「ゾンビたばこ」使用に“爆弾証言” 「羽月隆太郎」と「広島カープ」が失ったもの 「新井監督」が信頼した“有望選手”はなぜ転落したのか
いわゆる「ゾンビたばこ」を使用した容疑で逮捕、起訴されていた元広島カープの羽月隆太郎内野手(26)の公判が広島地裁で開かれ、有罪判決が下された。法廷で、「広島の他の選手も使っていた」との趣旨の発言をし、カープがそれを受けて全選手への調査を始めるなど、一連の羽月の言動によってカープ、そして球界に激震が走っているのは周知の通りである。その羽月とは、一体、どのような選手で、どのように成長を遂げ、球団や新井監督からどれだけ期待と信頼を集めていたのか。カープ取材歴が長いスポーツライターの赤坂英一氏が、羽月本人、そして広島カープが失ったものの大きさについて記す。
【赤坂英一/スポーツライター】
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【写真を見る】お目目をくりくりと輝かせて… 元広島・羽月隆太郎の無垢な“少年時代”
どれほどの選手に成長したか
元広島東洋カープの内野手・羽月隆太郎(26)が「ゾンビたばこ」に手を染めず、順調にキャリアを積み重ねていれば、どれほどの選手に成長していただろう。

昨季の首位打者・小園海斗とともに内野の一角を担う主力になった可能性もある、と想像するファンは少なくないはずだ。自分以外にもゾンビたばこを吸っているカープの選手がいたと法廷で証言し、広島球団のみならず、球界全体に衝撃をもたらした今もなお。
不眠解消のために
羽月は1月、この通称「ゾンビたばこ」、即ち指定薬物「エトミデート」を使用したとして医薬品医療機器法違反の罪で逮捕され、2月に起訴された。これを受けて、広島球団も羽月との契約を解除。今月15日、羽月が初公判で罪を認めたため即日結審し、拘禁刑1年、執行猶予3年の判決が下された。
16日付中国新聞によると、羽月は被告人質問で、昨年4月頃の東京遠征の際、先輩に紹介された知人と行ったバーで初めてエトミデートを吸引した、と告白。当時は不眠症に悩んでおり、よく眠れるようになってやめられなくなったという。
ただ、不眠解消のためなら、睡眠導入剤を使用している選手や監督もいる。ゾンビたばこでなければならなかった理由としては説得力が薄い。
法廷での爆弾発言
この法廷で、羽月の口から、広島球団はもちろん球界全体をも震撼させる爆弾発言が飛び出した。
「周囲にも同じように(エトミデートを)使っている選手がいたので、大丈夫だと思いました」
羽月は16日、本人のものと思われるXで、近日中に「今回の件について自分の言葉でしっかりお話しさせていただく場を設ける」と予告した。プロフィールに掲載された走塁中の写真からは、ヘルメットとユニフォームのカープのマークとロゴが消されている。
1万6000人超のフォロワーがいる一方、自身がフォローしているのは、「ゾンビたばこ」を吸っていたカープ選手の存在を報じた週刊文春とFRIDAYのみ。今後の羽月の発言次第では、広島球団と泥仕合に発展しそうな危うい雰囲気を感じる。
人一倍野球に真面目
かつての羽月を知っているファンや関係者なら、彼がこんなふうに内幕を暴露する不満分子になるとは思わなかったはずだ。それほど、赤いユニフォームを着ていた頃の羽月は、明るく、人懐こく、人気者で、野球に人一倍真面目に取り組んでいる選手だった。
一番のセールスポイントは、2023年から昨年まで、代走のスペシャリストとして3年連続2桁の盗塁を記録した俊足。果敢なスタートの技術をどのように編み出したのか。羽月はよくこう強調していた。
「準備です。僕は常にしっかりと準備をしています。誰にも負けない最高の準備をしていますから」
