに出場し、3走を務めた同級生の菊田楓(2年)はその凄さを間近で感じる一人。「加速に乗るまでが速すぎる。伸びもすごいし、全部速い」。100メートル予選で隣のレーンを走った杉山輝(愛産大三河3年)も「最初(スタート)からこんなに違うんだと。自分も同じ身長なのに何が違うんだろう」と驚く。小柄でも世界と渡り合える武器がある。
日本人初の桐生を筆頭に男子100メートルで9秒台に突入したのは、日本記録保持者の山縣亮太、サニブラウン、小池祐貴の4人。体一つで戦う陸上競技は体格も大きく影響する。日本の9秒台スプリンターには170センチ以下の選手はいない。最も大きいサニブラウンで190センチ、最も小さい小池ですら173センチ。世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)は196センチと、世界になると大男ばかりだ。
それだけに清水の身長が際立つが、本人は「大きい方が有利だけど、この体だからこそできる動きがある。自分なりにやっていく」と頼もしい。参考にしている選手を問われると「いないです。自分は自分で」ときっぱり。自分らしく、自分の道を歩んでいく覚悟だ。爆発力を発揮するその走りは、未来のスプリンターの希望にもなる。
9月に開催される東京世界陸上の参加標準記録も突破し、出場も現実味を帯びてきた。「観客として行こうかなと思っていた。自分でも受け止め切れてはいない」と驚くが、「遠いはずだった世界陸上が、目の前にあるのかな」と大舞台への実感も沸いてきた。「高校での目標は9秒台を出すこと。そこに向かってこれからも走り続けたい」。石川育ちのスプリンターが再び世界を驚かせる日は遠くない。
(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)
