ウエストランド井口浩之さん「悪口を悪く言うな!」インタビュー 本を読むのは無駄!あえて無駄な時間を

「ウエストランド」井口浩之さん=北原千恵美撮影
誰もが心の奥で感じるような小さな違和感を痛快な毒舌漫才として放つ、お笑い芸人「ウエストランド」井口浩之さんの初の単著『悪口を悪く言うな!』(Gakken)がオーディオブックになりました。「愚痴を言う」ことが特技のひとつでもある井口さんの本領が発揮された単著のことや、朗読のこと、お笑いのことや普段の読書ライフについて聞きました。(文:かわむらあみり 写真:北原千恵美)
――2025年12月18日に発売された初単著『悪口を悪く言うな!』(Gakken)は、日常で抱く違和感や気づきが面白おかしく綴られています。共感したり意外性があったり、井口さんのトークのようにテンポよく読めますが、これまでに発言してきた“愚痴”が厳選して収録されたそうですね。
そうです。僕の口調だからすぐ頭に入ってくる、と言ってくれる方もいたので、ありがたいですね。
――今回、オーディオブックではご著書を朗読されたそうですが、いかがでしたか?
まえがきしか朗読していないのですが、書いたものにとらわれず、僕自身の自由な言葉で語りかけていいという感じだったので、すぐ収録が終わりました(笑)。
――相方の河本太さんは単著を読まれて何かおっしゃっていましたか?
ないです。僕が読んでいないですから、相方はもっと読んでいないはず!
――井口さんといえば毒舌のイメージですが、今では小学生から年配の方まで世代関係なくいろいろな方に人気がありますね。
お子さんや大人の方まで知ってもらえているのはありがたいです。30代から60代の働いている方が、一番応援してくださっている印象ですね。でも10代や20代の女子は1人もいない。「そんな人たちに理解されてたまるか!」なんて気持ちは一切なく、女子大生からも人気者になりたいけど、まったく興味がないでしょうね。
――単著にあるエピソードのひとつ「毎回同じことに悩み続けるのは、やめませんか?」では、女性誌から漫才のネタ探しをすることがときどきあるとのことでした。
今は恋愛系のネタは減りましたが、若手の頃は「モテない」みたいなネタをよくやっていて、女性誌をときどき見ていました。今年43歳なのですが、40歳を過ぎたらそれはモテないよという話で、僕自身モテたい気持ちがだんだんなくなってきて、ネタにしても気が乗らなくて。今さらモテる、モテない、どうこうと言っても気持ち悪いですよね。ネタを作るにしても、そういう変化はあります。ただ、ムカつく女性をネットで調べることはあって。一度調べると、携帯電話のほうで覚えますよね、アルゴリズムでしたか。だから、携帯には僕は女の人だと思われていて、コスメが紹介されることはありますね。
ファンにビビってる場合じゃないよと――ほかのエピソード「自称お笑い好きへ告ぐ」では、お笑いを知ったかぶる人へ釘を刺していますが、井口さんのお笑いへの深い愛も感じます。
たくさんの人に求められたらいいですけどね。SNSが盛んな今の時代では、昔から応援していたとアピールしたり、いろいろとコメントしたり、うるせえやつも出てきたりするので。そういう相手には「うるせえ!」って言ったほうがいいんです。僕は全芸能人のファンを教育すべきだと思っているので、ファンにビビってる場合じゃないよと。僕はサインにしても、しちゃダメなとこではしませんし。前に空港で受付しようと並んでいるときに「サインしてください」と言われたことがあって、一喝してやりましたけどね。
――井口さんとお話ししていると、なぜか怒られたくなる気持ちになるのかもしれません。
それは助かっているんですよね。前に居酒屋で騒ぐうぜえやつがいて、「うるせえな」と言ってもなぜか「おーっ!」と感動されて。それってラッキーだなと。例えば、明るく「こんにちはー!」と言っている錦鯉の長谷川雅紀さんが「うるせえ!」と言ったら怖いですよね? でも、僕の場合は本当に怒っていても、ネタだと思ってくれて助かるということはあります。だから、ある程度、何を言っても大丈夫なんですよね。
――井口さんの独自の着眼点は、芸人になられてからか、幼い頃からなのか、どちらでしょうか?
前からですね。中学生のときの身体測定では、身長を測りたい人が保健室に行って測ればいいだけなのに、「なんで測らなきゃいけないんだ!」と言っていました。「僕がちっちゃいのがバレていじめられたらどうするんだ!」と拒否していたので、その頃から変わっていないです。
――では、漫才のためにそうしているのではなく、自然体でいらっしゃるんですね。
はい。「大変だね、いろいろ言わされて」とときどき言われることはあるのですが、無理に言わされていることはなく、本心を言っているだけなので、何のストレスもないです。世の中みんな鬱屈した気持ちを抱えていて、インターネット上で好き勝手に言っていますが、それなら自分でYouTubeとかで発信すればいいのにと思いますね。
――そうして思ったことを発言してきて、今回の単著には十数年前のことから最近のことまでの井口さんの言葉が収められました。ウエストランドはM-1王者となって、お笑い好きの方だけではなく、広く知られるようになりましたね。
結果的に優勝させてもらいましたが、あのネタが出来た段階で、話題になるだろうなとは思っていて。その2年前に決勝に初めて行かせてもらって、そこからテレビのお仕事も少しずつ増えてきていたので、さらにインパクトが残ればいいなぐらいにしか思っていなかったのですが、今となっては優勝して良かったと思います。
――コンプライアンスに厳しい令和時代ですが、愚痴や悪口を織り交ぜた漫才は時代と真逆のようでいて、実は誰かの気持ちを代弁してくれている感覚もあり、支持されているように感じます。
お笑いは“誰も傷つけない笑い”がいいと一時期言われることがありましたが、そうなればなるほど、僕らはカウンターのような立場になってくるので、ウケるだろうなと。僕と同じようなことを、いい人が言うと炎上してかわいそうだと思います。今となっては、僕のほうがもっとひどいことを言っても、もう誰も何にも僕の話なんて聞いていないこともあって、反応がなくなりました。
――今のお笑いシーンに思うことはありますか?
