以前は「1人1箱」などと制限されていたが今では“購入制限ナシ”の店も多い

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 2月頃から続いた「マスク高騰」にもやっと終わりが見えてきた。なぜだかいち早くマスクが販売され始めた東京・新大久保の雑貨店や飲食店でも「値崩れ」しており、店によっては50枚入りの箱が1000円台で売られていることもある。すったもんだの末に配布が決まった「アベノマスク」に至っては、もはや用無しとの声も聞こえてくるほど。

 国民にとっては「よかったよかった」と安心するばかりだが、このマスク騒動で、思わぬ形で株を落としてしまった人たちがいる。ネット上で猛烈に嫌われる「転売ヤー」たちではない、“善意”の人々だ。

◆“近隣住民のために”とマスクを販売したら…

「儲けるなんてとんでもないです。需要があると思ったから、近くにお住いの方にという気持ちでチラシを撒いたんです。売価は50枚で3980円。通常よりは高いですが、仕入れ値は3500円以上。400円も儲けやがってと言われたら……そう思う人もいるかもしれませんが」

 こう話すのは、千葉県市川市で飲食店を営む佐藤孝之さん(43歳・仮名)。

 減り続ける客、休業・時短営業要請によって困り果てていた4月中頃、普段お世話になっている業務用食品卸会社経由で「マスク」が手に入ることを聞きつけた。

「店の不織布マスクは底をついていましたし、従業員のために購入しようとしました。すると、中国ルートでまとまった数が入ると言われて。ネット上でマスクが5000円とか1万円していたのを見てたので、3500円は安いと思いましたし、安く販売できれば“転売”とは言われないと思ったんです」(佐藤さん、以下同)

 政府は新型コロナウイルス感染拡大下でのマスクの転売を禁止する政令改正を閣議決定した。だが、卸業者から買った商品を小売店が販売することまでは規制されていない。

 そんななか、高く卸されたと思われる高額のマスクを店頭で販売したことで、一部のドラッグストアがSNS上で吊し上げられる事例も続出。佐藤さんはそうした現実も見ていた。

 この価格なら、必要としている人に行き渡るかもしれない、佐藤さんはそう考えた。しかし……。

「チラシを撒いた後、店にかかってきた電話の9割がクレームでした。転売野郎、もうお前の店には絶対行かない、と。店頭でも販売していたのですが、結局これをSNSにアップされて、若い人が写真を撮っていったりするんです。ランチ営業している時には、マスク転売してましたよね、とカメラ片手の若者が冷やかしに来ます。もうすっかり転売屋のレッテルを貼られています」

 販売すればするほど悪評が付きまとい、100箱ほど仕入れたマスクは7割が不良在庫になったというから、もはや生活に支障をきたす事態だ。

◆客より先にテレビの取材クルーがきた

 東京都内の菓子店経営・周防敏明さん(仮名・30代)も、全く同じような目にあった一人。

「ゴールデンウィーク前ですよ、電話があって『マスクを卸す』と言われたの。全く知らない会社だったけど、すぐにサンプルを営業の方が持ってきて……」(周防さん、以下同)

 営業の男は周防さんの前にマスクを差し出し、「1箱50枚4000円」で卸すと言ってきた。マスクは確かに貴重品だが、やはり高いと感じて躊躇していると、今は5000円でも安いと、ネット上のショッピングサイトを見せつけられたという。

「4000円で仕入れて500円でも儲けられたらいいでしょ? コロナでお店にお客も来ないしね……」

 資金繰りは苦しかったが、「お試しに」と20箱を、若干値引きしてもらい7万8000円で購入。翌日には届いたマスクを店頭に並べて売り出した。すると……。

「客より先に、テレビ局が取材に来ました。どこから買ったのか、買い占めていたのかとしつこく聞かれて、店頭を勝手に映されて放送されました。商店街や同業仲間から『テレビを見たぞ』とか『転売してるのか』と問い合わせもたくさんきて参りました。ほんの少し儲けられればいいと思ったのは事実ですが、卸業者から買ったものを販売するのは転売でもないし、法外な儲けを狙ってもいない。結局、マスクはお客さんに配ったりして儲けはほぼナシです」

 そもそもマスクの一大産地は中国と言われており、コロナ騒動の影響で輸出をほぼストップさせていた。3月の終わり頃から中国国内にはマスクが余りまくっていたという話もあり、現在は輸出解禁とともに大量のマスクが日本に入ってきたのである。

 そのわずかなタイムラグの間に、客や近隣住人のため、お世話になっている人のためにと割高なマスクをつかまされた人々は、小銭だけでなく、信用も失ってしまったのだから、あまりに気の毒というほかない。<取材・文/森原ドンタコス>