プロ野球選手として最も小柄な部類に属する168cm、70kg。神村学園から広島入りした2018年ドラフト会議で指名を受けたのは最終順位の7位だった。同期のドラ1は同い年で報徳学園高校から4球団競合の末に広島入りした小園海斗。
険しい前途が予想される中、女手一つで兄と羽月を育て上げた母親は、事あるごとに電話で助言を繰り返していたという。「いつも丁寧なプレーを心がけろ」「試合中にガムをかむんじゃない」と。
ミーティングの前に芸を披露
自分の最大の武器、俊足で盗塁数を稼ぐには、ただ闇雲に走るだけでは覚束ない。相手バッテリーのクセと傾向を入念に研究し、果敢に隙を突く周到さが必要だ。それが羽月の言う「準備」だった。
デビューは早かった。2年目の2020年、打率3割を超える二軍戦の好成績を買われ、8月7日に一軍初昇格すると、その日の阪神戦でいきなり「2番・セカンド」で初スタメン初出場。ちょうど夏休み中、しかも本拠地マツダスタジアムの試合だったことも、抜てきした当時の佐々岡真司監督や広島球団の期待の大きさを物語る。
羽月はこの試合でセーフティスクイズを成功させ、初安打初打点をマーク。2点タイムリー3塁打を打って初長打も記録し、計3打点をあげた。さらには試合後、先輩の松山竜平と並んでヒーローインタビューのお立ち台に上がり、緊張のあまりつっかえながらも、スタンドから温かい拍手を浴びた。
野球以外のセールスポイントはお笑い芸人や女性タレントのモノマネに野球選手の形態模写。一軍初昇格の日も野手ミーティングの前に得意な芸を披露し、先輩たちの笑いを誘ったという。まだ20歳の若者だったから、早くチームに溶け込もうと必死だったに違いない。
コックローチ・ベースボール
一躍、広島の人気者になった羽月が、他球団のファンにも知られるようになったのは、2023年10月14日クライマックスシリーズ(CS)、DeNAを本拠地に迎え撃ったファーストステージ第1戦だった。
1−2と1点ビハインドの8回、無死から代走で出場した羽月は、送りバントで二進。1死二塁とすると、エース東克樹が次打者・菊池涼介に初球を投じるや、物の見事に三盗を決めた。スタンドが大きくどよめいた直後、菊池がスクイズバントで羽月が同点のホームイン。ここからゲームの流れが一気にカープに傾き、9回のサヨナラ勝ちに結びついたのだ。
羽月の三盗はこの年のシーズンオフ、地元メディア各社の振り返り企画で取り上げられた。NHKのインタビューに、羽月は胸を張って答えている。
「あの場面では、初球の前に二塁にけん制してくることは絶対にないと思っていました。あの(東、山本祐大捕手)バッテリーは、代走の選手が送りバントで二塁へ進んだら、初球の前にけん制をしたことが一度もないんです。僕が見た映像では一度もありませんでしたから」
こういうことは“企業秘密”として口にしないものなのに、あっけらかんと打ち明けているところが羽月らしい。モノマネの巧みな人間は観察眼に優れている。芸人やタレントのモノマネが得意な羽月は、相手バッテリーのクセと傾向もしっかり観察していたのだ。
投手を攪乱し翻弄する羽月の走塁を、当時DeNAに在籍していたトレバー・バウアーは、自身のYouTubeチャンネルで「コックローチ・ベースボール」と揶揄した。意味するところは、ゴキブリのようにチョロチョロ動き回る目障りな選手。サイ・ヤング賞を獲得したほどの投手にこんな嫌味な悪口を言わしめたのも羽月くらいだろう。
ちなみに、2年後の2025年には、やはりDeNA・東が登板した試合で、阪神・近本光司も二塁から初球で三盗を決め、これが決勝点に結びついた。近本と阪神首脳陣は詳しい言及を避けたが、2年前の羽月の三盗が大きなヒントになった可能性はある。
羽月は単なる代走要員ではなく、ムードメーカーであり、「持っている」選手だった。彼の盗塁はただ一つ先の塁を盗るだけではなく、チーム全体を勢いに乗せる効果があった。加えて、ベンチ裏で得意の芸を披露すれば、チームが盛り上がった。そんな羽月の存在価値を、新井貴浩監督も認めていたはずだ。