やっぱりテレビが好きでずっと観てきて、テレビに出たくて芸人になったので、テレビにずっと出続けたいですし、もっとお笑いが盛り上がってくれればいいですね。ただ、今のテレビはギャラが安いので、そこだけは昔の人が羨ましい。僕らの世代はテレビに憧れて育ってきたのに、いざテレビに出られるようになったら、もうお金がない。もっと下の世代になったら、テレビに憧れていない人たちになってきていて悲しいです。何とかしてほしいですよ、本当に! 今はSNSでいろいろと言われる時代でもあるから、最低ですよ。昔はSNSもないし、お金もあって最高じゃないですか。
――今のお話も取り入れて、もう1冊本ができそうですね?
常に愚痴を言い続けていますからね(苦笑)。
――お話は変わりますが、お気に入りの本はありますか?
ときどき本を読んでいますが、昔のほうが読んでいましたね。事務所の先輩でもある爆笑問題の太田光さんはたくさん本を出されているので、ほぼ読ませてもらっています。とくに『笑って人類!』(幻冬舎)は分厚い本なのですが、もともと映画にしようとしていた話を本にしているのかなと。太田さんが考えていることや好きなことを垣間見られた気がするストーリーなので、映像化できたらいいのにな、と思いました
今は昔より自由な時間が少なくなったこともあって、以前ほど本を読む時間は減りましたが、気になったら電子書籍で読むこともあります。最近は、飛石連休の藤井ペイジさんが書いた、辞めていった芸人さんに話を聞く『芸人廃業 ダウンタウンになれなかった者たちの航海と後悔』(鉄人社)を読みました。
――ご自身でネタを作られていて、書くことには長けている井口さんですが、今後もし執筆をするとなったら、どんなジャンルでしょうか?
何でしょうね。ビジネス書を読んで何者かになっているやつは、「お前、何者でもないんだろ、読んだだけだろ」と思ってしまいますし。小説も「紅茶一杯飲むのに何ページかかるんだよ」とうざいですし、エッセイは昔好きでしたけど、急にカッコつけて書くようなのも腹が立ちますし。書くなら何にも起きないことを書きたいですね。
――では、本を読むことでもたらされるものは何だと思いますか?
こんなことを言うのも何ですが、本を読むのは無駄な時間だと思うんです。無駄な時間をあえて作って、そこで何かを吸収しようとするのって、ちょっとうざいじゃないですか。カッコつけて、本で何を得ようとするんだよと。でも、最近は意味の無い時間を作ることがなかなか出来なくなっている時代で、コスパやタイパと効率のことばかり気にする人が多いので、本を読んでいるときの一番無駄な時間をあえて作るのはいいことなのではないですかね。
それこそ太田さんはとても読書家で、ずっと本を読んでいて。若手の芸人が太田さんと話したときに「どういう本を読めばいいですか?」と聞いて、「いや、別に読まなくてもいいんだよ。俺は本が好きで読んでるだけだから。どれを読めばいいとかないし、時間があるならゲームしてもいいし、何だっていいんだ」と言っていたそうです。無理して享受しようとして読んでもしょうがない。ましてや僕の出した本を読むとしたら、無駄な時間なわけですが……そういう時間を過ごしてほしいなとも思いますね。
――無駄に思える時間だからこそ有意義でもありますが、『悪口を悪く言うな!』をどんな風に読んでほしいでしょうか?
自由に何を思って読んでもらってもいいです。みなさんは多分忙しく過ごしていると思うので、この本を読んでいる時間ぐらいは、1時間でも2時間でも何も考えずに過ごしてもらえればいいですね。
お話を聞いた人ウエストランド 井口浩之(いぐち・ひろゆき)1983年5月6日、岡山県出身。タイタン所属。
2008年11月1日、中学・高校と同級生だった河本太(こうもと・ふとし)とお笑いコンビ「ウエストランド」を結成。ツッコミ・ネタ作り担当。2022年、「M-1グランプリ」優勝。参加した漫才師7261組の頂点となる。趣味はサッカー観戦、フットサル、マインクラフト。ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。とろサーモン久保田とのレギュラー番組「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日系 毎週月曜 深夜1時58分)放送中。テレ朝Podcast「ウエストランド井口と吉住の孤独アジト」(毎週木曜 午前6:00)配信中。その他、テレビ出演多数。
タイタン ウエストランド公式サイト:https://www.titan-net.co.jp/talent/westland/
ウエストランド井口 公式X:https://x.com/westiguchi
オーディオブック版『悪口を悪く言うな!』
配信先:audiobook.jp