新井監督の期待
新井監督が羽月に対する期待と信頼度の高さを示したのが、2024年7月4日、本拠地で行われた阪神との首位攻防戦である。
3−3の同点で迎えた8回、小園が右前打で出塁すると、新井監督はすかさず羽月を代走に送った。
チーム2位の7盗塁を記録している小園に代えての起用。見ていて少々首を捻りたくなった矢先、羽月は4度のけん制にも動じず、1死から初球に二盗。阪神のリクエストにもセーフ判定は覆らず、四球を挟んで次打者の初球で三盗を決めた。経験豊富な選手でもためらいがちな早いカウントでも、羽月は迷うことなくスタートを切り、成功させた。
ここからカープに流れが傾き、2死満塁から初球スライダーが暴投になると、羽月が猛然と本塁に滑り込む。計3度のヘッドスライディングで勝ち越し点をもぎ取った。これで勝ち越したカープはこの回、一挙4得点を挙げて阪神を突き放した。
試合終了後、われわれ報道陣が待つベンチ裏の廊下に出てきた羽月のユニフォームは泥だらけ。右胸のあたりが破れ、アンダーシャツがのぞいていた。羽月がここでも強調していたのは、やはり「準備」である。
「(阪神・捕手)梅野(隆太郎)さんがやった(投球を弾いた)のを見て、スタートを切れた。最高の準備ができていたから、体が勝手に動いたんです」
「最高の準備」をしていれば、リスクの高い状況であっても、足も体も勝手に動く。この頃の羽月はいわゆる「ゾーン」に入っていた。
そんな羽月を、新井監督も手放しで絶賛している。
「あそこ(8回)は(先発投手の)森下(暢仁)に勝ちを付けてあげたいので、思い切って羽月に勝負をかけました。よく二盗、三盗と、勇気を持ってスタートを切ってくれた。素晴らしい走塁だった。
羽月にはすごい成長を感じますね。練習での取り組む姿勢、打撃もそうだけど、練習に対する取り組み方も去年とはガラッと変わった。こっちはそういうところを見ていますから」
熱っぽくそう語る新井監督の口調からは、羽月との間に揺るぎない絆が築かれつつあるように感じられた。あの勢いのまま、羽月が今もカープにいれば、Bクラスに低迷する中でどれだけチームを救う走塁を見せてくれただろう。
「関係者」の通報
羽月自身の法廷証言によれば、彼は2025年の開幕直後からゾンビたばこを常用するようになった。
羽月はこの年、自己最多の74試合に出場、31安打、17盗塁、打率2割9分5厘、出塁率3割7分3厘とキャリアハイの結果を残した。この好成績が、シーズン中から使っていたというゾンビたばことどう関係しているかはわからない。
羽月の逮捕は、昨年末の「関係者」の通報がきっかけだった。その裏には、使用をやめるよう何度も説得していた家族の意向もあったという。入団時から助言を送ってきた母親の言葉も、常習性のある指定薬物にだけは通じなかったのか。
すでにカープとの契約を解除され、判決が下り、社会的制裁も受けている以上、これから羽月が「自分の言葉」で何を語ろうと自由だ。
ただ、羽月がゲームを動かし、カープに勝利をもたらした鮮やかな盗塁は、カープファンの記憶の中に残っている。羽月を知らなかったファンも、ネットを検索すれば様々な動画を見ることができる。
まだ初犯で26歳。選手時代の輝きに自ら泥を塗ることなく、新たな人生を歩んでほしい。誰よりも心を痛めているだろう母親を、これ以上悲しませないためにも。
赤坂英一(あかさか・えいいち)
1963年、広島県出身。法政大卒。『失われた甲子園』(講談社)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。他の著書に『すごい!広島カープ』『2番打者論』『プロ野球コンバート論』(すべてPHP研究所)など。日本文藝家協会会員。
デイリー新潮編集部
